もでりんぐ!! 二話

 モデリング部の部室の中にある司令室。サイレンが鳴ったらモデリング部の部員達はここに集められ、危機管理対策室から送られて来る、襲来宇宙人に対する対策を練ります。
 そこへとやってくる、亀山先生ご一行。副部長を始め、残りの部員達はすでに集まっていました。
「さて、ミーティング始めっぞー」
 亀山先生は、三琴君の入っている袋をやや乱暴に下ろし、硬く結ばれていた結び目を強引に解きます。すると、半目で伸びている三琴君の表情を伺うことができました。
「山吹、いつまで伸びているんだ。起きろ」
 亀山先生が三琴君の頭を、なんと、足で踏みつけたー!
 とある界隈の方達にとっては、涎が出そうなくらいのご褒美ですね。
「痛ってぇ……」
「痛いことは生きているということだな。コレで一安心だな」
「何処が一安心ですか。あー、首が取れるかと思った」
 大丈夫ですよ、三琴君。もし首が取れたら、僕がくっつけてあげますよ、瞬間接着剤で。
「夏水、それは謹んで遠慮する。先生の方は、強引に連れ出すのは止めて下さい。俺の体がいくつあっても足りません」
 接着剤を持ってニッコリと笑う僕に嫌な顔で応対する三琴君。
「じゃあ、大人しく入部届けにサインすることだな」
 先生は、またまた入部届けを三琴君に突き出します。
「先生も懲りませんね」
「しつこさだけは、誰にも負けないのでね。さ、ミーティングするぞ。山吹は此処に居る限りは安全だからゆっくりと考えることだな。絶対に逃げようとは考えるなよ。此処を出ると危険だからな」
 先生は三琴君に釘を刺し、作戦会議へと入りました。
 この司令室は、学校に設置されているシェルターよりも強固な作りなのです。本丸に襲来されて潰されても困りますからねー。だから、先生の言うとおり、ここに居る限りは、死ぬってことは無いので、そこの所は安心してくださいね。ただし、外に出たら命の保障は出来かねますけど。
「チッ。分かったよ。居ればいいんだろ? 居れば」
 そういうことです。あ、どうせなら、作戦会議とか戦闘とか見学しませんか?
「え、なんで」
 三琴くんは訝しげに僕に問います。僕、こういうの見るの、とてもウズウズしちゃうんですよねー。
「それは、語り部の性っていう奴か?」
 それもあるかもしれないですけど、男として、熱い戦闘シーンとかワクワクしません?
「俺は別に?」
 三琴君って本当にクールですよねぇ。男の子は、友情・努力・勝利の3つの要素があれば、誰だってワクワクするって、授業で習いませんでした?
「どんな授業だよソレ。そんなに言うなら、夏水が1人だけで行けばいいだろ」
 ……え。そんな事言わないで、三琴君も一緒に行きましょうよ。僕は、主人公である、三琴君の活躍を逐一語らなければならないという使命があるのです。語り部として!
 それをさせてくれないのだなんて、僕に仕事をするなというのと一緒なのです。ここで、仕事をさせろ、と抗議の意味を込めて駄々をこねますよ。今から実演しましょうか?
「見ているコッチが恥ずかしくなりそうだから、止めておけ。分かったよ、見るだけだからな。戦闘には参加しないからな」
 はいはい、分かっていますって。それでは、レッツゴー!
