もでりんぐ!! 三話

「今回の作戦はまぁまぁの出来だったな」
『はい、彼らの戦闘データもかなり収集することが出来ました』
「特に、彼の能力は素晴らしい」
『はい。彼らの中だけに留まらせておくのが勿体無いくらいです』
「彼の今後次第で、例の作戦を早めるのも得策だな」
『その時は手配いたします』
「あとは、例の研究者の行方だが……」
『未だ行方が掴めておりませんが、そのうち、良い知らせがお届けできるようにいたします』
「期待しているぞ。この二人が居れば、我らの勝利も近い」
『はい』
 三琴君の見事な初陣から三日が経ちました。
 三琴君が司令室へと避難した後の話をお話しなければなりませんね。
 あの後、怒涛の埴輪のレーザー攻撃やロケットパンチなどが炸裂し、それはそれは熱い戦いだったみたいです。間近で観戦してみたかったものです。
 しかし、クラップス星人もなかなか手強く、戦いは互角でしたが、突然ホイッスルの音が鳴ったかと思うと、彼らは一斉に退散してしまったそうです。
 まるで、サッカーの試合終了の合図みたいですねぇ。
 そんなこんなでクラップス星人は光のように現れ、光のように去っていったのでありました。
 敵が去った後、国防機関が学校の被害調査と修繕へと駆けつけ、戦闘の跡形は丸一日ですっきりとキレイになりました。
 機関の関係者筋によると、先の戦闘で被害を受けたのは、茶山陣学園の高等部のみらしく、他はまったくと言ってもいいほど襲撃を受けなかったそうです。
 しかも、被害の状況が一番重いのは、モデリング部の部室近くとのこと。
 これは、もしかすると、モデリング部を狙ってのことでしょうか?
「おい。また、長い語りに入ってんぞ」
 お。これはこれは、三琴君じゃないですか。おはようございます。
 語り中という入りづらい雰囲気にも関わらず、割り込んでくるというその根性、さすがです。
「嫌なら、スルーしていくぞ」
 あぁ! ごめんなさい。僕は構ってくれないと死んでしまう、弱い人間なんですよ。
「お前は、ウサギか」
 フフフ。脆いガラスのハートの持ち主なんですよ。こう見えても。
 それにしても、三琴君。初陣の活躍は、見事でしたね。
 あの後、帰宅してから、疲れからか直ぐに熟睡していたようですし。
 寝顔、可愛かったですよ。
「なっ。お前、見ていたのか!?」
 はい。パンダのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、スヤスヤと眠っている三琴君。
 コレが、ギャップ萌えと言うものなんですかねぇ。僕でも少しドキッとしてしまいましたよ。
「えっ」
 あ。そんなに引かないで下さいよ。そういう気は無いですから。
「どういう気だよ。話は変わるが、今回の狙いがモデリング部ということは本当か?」
 あくまで僕の憶測ですけどね。そんな気がしてならないんです。
 まぁ、ただの語り部である僕の予感なんで、外れているとは思いますけどね。
「ふーん……。げ」
 三琴君は聞いているような、聞いていないような生返事をした後、校門を見てギョッとします。
 なんとそこには、亀山先生が仁王立ちをしているではありませんか。
 なんだか、デジャヴを感じますね。
「よう。山吹に夏水。朝から元気そうじゃないか。元気ついでに、ちょっと、部室まで来てもらおうか?」
 亀山先生、おはようございます。先生も朝から三琴君を拉致しようだなんて元気ですね。
「先生、緊急事態でもないのなら、別に朝じゃなくて、放課後でもいい……」
「おやぁ? 例の作業スペース、通称パンダルームが完成したというのに、放課後でもいいのか?」
「……!! 行きます。今すぐ行きます」
 おっと、パンダの話題をふられると、目の輝き方が違いますね。
 三琴君の目はまるで、夢見る少年のように爛々と輝いています。
 ……、ってアレ? 僕が解説をしている間に、三琴君の姿が消えたっ!?
 まさか、見ていない間に、宇宙人によって三琴君がキャトられた!
