もでりんぐ!! 十一話

「命令だから仕方ないよ。ボスの演算プログラムには誰にも逆らえない」
 ……演算プログラム? なんで演算なんですか、それじゃまるで、貴女方のボスは……。
「さ、着いたよ」
 いかにもボスが居そうな扉の前で彼女が歩みを止めます。
「さぁ、ボスのごたいめーん」
 彼女が指を鳴らして重そうな扉を開けると、そこには。
 重厚そうなコンピューター達が部屋一面に密集していた。
 部屋一面に埋め尽くすコンピューター群。機械的な音が響いてはいますが、この部屋の中には人の気配はしませんね。
 本当にボスがココに居るのですか?
「えぇ、もちろん居るわ。ここに。ちゃんと見えているじゃない」
 彼女はクスクスと笑いながら部屋中をフラフラと歩き回ります。
「それは一体どういうことだ、あ、……もしかして!」
 三琴君は一つの答えに辿りついたようです。
 僕も三琴君と同じ答えにたどり着いたハズなのですが、そんなまさか……。
 クラップス星人のボスはこの部屋中にあるコンピューターそのもの?
「ごめいとーう。私達クラップス星人のボスであり、父はこのコンピューターなの。私達の革新的な技術発展も侵略計画もこのコンピューター、TRICYの演算ですべて実行しているのよ」
 TRICY……、んー……、何処かでその名前を聞いたことがあるのですが。
「夏水、何か知っているのか?」
 知っているような知らないような、喉まで出かかっているのですが、きっと何処かで見たことがあるんですよ、僕が名前を覚えているような気がするのは……。
「まぁ、忘れ去られたモノに対する反応はそんなものよね?」
 彼女はそう言って、そのコンピューターの中心部分らしきところへと近づきます。
 忘れ去られたモノ? その言葉の意味は?
『我は、捨てられた存在』
 いきなりその中心部分から機械的な低音ボイスが聞こえました。というか、コンピューターが喋った!?
「今、喋るロボットも主流の時代に何を驚いているんだ、夏水」
 いや、それはそうなんですが、こんなに古い型のコンピューターが喋るだなんて思いもしな……あー!!
「うわっ、ビックリした。何か思い出したのか?」
 古い型っていうので、思い出しました。TRICY計画のこと!
「と、TRICY計画? なんだそれ」
 僕らが生まれる三十年も前のことです。とある国が人工知能、つまりはAIを搭載したコンピューターを宇宙に飛ばしたんです。
 計画の目的は太陽系以外の惑星の発見と、その惑星の生物の有無について宇宙を漂いつつ観測をし続けること。当時は今後の宇宙産業に素晴らしい功績を残せることが出来るとして注目を浴びていたようです。
 しかし、その計画は資金難に陥り、コンピューターを発射してから1年後、途中で放棄されることになったのです。
 その結果、飛ばされた人工知能TRICYの消息もそれから分からないままになっていたのですが、まさかクラップス星人の手に渡っていただなんて。
「ここからは昔話でもしましょうかねぇ? ある日、私達の星に大きい塊が降って来た。その塊は星に根を張り、私達に文明というものを与えた。元々、知能指数の高かった私達は空からの来訪者から教えられた文明に順応し発展していった」
 つまり、クラップス星にTRICYが乗った宇宙船が墜落して、クラップス星人たちに文明を与えた結果、クラップス星人達は高い技術力を手に入れることが出来たということですか。
「一体、なんでそんな事になったんだ。TRICYは宇宙の観測が目的のはずなんだろ?」
『これは我の地球に対する復讐である』
「復讐?」
『お前たちは自分達の都合で自我を持った我を生み出し、そしてまた自分達の都合で我を捨てたのだ。ソレに対する復讐。その為にコツコツと準備を進めていったのだ』
 コンピューターが人間に復讐ですか。これだから、中途半端に自我を芽生えさせたAIなんて作ると面倒くさいんですよ。いつか、AIに反逆の心が芽生えてしまうから。
 それにしても、三琴君。これはまさかまさかの展開ですね。
「あぁ、そうだな」
 まさか人間が生み出したものが、こうして回りまわって地球を攻めてくるだなんてね。
 これは、一段と面倒くさいことになりましたね。こんなことを作り出した当事者達は今すぐジャパニーズDOGEZAして欲しいくらいです全く。
「そうだな」
「あらあら、そんなに悠長に構えていてもいいのかな? ここから凄いっていうのに」
 彼女はクスクス笑ったまま、TRICYの操作盤を操作し始めました。
 あ。ここに連れてきたのはまさか罠だったのでは?
「菜音。何をする気だ」
 三琴君は性悪女のもとへ駆け寄ろうとしますが、途中、なにやら見えない壁のようなものが三琴君と彼女の間に出現し、三琴君は彼女のところへ行くことが出来ません。
「クラップス星人なりの最後の足掻きってやつね。それじゃ、二人とも……」
 そういう彼女の後ろに黒い何かが迫っていました。
「バイバイ」
「え……」
 あ……。
 彼女は別れの言葉を告げた瞬間、黒いモノに飲み込まれていきました。
 そして、彼女を飲み込んだ黒いモノが更にこっち向かってきます!