「わざわざ、モデリング部が設置されているこの学校を直接攻めてくるとは。なかなか頭のキレる奴が相手方に居るみたいだな」
 司令室。設置された大画面モニターを見て、先生は口角を上げる。
 モニターには、茶山陣学園の校舎の様子が映し出されておりました。
 校舎では、ギラギラと輝く、半透明の人型っぽい物体が、何やら長い棒状のようなものを銃のように持っている様子。
 おっと、その棒状から、何やら光線が放たれ、命中したブロック塀が溶けちゃいましたねー。あれは、一体。
「高圧縮のレーザーだな。アレに当たったら、人間は一瞬でジュワって蒸発もんだ。というか、お前ら居たのか。もしかしたら、参加したくなったのか。歓迎だぞ?」
 いえ、僕と三琴君は見学なので悪しからず。それより、何やら高度な技術を持ち合わせいる襲来者さんですねぇ。僕達では敵いそうになさそうなんですが。
「奴らはクラップス星人というらしい。結構高度な文明を持っていて、その技術力で多数の威力の強い武器を製造。その武器で攻めてくるものだから、彼らにすでに侵略されている地域が海外では出ているらしいぞ」
 えぇ! そんなに強い襲来者なのですか。だ、大丈夫なんですか?
 僕の心配を余所に、先生はドヤ顔でこう答えます。
「そんな武器ごときで、クレポンが倒れるものか。これは、あいつ等の技術を遥かに上回るシロモノだ。それに、こっちには、造形のエキスパート達もいるからな」
 おー! 先生から凄い自信が溢れています。
 でも、戦うのって、モデリング部の生徒達ですよね?
「……。さて、そろそろ出撃するぞ。準備はいいか!」
 あ、今、目線を逸らしましたね。大人はキチンと発言に責任を持ってくださいね。
 それはともかく、そろそろ出撃のようです。
 今回、戦闘に参加するのは、楓原君・山菊さん・宮前兄の三人。
 この、三人という少人数で、果たして大丈夫なのでしょうか?
「一気に出撃すると、力が分散するだけだからな。時間差で残りのメンバーを投入するのさ」
 アタシの戦略は完璧なのさ、と先生は鼻高々にいいます。
「さぁ、出撃だ!」
 先生の合図で、ドン!と大砲が発射されたかのような轟音とともに、校舎へと、直径およそ二メートルのカプセル状のものが、5個投げ込まれます。
 クラップス星人はぞろぞろと集結し、カプセル状の物体を興味津々に取り囲みます。すると、そのカプセルが真っ二つに割れ、中から、萌え系の美少女が出てきたではありませんか。
 ……あの美少女を作ったのは、部長さんですかね?
「そうだよ。よく分かったね! 戦う美少女って華があっていいと思わない」
 楓原君は、美少女アニメが大好きで、その愛を存分にクレポンに込めるそうです。
 すると、あら不思議。可愛い戦う魔法美少女の完成なのです。
 ピンク色のツインテールを揺らしながら、少女は襲来者にステッキを構え、不敵に笑います。
「やっぱり、魔法少女といったらツインテール! しかも、ピンク色って現実にはまず無い髪の配色が重要だよね。あと衣装。華美すぎず、且つ、動く時に可愛さを強調するように、計算されたこのふわふわのスカートの形式美! 素敵だと思いませんか!」
 楓原君は目を輝かせて語ります。
 あー……。もしかして、この人、三琴君と同類ですかね。
「同類とは失礼な。俺は、美少女になんて興味ないぞ。俺が好きなのはパンダだ」
 それは分かっていますとも。いや、好きなモノに対するベクトルが変な方向へ向いている同志じゃないかと思いまして。
 三琴君が納得していない表情の中、モニターでは残り4つのカプセルが割れました。
 一つは、ロボットアニメに出てきそうな、重厚そうなロボット。もう3つは、ひょろっと縦に長い棒人間のような物体。
 ロボットの方は、山菊先輩の力作ですね。
「そうなの! 私の愛を込めて作ったGUNSEI―SCよ」
 おー、名前もなんだかカッコイイですね。必殺技も凄そうです。
 で、この棒人間の方は、もしかせずとも、宮前兄の作品ですかね。
「そうだよー。シンプルに重点を置いてみたよ」
 うん、シンプルなのはとてもデザイン的には重要かもしれませんが、限度というものがあると思いますよ。あの棒人間、頭が重すぎてフラフラしてるじゃないですか!