「いや。山吹なら、一目散に部室へ向かって走っていったぞ?」
 なんと! パンダのことになると、本当に進行までも無視するんですから。三琴君には困ったものです。
「あー、幸せ」
 モデリング部部室にある作業スペース。そこに新たに作られた三琴君の作業用スペース。
 そこは、パンダ型のデスク、パンダがぶら下がっているライト、パンダがあしらわれたモデリング用の道具、ありとあらゆるものがパンダで埋め尽くされた、まさに異空間。
 トロけた表情で、パンダのぬいぐるみに頬ずりをしている三琴君の姿がそこに居ました。
 うわぁ……、この顔を写真に収めて、三琴君のファンに見せたら、一体、何人が彼に幻滅してしまうのでしょうねぇ。それくらい、三琴君のクールさが一切感じられません。
「何もかもがどうでもよくなりそう。パンダ天国が此処にあったんだ。いや、パンダオアシスか。あぁー、パンダァ……」
 魔性のパンダの力で、三琴君がなんだかよく分からない単語を発し始めましたよ。
 パンダ恐るべし、三琴君、現実に帰ってきてくださいー。
「もう俺、ここに住むー」
 おぉっと、あんなに嫌いだったモデリング部に住むという、大胆発言が飛び出してきました。
 これでいいのか、主人公!
「これがパンダの魔力か、フッ、恐ろしいな」
 そんな光景を冷静に分析する先生。
「住むのは大いに結構だが、部活動はちゃんとしろよ。今日は放課後、ミーティングするからな」
「分かっていますってぇ。嗚呼、パンダ可愛いよ、パンダ」
 分かっているのかさえ曖昧な返事を聞いた後、亀山先生は、部室を出ていきました。
 さて、このパンダしか見えてない人、どうしましょうか?
 三琴君、そろそろ授業始まりますよ?
「授業なんていい。パンダオアシスに浸っていたいんだ」
 いやいや、ダメですって。こんな僕がいうのもアレですけど、勉強は大事なんですから。
 僕の説得も効かずに、三琴君はパンダルームから一切離れようとしません。
 くっ。かくなる上は、最終手段に出るしかなさそうですね。
 三琴君、なんと臨時速報です! 今SPクラスにパンダ型の宇宙人が攻め込んできたようです! 早く行かないと、宇宙人が殲滅されてしまいますよ!
「えっ、その話本当か!」
 先ほどまで僕の話を聞かなかった三琴君が、パンダの話題になると、一気に食いついてきました。
 はい、どうやら三体いるとの情報が入ってきました。早く行かないと行けませんね。
「そいつは大変だ。早く行って保護してあげないとだな。コレクションにしないと」
 そう言って、三琴君はまるで光のように部室から出て行きました。
 ……。あとで、問い詰められたら謝っておきましょうかねぇ?
 昼ごはん休憩。むっすーと膨れた三琴君が、じっと僕のほうを睨めつけています。
「……フン」
 三琴君、機嫌直してくださいって。あれは、やむをえない嘘だったのですって。
「嘘にやむを得るもやむを得ないもあるものか。折角パンダオアシスで幸せだったのに」
「え? パンダオアシスってなぁに?」
「渉には関係ないから、黙ってろ」
 いつもと違う三琴君の威圧感に、縮こまる渉少年。
 あー、これは。三琴君、本当に怒っていらっしゃる様子。
 すいません。そんなに怒るとは思っていなかったのです。この通りです、許してください。
「もう、こんな嘘はつかないと誓うか?」
 ど、努力はします。という僕の言葉に、三琴君はため息を一つつく。
「今回は許してやるけど、今度やったらマジで許さないからな」
 はい。心の中に留めておきます。
「よし、許す。あー、怒っていたらお腹減ってきたなぁ、ご飯を食べるか」
 三琴君は、鞄からお弁当箱を取り出そうとしたその時。
『キャー!』
 教室で女子生徒の甲高い悲鳴が響きます。
 一体どうしたのでしょう?
 悲鳴が聞こえたほうを見ると、女子生徒が椅子から落ちてしりもちをついています。カメラアングル次第では見えてしまいそうですね。
「そんなこと言っている場合か」
 ついつい健全な青少年の心理が働いてしまいました。
 気を取り直して、彼女に一体何が起こったのでしょうか?
「一体どうしたんだ」
 三琴君が女子生徒のもとへ駆け寄ると、女子生徒は机の上を指差しました。
「いきなり小さい生き物みたいなものが飛び込んできて、私のお弁当を食べて逃げたのよ」
 三琴君が彼女のお弁当箱を見ると、おにぎりが一つ無くなっていました。
 それにしても、小さい生き物ですか、リスか何かですかねぇ?
