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【読書メモ】失敗学のすすめ(畑村洋太郎)【#94】

この本が書かれれたのは2000年11月でした。当時でも、失敗は隠されていたのだと思いますが、現在は安倍政権や菅政権の影響で、さらに失敗を隠す、隠蔽するのが当たり前になってしまったように思います。でも、この本にも書かれているように、失敗に向き合えないということは同じ失敗を繰り返すということですし、もっと大きな失敗を防げなくなってしまいますので、やっぱり失敗に向き合うことは必要なのだと思います。

まず第1章で、失敗とは何かという定義を行なっています。失敗と言っても、小さな失敗から大きな失敗まで様々な種類がありますので、まずは失敗の定義をきちんとしないと、失敗を活かす方法も見つかりません。

この本では、「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」または「人間が関わってひとつの行為を行ったとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」としています。「人間が関わっている」と「望ましくない結果」がキーワードです。

第二章では、失敗の原因を次の10種類に分けています。
1.無知:本人の不勉強によって起こす失敗
2.不注意:体調不良や過労、多忙で集中できない時に起こる失敗
3.手順の不順守:決められた約束事を守らなかったために起きた失敗
4.誤判断:状況を捉えられない、または状況を正しく捉えたが判断を間違えた失敗
5.調査・検討の不足:判断する人の知識不足、または検討不足による失敗
6.制約条件の変化:はじめに想定した制約条件が変化したことによる失敗
7.企画不良:企画や計画そのものに問題がある失敗
8.価値観不良:自分や組織の価値観が、周囲と食い違っていることに起きる失敗
9.組織運営不良:組織自体が物事を進めるだけの能力を有していないことによる失敗
10.未知:世の中の誰もが、現象とそこにいたる原因を知らないために起こる失敗

第三章では、失敗情報が伝わりにくく、時間が経つと減衰することについて書かれています。ただし、客観的で分析的な事故報告書が良いということではありません。事件や事故の報告書が客観的にである場合、失敗情報から学ぼうとしている人たちには役に立ちません。本当に必要なのは、その失敗に際してその人が何をどう考えて、感じて、どんなプロセスでミスを起こしてしまったかという当事者側から見た主観的な情報だということです。

失敗情報を知識化するコツとしては、「事象」「経過」「原因(推定原因)」「対処」「総括」という記録の後に「知識化」というプロセスを入れることです。客観になりすぎず、最後に知識化する場合、実際にどうやって記述していくかについては119ページ以降に実例が挙げられていますので、本書を参考に書いてみるのが良いと思います。

第四~六章では、失敗を多角的に理解し、創造につなげていく方法を模索しています。

第七章では、ハインリッヒの法則で言うところの、最後の重大な事故、致命的な失敗を無くすための方法を考えています。その中で特に印象に残ったのは、労働災害の経験から、企業のトップが安全管理に意識して取り組んでいるか否かで罹災率は3倍違ってくるそうです。リーダーの資質、リーダーの心構え1つで結果が大きく変わることが示唆されています。一方で、現在の組織のリーダーたちは企業の萌芽期を知らずに、システムの一部として働きながらリーダーになってしまいました。そのため全体のことが分からないのに、力量を過信して采配を振るうことで、失敗を誘発する構造的な欠陥があることを指摘しています。

弊社においても、経営陣は与えられた仕事をそつなく、失敗せずに、少し小さくまとめ上げることに長けた人たちで占められてしまっています。彼らは、事故や災害が起こることが想像できないので、東日本大震災や豪雪、豪雨があるたびに会社の一部の機能が止まるにもかからず、そこから学んで対処するということが出来ません。むしろ、今回大きな災害が起きたから、しばらくは来ないよ!僕が定年になるまでは大丈夫!という無責任な発言を平気でするような状態です。そのため、3倍大きくなってしまうという部分にとても納得することが出来ました。

本書に出てくる「偽ベテラン」が、すべてを理解したつもりになって采配を振るったときに必ず起こる、と書かれているところに何度もうなずきました。

第八章からエピローグにかけて、失敗から学び、失敗を生かすシステムを作ることの重要性を説いています。しかし、失敗を嫌い、隠ぺいすることが当たり前のようになっている現在に、これは可能なのでしょうか。単なる理想論のように思えてなりません。組織のリーダーたちが率先して隠ぺいして、うまく法の目をかいくぐれたら、よくやったと言われるような組織が多いのではないでしょうか。物理学者のマックス・プランクは「科学は葬式のたびに進歩する」と言っています。引き際を誤った老人たちが蔓延っている現代では、会社にも当てはまると感じています。

おわり


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