「大丈夫だよー。そこも計算に入っているし」
 宮前兄の後ろから宮前妹がひょっこりと顔を出します。
 そういうことなら、動向を見守るしかなさそうですね。
「さぁて、アタシたちの力を奴らに見せてやろうじゃないか。攻撃開始!」
 先生の攻撃開始の合図で、三人は、ゲームのコントローラーに似たクレポンの操作リモコンでコマンドを入力し、クレポン達に攻撃を命令していきます。
「いっけぇ! 流星マジック少女ユサリーン。君の星のパワーでクラップス星人なんてメロメロにしちゃえ!」
 楓原部長は興奮気味でコマンド入力すると、少女型のクレポンはクラップス星人に向けてステッキを構えて不敵な笑みを浮かべます。
「メテオラブリークライシスだー!」
 部長さんが叫ぶと、少女はステッキを思いっきりスイングして、クラップス星人を吹っ飛ばしたーーーーーー!
 攻撃名のわりに、物理攻撃なんですね、コレ。
「ユサリーンのスカートの揺らし具合を最大限に活かした必殺技だよ。嗚呼、可愛いよユサリーン!」
 血走った目で楓原部長がそう力説するのですが、これは、引きますねぇ。
「GUNSEI―SCの最強奥義、分裂パーンチ!」
 おっと、山菊先輩も何やら必殺技を繰り出すようですね。
「というか、ここのメンバーは必殺技を口頭で言わないといけないルールでもあるのか?」
 必殺技は口に出してナンボなんですよ、三琴君。
 山菊先輩の言葉一つでなんと、GUNSEI―SCの手足が切り離されて、それらが数人のクラップス星人をタコ殴りします。
「うわぁ……、容赦ねぇ」
「はははー! 正義は勝つのだ!」
 山菊先輩はそう、悪どく笑います。コレでは、どっちが正義で悪か分かりませんねぇ。
「こっちも負けていられないねぇー」
 宮前兄はニヤリと笑いながら、まさにゲームをするかのように、リモコンを押していきます。
 すると、フラフラと首が据わっていない棒人間がよろけながら、クラップス星人にラリアットを食らわせます。
 すると、
『スパッ』
 と、聞こえるかのように、クラップス星人が真っ二つに……。
 えっ、真っ二つ!?
「腕と足の片側を刃みたいに鋭くしてみたんだー。当たるとスパスパ切れるよ」
 と宮前兄は楽しそうに説明してきます。
 一番えげつないのは、もしかして、この兄妹なのかもしれません。
「キャーーーーー!」」
 僕と三琴君が宮前兄妹のえげつなさを実感している最中、いきなりモニターの方から悲鳴が。
「一体なんだ!?」
 先生が急いで、メインモニターへ違う画面を切り替えると、そこにはクラップス星人に取り囲まれた一人の少女が見えます。
「避難警報が出ていたはずだぞ。なんでまだ生徒が校舎にいるんだ」
「あれは……、菜音!」
 モニターに映し出される少女に見覚えがあるらしく、食い入るようにモニターを見ます。
 菜音、向島菜音さん。高等部1学年のマドンナで、三琴君とは小等部からの幼馴染です。
 そんな彼女が今、クラップス星人の魔の手に脅かされているようです。
「なんで菜音があんなところにいるんだ」
「生徒の救出が優先だ。第二部隊を出動させるぞ」
 先生の指揮で出動させようとしますが、
「ダメです。カプセルの発射台への装填がまだです」
「くっそ。一刻を争うっていうのに」
 爪を噛む先生を横に、三琴君は何やら考え事をしている様子。
「モニターに映っている場所、此処から近いですよね?」
「あぁ、そうだが?」
 先生の答えに、三琴君は一つ深呼吸をし、
「俺が今からクレポン兵器を作って、菜音を助けに行きます」
 三琴君はそう言って、クレポンを掴んで、空いている椅子に腰掛けました。
 それにしても、珍しいですね、三琴君がこんなにもやる気になるだなんて。
「アイツには、中学校の時に、ジャイアントパンダの等身大ぬいぐるみを誕生日プレゼントとしてもらった恩があるからな」
 あ、やっぱりパンダ絡みなんですね。そこらへんは歪み無い三琴君は、手際よくクレポンをこねていきます。
 すると、始めは二十センチ角だったクレポンが徐々に大きくなっていきます。まるでパン生地のように柔らかくなったものを、三琴君はなにやら棒状に形成していきます。
 この形、もしかして槍ですかね?