「リスなんて、茶山陣辺りには確か生息していないぞ」
「うわっ」
 今度は、渉少年の悲鳴みたいな声が聞こえました。
「渉どうしたんだ」
 その声を聞きつけて、三琴君が駆け寄ります。
「みこちゃん、コレ見て……」
 渉少年が震える指先で自らのお弁当箱を指差します。そこには……、
 緑色のグラデーションがキレイな長い耳、そして目はくりくりしていて、蒼玉のような色の体長15センチほどの未知の生命体がそこに居ました。
 その生命体は渉少年のお弁当に入っていたから揚げを、行儀良く座って食べていました。
「なんか、可愛くない!?」
「えっ、そこかよ!?」
 渉少年はすっかりこの生命体の虜らしく、メロメロのご様子。確かに、可愛いかもしれませんね。
「夏水もかよ!? ってか、コレ、そんなに可愛いかぁ? パンダのほうが何百倍も可愛い気がするが」
 三琴君はそういいながら、から揚げを食べてご満悦の生命体をひょいと摘み上げました。
 攻撃されるかもしれないという危険を顧みず、易々と未知の生命体を摘み上げる三琴君、彼の心臓は剛毛なのかもしれません。
「というか、コイツ、見るからに地球外生命体だよな? 一応、先生に報告するべきだな」
 そうですね、侵略者かも知れませんので、報告は大事だと思います。
 すると、いきなり、SPクラスのドアが勢い良く開けられ、タイミングよく亀山先生が入ってきたではありませんか!
 まるで、先ほどまで様子を伺っていたような感じですね。
「長老! ここにいらっしゃったんですね!」
 なんと、亀山先生は三琴君が摘んでいた未知の生命体に向かって、長老と呼びました。
 長老ということは、偉い人(?)なんですね、きっと。
「長老? コレが?」
 三琴君は、摘んでいる生命体をまじまじと見つめますが、どうやらイマイチピンときていない模様。
「詳しい話はまた放課後する。一先ず、山吹、長老を解放してくれないか」
 すっと亀山先生は両手をお椀型にして差し出すので、三琴君はその中に、長老を放します。
「探しましたよ、長老。お話は別室にて聞かせて頂きますので」
『@mgklsdfgnsdnl;al ,rkkmgf,d』
 長老の言っている言葉が地球上の言葉なのかそうではないのかのtが全くつきません。
 つまり、何を言っているのか、さっぱり分からない!
「はい、今回もちゃんとお茶菓子、ご用意していますよ」
『bngjknfgj;s;d,fskgnuhjkndasnl;』
 先生にはどうやら通じているらしく、二人、長老を人として数えても良いものか悩みますが、SPクラスから出て行きました。
 それにしても、三琴君。
「なんだ?」
 亀山先生の敬語を言っているところって初めて見ませんでしたか?
「そういえば、そうだな」
 放課後、部室に集められた三琴君達。
 司令室では、亀山先生と例の長老が待ち構えていました。
「「わぁ、何その生き物!?」」
 入った途端に宮前兄妹のハモリが木霊します。
 兄妹は目を輝かせて、司令室の机にいた長老をまじまじと見つめます。
「紹介しよう。この方は、宇宙中立連邦議会の最高位長老である、カクバッタ・ザイモーク氏だ」
『ngenfjhew;pa;sdl』
「よろしくと仰っている」
 先生は、易々とカクバッタ長老の通訳をやってのけますが、僕を始め、部員達は全く長老の言葉が理解できません。
「先生、よく言葉が分かりますね、僕にはさっぱり」
 楓原部長がそう言うと、先生は大層自慢げに自らの耳を見せ付けます。そこにはイヤホンらしきものが見えます。
「これぞ、宇宙語翻訳装置だー! これで、何処の星の言葉でも手に取るように分かるのだ!」
 あー、なるほど。通訳装置ですか。だから、瞬時に言葉が理解出来ているのですね。すごい。
 ところで、そんな凄いモノ、一体何処で手に入れたのでしょうか?
「これか? 何処かの国で襲来してきた宇宙人を捕虜として捕らえたときに、身に付けていたのを発見したらしい。それを、人間向きに開発したのが、コレだ」
「先生だけずっるーい。俺たちにも頂戴!!」
「そーだそーだ!」
 またもや、宮前兄妹が仲良く、先生に通訳装置を要求します。
「そう言うだろうと思って、ちゃんと人数分用意してあるぞ」
「「わーい!!」」
「ただし、今からミーティングをちゃんと聴くと約束する奴にだけ配布する。とっとと席につけぇ!」
 先生の合図で部員全員が各々の席に着きます。それから、先生からイヤホン型の通訳装置が配られ、各自耳に装着しました。
「なんだか、スパイ映画みたいだね」
「スパイ……。ボスと下っ端とのロマンス。最高だわー」
 静流副部長の言葉を何故か湾曲して、山菊先輩は萌えていますねぇ。この人、何でもそういう風に働くフィルターでもあるのでしょうか?
「大事にしろよ。これから長老のありがたい言葉がある。心して聞くように」
「ちょっと待った」
 長老が話そうかと思ったその時、三琴君がソレを止めます。
「どうした、山吹」
「長老の話を聞くにしても、俺たちは今配られた通訳装置があるから、困りはしないけど、夏水は持ってないから困るんじゃないかと思って」
 えっ、三琴君、まさか、僕の心配をしてくれるんですか。
 僕は、唯の語り部なので、このミーティングを聴いているだけで差し出がましい存在なのに。
「そろそろ、この部の部員も当然になりつつあると思うけどな」
 僕は……ません。
「今、何か言ったか?」
 あ、いいえ。何でもないですよ。三琴君の優しさに泣きそうになってきますねぇ。
 でも、ご安心ください。先ほど、僕にも通訳装置が手渡されましたので、これで、心置きなく長老の話に集中できますので。
「そうか?」
「始めていいか?」
 あ、僕なんかで手間を取らせてすみませんでした。長老さん、有難いお話をどうぞ。
 そして、小さい長老は話し始めた。
『宇宙中立連邦、最高位長老のザイモークです。今回は、友好協定を結んでいる地球人へ、警告をしに参った次第です。我々が仕入れた情報によると、クラップス星人が宣戦布告してきます』
「宣戦布告だと……」
 宣戦布告、つまりはクラップス星人が全力で地球へと攻めて来るということでしょうかねぇ。この長老の衝撃発言に、部室の中がどよめきます。
「前回、攻めてきたじゃねぇか。その時は、逃げるようにして撤退して行ったが、それは違うのか?」
 塩原君の質問に、長老の答えはNO。
『それは唯の調査に過ぎないと思われます。恐らく、貴方たちの力を調べていたのでしょう。彼らはとても頭がいい。地道に調査を重ね、その結果から強力な武器を生み出していく。その武器で侵略された星は少なく無いのです』
 長老の言葉に、ゴクリと三琴君は生唾を飲み込みました。
『クラップス星人のやり方は、中立連邦でも問題視されています。そこで、クラップス星人に対する我々が出せる限りの情報を、貴方たち地球人に提供します。ですから、お願いです。クラップス星人の侵略を止めて頂けないでしょうか?』
 え、連邦でも困っているクラップス星人を三琴君たちで倒せということですか?
「そんなの、無茶だろ」
 三琴君の頬に冷や汗が流れます。
 三琴君の言うとおり、そんなの無謀過ぎます。またいつ、クラップス星人が攻めてくるか分からないですし。
「いや、まだ攻めてこないハズだ」
 先生は、そう啖呵を切ります。
 その根拠は一体なんですか?
「長老の話によると、彼らは今必死に探しているものがあるそうだ。ですよね? 長老」
『はい。我々の調べによると、彼らは貴方たちの使っている“クレポン”を作った科学者を探しているようなのです。その科学者が持っている、クレポンの真のレシピを狙っているみたいなのです。そのレシピを手に入れ次第、彼らは行動するようです』
「クレポンの科学者って確か、クレポンが兵器利用されてから直ぐに謎の失踪を遂げていますよね?」
 部長さんの言うとおり、クレポンを作った科学者は、クレポンが兵器として採用され、兵器利用されて後に失踪して、現在行方が分かっていないのです。
 その科学者が持っている真のレシピですか……、気になりますね。
「そのレシピを手に入れたら、どうなるんだ?」
 三琴君の質問に、先生と長老の顔が青ざめます。
『レシピには恐らく、クレポンの弱点が書かれているのではないか、という我々の見解なのですが。その真偽はわかりません。しかし、貴方たちが圧倒的に不利になってしまうのは確かなのです』
「肝心の科学者の行方は政府の方へ任せるという話になっている。モデリング部としては、クラップス星人の完全襲来に備えて鍛えておかないといけないという方針になった。ということで、今後はビシバシとクレポン制作に勤しむこと。皆、いいな」
 先生の一言に部員達は、『はい!』と元気良く返事をしました。
 それにしても、クラップス星人を倒す。なかなか骨が折れそうですよね。語り部の僕としては、皆さんの活躍を実況できるのがとても楽しみではありますが。
 ん? 先ほどから、長老が僕の方をじっと見てくるのですが、僕、何か変なことでも言いましたでしょうか?