「出来た」
 三琴君が作ったのは、先端が三つに分かれた三叉槍。まるで神話に出てきそうなフォルムの武器です。
「いちいち物体を作る余裕は無いから、コレくらいでいいだろ」
 三琴君は槍をブンッと振り回します。いつの間にかクレポンは固まっていて、しっかりとした作りの槍が出来上がりました。
 コレがクレポンの凄いところで、初期段階のクレポンは二十センチ角の物体なのですが、こねて空気を入れることで何十倍も大きくなり、好きな大きさに調整することが出来ます。そして形成が終わって、水を数滴かけると、数秒で瞬時に固まります。
 おっと、危なっ。三琴君、僕がクレポンの機能を説明している中で、そんなに振り回したら危ないですって。当たったら、宮前兄の棒人間が如く、スパッと切れちゃいそうです。
「さて、行くぞ」
「ちょっと、待った」
 槍を構えて司令室を出ようとした三琴君を、亀山先生が引き止めます。
「戦うなら、この入部届けにサインしろ」
 先生はまた入部届けを三琴君に突きつけます。
「今はそんな悠長なこと言っている場合ですか。人命が最優先なんだぞ」
「最優先だからこそだ。現段階で正式に入部していないお前が、彼女を助けることに失敗した場合。モデリング部は一切責任を負うことが出来ない。山吹一人で、その責任を負わないといけないんだぞ」
 先生は、すうっと息を吸い込んだ。
「つべこべ言わずサインをしろ! 彼女を助けたいと思うのなら覚悟を決めるんだな!」
「っ……」
 亀山先生の剣幕に、三琴君はたじろぎます。
 確かに、一人で無謀に突っ込んで自爆しても、今の状態だと三琴君一人で全責任を負わないといけない感じですねぇ。ここは、入部届けにサインして、モデリング部の一員として戦ったほうが、負う責任は最小で済むと思いますよ。
「チッ。分かったよ、サインすればいいんだな。ただし、条件がある」
「なんだ? あー、コレが終わったら直ぐ退部するという相談なら……」
「俺の作業スペースをパンダグッズで埋め尽くしておくことが条件だ、それなら、今後もモデリング部の活動に参加してやる」
「は?」
 三琴君、そっちの相談なんかーい! あまりにも唐突な要求で、先生はポカンと口をあけたまま、口が戻らなくなってしまったじゃないですか!
 あれ、もしかして、三琴君。クレポンを触って、再び、造形の楽しさに目覚めちゃったんじゃないですか?