『そこの貴方、何処かで見たような気がするのですが。気のせいでしょうか?』
 え、僕のことですか? 僕は、唯の一般人、恐らく人違いですよ。
 さて、カクバッタ長老からクラップス星人の野望を聞かされた、モデリング部一同。
 そんな爆弾発言を投下して言った長老は、亀山先生が送り届けてくるということで、部室では、部員達が今後の作戦会議を始めました。
 楓原部長がホワイトボードに【今後の対策について】と書き込み、トントンとペンでホワイトボードを叩きます。
「さて、どうしようか」
 一同、手を顎に当てて、ウーンと悩むこと10分ほど。
「はいはーい!」
 最初に手を挙げたのは、宮前妹。
「はい、花梨さん」
 指名された宮前妹は勢い良く起立します。
「こうなったら、敵陣にどどーんと奇襲を仕掛けるとか」
 ま、まさかの敵に攻撃を仕掛けるパターン。流石、宮前兄妹の片割れ。いう事の規模が違います。
「敵陣、何処にあるか分かったら苦労しないですよねぇ」
 あ、そっか。と宮前妹は、あっさりと着席します。
「提案というか、素朴な疑問なんだけど」
 おーっと、此処で三琴君が手を挙げます。部長から名前を呼ばれ、立ちます。
「どうして、あちらは、クレポンの真のレシピを科学者が持っているのを知っているのだろうか」
「あ、言われてみれば」
 三琴君の疑問に静流副部長が頷きます。
「僕達はクレポンを使っているから知っているけど、相手方は存在自体知らないだろうし。もし、他の星の奴らから聞いたとしても、真のレシピのことまでは知らないはずだ。僕達もその存在を今さっき知ったばかりだし」
「つまり、クレポンを作っているところに、クラップス星人の内通者がいるってこと? なんだか、ミステリーみたいだわ」
「もしくは、科学者はもう既にクラップス星人に捕らえられていて、真のレシピの存在を知ったけど、科学者の手元には無くって探しているとか?」
「それなら、未だに科学者の消息が掴めていないのは理解できる……」
「でも、それなら……」
 三琴君の疑問に、話が白熱し始める高3軍団。他の面々は、わけも分からず置いてけぼりを食らっています。
 僕はちゃんと理解出来ていますからね。お三人さんの言っていることは。
 簡潔にまとめると、クレポン=宇宙スタンダードってことですよね!
「簡潔に纏めすぎだろ。科学者のくだり、全部すっ飛ばしてるじゃないか」
 おや、三琴君、ナイスツッコミです。会話に付いていけなくて、放心状態になっていたのかと思っちゃいました。
 科学者さんやレシピのことですが、そんなに重要なモノなら、肌身離さず持っていると思いますよ。レシピなんて、金庫とかに入れてもし燃えたら一大事ですよ。
「言われてみればそうだよな。ということは、まだクラップス星人もターゲットを見つけていないと見ていいのか」
 そう思って大丈夫だと思いますよ。あくまで僕の勘ですけど。
「そういえば、長老、結構、“真”ってところに力いれてたねー。なんでだろ」
 今度は宮前兄が発言を開始します。
「レシピや設計図って大体、企業秘密でしょ? 今回は国が動かしているから、国へは公開されているとしても、他のところには見せないでしょ、普通」
 宮前兄の発言に、周囲は驚いたようで、口をあんぐりさせています。
「ん? どうしたの?」
 宮前兄は、いささか不思議そうに首を傾げます。
「宮前兄貴の方が、まともなことを言っている」
 山菊先輩は目を見開いたまま微動だにしません。
「桔梗は家では結構、こんな感じだよー。えっへん、すごいでしょー」
 宮前妹は、自慢げにそうに胸を張ります。いえ、褒めたのは貴方じゃなくて、お兄さんのほうですよ。
 一方、宮前兄のライバルを自称している塩原君は、悔しそうにハンカチを噛みます。
「くそぅ、桔梗に良い所を取られた」
 彼にスポットライトが当たる日は……、当分なさそうですね。
「レシピのくだりは、先生に政府へ問い詰めてもらうとして、他に何か意見ないかなぁ」
「じゃあ、あともう一つ」
 再び、三琴君が手を挙げて立ち上がりました。もしかして、三琴君、出たがりですか?
「いや、違うし。ふと思ったことなんですけど、あの発射台って必要なんですか?」
 三琴君の発言により、場の空気が凍りつきます。
「よりにもよって、それを、言っちゃうかぁ……」
 楓原部長は重いため息をついてうな垂れます。
「モデリング部のタブーを簡単に口にするなんて、ルーキー君、恐ろしい子っ!」
「いや、だって、発射台無かったら、出動が楽になるだろうと思って」
 あまりの重苦しい空気に三琴君はオロオロしながら答えます。こういう三琴君の姿も珍しいですよね。
「発射台を使うのは、司令室の場所を敵に悟られない為なんだ。あと、もう一つ、重大に理由があって……」
 深刻そうに、部長が口を開きます。一体、どんな重大案件が隠されているのでしょうか?
「クレポンはドアを開けられない」
 え?
「は?」
 え、一体どういうことですか、クレポンがドアを開けられないって。
 まさか、クレポンに重大な欠陥がっ!
「クレポンにドアを開けるように命令しようにも、自分達がどのようなプロセスでドアノブを回しているのかが上手く脳内で表現できないんだ」
 あー、操縦者のコントロール系の問題でしたか。なんとなく、その歯がゆさは分かるような気がします。
「だから、発射台から出動させるようにしているんだ。その方がロマンもあるし」
 ですよね! やっぱり、ロボットなんかの出動は発射台からの発射ですものね!
「なんで、そこで白熱してるんだよ。まぁ、ドアが開けられないなら仕方ないなぁ……。後は、カプセル装填スピードの向上とクレポン増産が今後の課題という所ですかね」
 おー、最初はあんなに入部を嫌がっていた三琴君がまじめに今後について考えている。母さん、三琴君が立派になって嬉しいわぁ……。
「お前、母親違うだろ。ということで、部長……」
「ん? なんだい?」
「コレから、オアシスに引きこもってきますので、邪魔しないで下さいね。ついでに、夏水も邪魔したら、コロスから」
 三琴君はニッコリと笑うと、瞬く早さで作業室へと向かっていってしまいました。
 それにしても、怖っ。あの、真っ黒い笑みを未だかつてみたことがあったでしょうか。否、無い!
「アレが、パンダパワー……」
 そういう部長さんの顔は青ざめていました。
 三琴君が作業部屋に篭もって、一時間が経過しました。
 他の皆さんはというと、作戦会議は終了して、各々の作業に没頭している最中でございます。いやぁ、静かだから、作業が捗りますね。
 僕は、今、三琴君がどんなことをやっているのか気になって仕方がないんですけど、邪魔したらコロスといわれていますからねぇ……。どうしたものやら。
「じゃあ、私達が見に行って来ようかー?」
 宮前兄妹が二人そろって立ち上がります。
 え、様子を見てきてくれるのですか? 何をされるか分かりませんよ?
「だぁいじょうぶだって。俺たち兄妹は二人揃えば無敵なのだー」
「なのだー。シャキーン」
 兄妹仲良く、戦隊ヒーローのような決めポーズ取ります。本当に大丈夫なんでしょうか?
「じゃあ、行って来るねー」
 僕にヒラヒラと手を振って、ルンルンとハミングを口ずさみつつ、作業部屋へと入っていく宮前兄妹。
 五分後、兄妹がガタガタと震えながら帰ってきました。
 お二方のこの様子、ただ事では無さそうですねぇ。一体、どうしたんですか? 三琴君、何してました?
「ぱ……」
 ぱ?
「パンダ絶対王政が……」
 パンダ絶対王政? 一体どういう意味でしょう?