 僕の指摘に、三琴君はそっぽを向いて耳を赤くします。あ。図星ですね、これは。
「プッ。分かった。お前が腰を抜かすくらいのパンダグッズを作業スペースに配置しようじゃないか」
 先生は吹き出しながらも、三琴君の条件をのむと、三琴君は先生から入部届けをぶん取り、サラサラと自分の名前を書いて、先生に手渡す。
 この間わずか五秒。さすが、パンダに関するとなると行動が早い。あ、いや、今は人命が関わっていましたね。急いで当たり前です。
「山吹、コレを耳の上に付けろ」
 いざ、菜音さんを助けに行こうとドアノブに手をかけたところで、亀山先生が何やらヘッドセットみたいな機器を三琴君に向けて投げます。
「これは?」
 三琴君は貰った機器をクルクルと見回しながら訊ねます。
「クレポンのコントローラーだ。脳波を検知することで自由自在に動くぞ」
「じゃあ、あそこで必死にコマンド入力しているのは?」
「アレは、それっぽい雰囲気をかもし出すためのフェイクだ。通常は、念じるだけで動く」
 そう、クレポンのコントロールは脳波に同調して動いちゃうのです。
 でも、やっぱり、コマンド入力とか男のロマンですよねぇ。ついついやっちゃいますよねぇ。
「いや、そのロマンは全く理解出来ない」
 そう言いつつ、三琴君はコントローラーを耳の上へと装着します。
 すると、先ほどまで無地だった三叉槍に見る見るうちに色が付いていくはありませんか。
 これも、クレポンの機能の一つで、コントローラーを装着した瞬間、作ったクレポンに想像通りの色が付くのです。これで、見た目もかっこよくなりました。
 さぁ、菜音さんを助けに行きましょう、三琴君。
「言われなくても、分かってる」
 三琴君は、司令室から意気揚々と飛び出していきました。
「ルーキーの戦いが、どんな戦いか見せてもらおうかね」
 先生はそう言って、司令室のモニターに注目していました。
「来ないでよ。一体、何者なのよアナタたち」
 モデリング部部室から五十メートルほど離れた渡り廊下。菜音さんは、クラップス星人に武器を構えられ、ズリズリと後ろに下がっていきます。
 しかし、背中に硬い感触が当たります。なんと、背後は行き止まりだったのです。
「嘘っ」
 逃げることも出来ない絶体絶命の大ピンチ。菜音さんは、どうすることも出来ず、ぎゅっと目をつぶります。
 その時です。
「待て!」
 三琴君が菜音さんのもとへと駆けつけます。間に合ってよかった。
「えっ、三琴君。何で、ここに。それに、その武器は……」
 突然の三琴君の登場に、菜音さんは目を丸くします。
「俺がこいつらを引き止める。菜音は早く逃げるんだ」
 三琴君は先ほど作った三叉槍をクラップス星人に向けて突きつけます。
「さぁ、来いよ。俺が残らず倒してやる」
 三琴君は不敵な笑みを浮かべました。
 三琴君とクラップス星人。睨み合う両者。
 息さえ出来ないほどの緊迫感に包まれています。
「どこからでもかかって来いよ、相手になってやる」
 三琴君はぎゅっと三叉槍を握り、相手の出方を伺います。
「菜音はさっさと逃げるんだ。此処からだと、第2シェルターが近い」
「でも、それじゃ、三琴君が……」
 三琴君を心配して、なかなか、足が踏み出せない菜音さん。そんな彼女に、三琴君は二カっと笑って見せます。
「俺なら大丈夫だから、な?」
「う、うん。助けてくれて本当にありがとう。三琴くんも気をつけてね」
 菜音さんはそう言って立ち去ります。クラップス星人がそれに気づき、彼女を追いかけようとしますが、三琴君がそれを妨害します。
「おっとぉ。お前らの相手は俺だよ」
 そういうと、槍をブンブンと振り回し、クラップス星人をけん制する三琴君。
 いきなりの攻撃に、相手も後ろに下がり、銃らしき武器を構えました。
 そして、三琴君に向けて、銃弾が発射されます。
「甘いな」
 三琴君は、槍をブンブンと振り回し、発射された銃弾を跳ね返します。
 その光景に、クラップス星人は驚いて、仲間同士で見詰め合っている様子。その後も、何度かクラップス星人の攻撃がありますが、先ほど見事に弾かれた攻撃が、三琴君本人に当たるわけが無く、全て弾かれてしまいます。
 弾切れになった彼らは、銃器を捨て、懐から剣らしき武器を取り出し、三琴君に向けて突撃してきました。
「かかったな!」
 すると、三琴君の持っていた槍がなんと、伸びた!
 予想不能な動きで伸びていく槍は、次々とクラップス星人を投げ飛ばしていきます。
 それにしても、槍の扱いや戦闘技術を見る限り、戦いに慣れているような印象を受けるのですが、三琴君ってサバゲや格闘ゲームとかしていたんですか?
「いや。一時期、時代劇を見ることが家族の中で流行ってて、殺陣を見よう見真似でやっていたことくらいだな」
 敵をバッサバサとなぎ倒しながら、三琴君は答えます。
 見よう見真似でここまでとは……。これが俗に言う、“ハイスペック男子”というものですか。恐ろしいですねぇ。
「まだまだぁ!」
 三琴君の叫び声で、再び槍が伸び、次々と敵を吹き飛ばしていきますが、敵も倒される度に数が増えてきて、なかなか終わる気配がありません。
 三琴君も次第に息が切れていて、動きも機敏さがなくなってきた様子。
 そろそろ、司令室の方へ戻ったほうがいい頃合いかもしれませんね。菜音さんを逃がすというミッションは無事達成出来たわけですし。
「そうだな、しかし、逃げられるものなら……な」
 息も絶え絶えの三琴君が、逃げ道を確保しようと辺りを見回りますが、クラップス星人はあちらこちらから湧いて出てきているので、逃げ道がなかなか見つかりません。
 むしろ、三琴君、お前は完全に包囲されている。的な状態ですね。今現在。
「そんな、呑気なことを言っていないで、夏水も何か打開策を提案しろよ」
 えー。だって僕、ただの語り部ですよ? 台本どおりにしか動けない、この中では恐らく最弱の人間です。そんな僕に一体何が出来るっていうんですか。
「その台本とやらには、何か書いていたりしないのか?」
 書いてないですよ、そんなものは。第一、この台本は、その間近にならないと、何が起こるのか、語り部の僕にでも分からないという不親切な特殊設計の台本なのです。
「使えない台本だなぁ。あーもう! 敵が多すぎてキリがねぇ!」
 三琴君が半ギレになりながらも、敵と対峙していきますが、ついに体力の限界に達しました。
 槍に全体重をかけ、ゼェゼェと肩で息をしながら、へたり込んでしまいました。
 三琴君が疲れきったところを見計らって、敵は、チャンスだとばかりに、再び銃器に持ち替え、こちらに向けてきます。
 このままでは、三琴君が蜂の巣にされてしまいます!
 そんな気がして、僕は台本で目を覆った、その時です。
「ルーキーにしてはよく頑張ったな! 後は任せて走れ!」
 亀山先生の声が頭上でしたかと思えば、上の方から黒い物体、否、あれはクレポンが入ったカプセルですね、それらが三つ落下してきます。
 そのカプセルが生まれたのは、体長三メートルほどの三体の埴輪……、ん? 埴輪!?
 僕は、その埴輪たちに目を奪われてしまいました。
「夏水、奴らが埴輪に気を取られている内に逃げるぞ!」
 三琴君は司令室のほうへと走っていきます。一方の埴輪はポカンと開いた口からレーザービームを放って、クラップス星人を溶かしていきます。
 このえげつなさ、きっと宮前妹の作品でしょうねぇ。そう思いますよねぇ? 三琴く……あれ?
 僕が埴輪に気を取られていると、そこに三琴君の姿はありませんでした。走るのも早いですねぇ。僕が目を話したのはほんの数分ぐらいだったのに。
 ここは埴輪さん達に任せて、僕も、三琴君のところへ行くとしましょう。
「はぁ。疲れた」
 部室へと続く廊下。そこで三琴君はため息をつきました。
 それにしても、凄かったですよ。あんなに、敵をバンバンなぎ倒せて行くだなんて。
「無我夢中だったからなぁ。それに」
 それに、なんですか?
「こうして自分の作った作品で地球を守るっていうのが、なんだかいい気分になったような気がしてきたし」
 おぉ! 心境の変化ですか? 素晴らしいことです。
 そんな事を言ってくださると、僕もなんだか嬉しいです。さぁ、司令室へと帰りましょう。
「そうだな」
 こうして、三琴君の初陣は無事成功したのでありました。

#創作大賞2023

三話へ
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