「パンダ絶対王政が築かれていたよ、トラウマレベルの」
 何ですか、ソレ。余計気になるじゃないですか!!
「そして、騒いでたら追い出されたのだー。ぐすん」
 嗚呼、覗いて実況中継したい、でも、覗いたら殺される。僕はどうしたらいいんだ!
「あのぅ、すいません」
 僕が、苦悩に悶絶しているところに、学園のマドンナ的存在、菜音さんの姿が見えました。
「ここって、モデリング部であってますか? ノックしたんですけど、誰も出てこないんで、勝手に入っちゃいました」
 彼女はキョロキョロと辺りを見回しながら、尋ねます。
「そうですよ。何か御用でしょうか?」
 楓原部長がすばやく対応します。
「良かった。間違えていたらどうしようかと内心思っていました。えっと、山吹三琴君って、まだ部室に残っていますか? 一緒に下校しようと思って」
「まだ、部室にいるんですけどねぇ……。ちょっと、立て込んでいて。一応呼んでみますけど、出てこなかったらすいません」
「あ、いいえ。忙しかったらいいんです。私が約束もせずに勝手にやって来たことですから」
 菜音さんはそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべます。
 あ、そうだ。僕、良い事を思いつきました。菜音さんが作業部屋に入っていけばいいんですよ。
「え、私がですか?」
 不思議そうに自らを指差す菜音さん。そうです。菜音さんが中に入っても、恐らく三琴君は、怒ったりしないと思いますし、何より、僕が中の状況を実況出来るのですから、一石二鳥なのです!
「はぁ……」
 さぁ、菜音さん、そこの扉を開いてください! さぁ!
 僕に促されるがまま、菜音さんが作業部屋の扉を開けます。
 そして、そこに広がっていた光景は……、
 何処かのB級ホラー映画に出てきそうな、ゾンビ化したパンダ。その数二十ほど。
 この作業部屋自体が異空間と化したと錯覚しそうな、異様な雰囲気の中、ゾンビパンダを作り出した本人はというと、
「クッヒェッヒェ。燃やせ燃やせ。パンダファイヤーによって、宇宙人を殲滅するのじゃ……」
 ……もう、直視できないくらい、パンダに陶酔しちゃっています。というか、このゾンビパンダ、良く見ると恐ろしいくらいに……、
「可愛い!」
 え。
 菜音さんから放たれた可愛いの一言に、僕の気持ちはドン引きです。
 この人も、三琴君と同じ感性の持ち主ですかっ! もしかして。
「あれ、菜音。どうして、ここに」
 先ほどの菜音さんの一言で正気に戻ったらしいですね、三琴君。菜音さんが三琴君と一緒に帰りたいらしいので、中に招いた次第ですよ。
「この間のお礼も言いたいと思ったの。私、あの後休んじゃって、お礼を言わず仕舞いだったから。ダメかな?」
「家が近所なんだから、直接言ってくればいいのに。というか、お礼されるほどのことなんてしてないからなぁ」
 そう三琴君は、照れくさそうに頭を掻きます。
「ちょっと、家に行くのは恥ずかしくて」
 菜音さんは、頬を紅潮させます。
 な、なんですか、この甘酸っぱい空間は! 見ているこっちが恥ずかしくなってしまいます。コレが、俗に言うリア充ってやつですか!
「夏水、煩い。まぁ、菜音がわざわざ来て、断るのは気が引ける。いいよ、一緒に帰ろう」
「ホント!! 嬉しい。三琴君ありがとう」
 菜音さんは屈託の無い笑みを浮かべます。可愛いですねぇ、学園のマドンナというのも頷けるような気がします。
「そうだ、下校ついでに、前言ってた喫茶店でも行くか? パンケーキのところ」
「え、本当!? 行く行く!」
「じゃあ、決まりな。帰る準備するから、部室の前で待っといて」
「分かった」
 菜音さんは、嬉しそうにパタパタと作業部屋から出て行きました。
 待って下さい。この流れ、もしかして……。
 “ デ ー ト ”って奴じゃないですか?
「なっ、な訳ないだろ」
 そういう三琴君の顔は真っ赤なりんごのようでした。
 三琴君、見かけによらず、ウブなんですね、コレは、いい発見をしました。ニシシ。

#創作大賞2023

四話へ
https://note.com/kuromaku125/n/nf3f3f431d3c5

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