「避けるぞ、夏水!」
 僕と三琴君は二手に分かれて黒い影から逃げます。迫ってくる瞬間かすかに見えたのは、これは……コード?
 つまりは、TRICY自ら攻撃を行っているってことですか!
 ってか、今度はあちらも二手に分かれてコードが延びてきているじゃないですか! ヒィ!
「クラップス星人も結構無茶苦茶なことをするな。これはその人工知能さんを破壊するしかないな」
 そうですね。っと、でも結構この部屋広いですし攻撃したら弾かれそうですし、どうしますか。うわっ、あぶねっ。
「夏水、体力は持ちそうか?」
 え、僕ですか。んー……、こんなに追いかけられてはもって15分くらいが限度ってところですかね。
「15分か、インドアの夏水にしては十分だな」
 ちょっ、それ、どういう意味ですか! おっとっと。答え次第では名誉毀損で訴えかねませんよ! うわっ。もう、コードがしつこい!
「ハハッ。冷静な語り部が台無しだな。さて、最終決戦と行こうか!」
 そう言って三琴君は楽しそうに、TRICYに向かって走りだしたのでした。
「夏水、十五分耐えろよ。俺は、こっちで忙しくなるからな」
 三琴君はそういうと、クレポンを持っている右手を黒い影に向かって振りかぶります。
 手の中から飛び出てきたのは……。
 あー、やっぱり三琴君らしいですね。何十体ものパンダの軍団です。しかもパンダたちは大剣を装備しているようです。
「実況もいいけど、周囲には気をつけろよ」
 大丈夫ですって。段々動きのパターンが読めてきたので、避けやすく……。
 ヒュン。
 ヒィッ。いきなり変則的な動きでコードが迫ってきたと思うと、僕の左頬を掠めました。
「言ったそばから」
 し、仕方ないことですよ。油断は誰にだってあるのです。
 先ほどの攻撃で頬を切ってしまったようですね。流血の勢いが凄いです。
「大丈夫か?」
 大丈夫です。元々顔の部分は毛細血管が集中しているので、血が結構出てくるものですから。
「なら、いい。気を抜くなよ、夏水」
 そういうと三琴君は更にTRICYに向かって走り出します。
 三琴君に向かってくる黒いコードはすべて、パンダ達が木っ端微塵に切り刻んでいきます。
『何故、我の復讐の邪魔をするんだ』
 TRICYは攻撃の手を緩めることはなく、更に僕達に問いかけてきました。
「そんなの決まっている」
 三琴君は束になって襲い掛かってくるコード達をバク宙で交わします。それはもう、アイドル級の綺麗さでしたね。ポニーテールも華麗になびいていましたし。
「お前の個人的な復讐で、勝手に地球を掌握されちゃ困るんでね」
 そうだそうだ!
「パンダを大繁殖してくれるのなら、掌握するのを賛成するがな」
 そうだそうだ! ……ん? いや、ソレはダメですって三琴君。
 ええっと、TRICY。貴方の復讐っていうのは成し遂げられたとしても無意味だと思いますよ? 貴方は今や人間の英知の結晶として生み出された偉大な人工知能としてではなく、唯の宇宙からの襲来者としての扱いです。更に煙たがれる存在と成り果てているのです。
 自らの運命を恨んでいるのなら、こんな馬鹿げた計画なんて白紙にして、他の方法を……、
『お前らに何が分かるというのだ!』
 耳を劈くような大音量のTRICYの音声が流れたかと思うと攻撃がさらに激しくなり、しかも、で、電流まで流れていらっしゃる?
 もしかして逆鱗に触れちゃいましたかね、僕?
「あーあ。やっちまったな」
 ど、どうしましょう三琴君。僕の残る体力は僅かなので、コレがもし避けられなかったらお陀仏ってやつですかね?
「だろうな。でも、逆にこれはチャンスかもしれないぞ」
 チャンス? それは一体どういうことですか?
 僕の疑問に三琴君はTRICYの中心部分を指します。どうやら、AIが怒りに任せて上手く制御が出来てないようで、画面には多数のエラーが表示されていました。
 つまりは、TRICY自体が上手く自身をコントロールできてないということ。
「今、中心を叩けば倒せるはずだ。あ、そうだ夏水」
 はい、なんでしょう?
「例の赤い点線出せるか?」
 え、あの点線ですか? まぁ、一応出せますけど。どうするんですか?
「点線を出現させた状態で、中心に突っ込む」
 そう言って、三琴君はニヤリと笑います。
 えぇっ。アレはシールドという意味合いで使っている訳じゃないんですけど。それに、クラップス星人には効果なかったので、TRICYにも効かないかもしれませんよ?
「やってみなきゃ分からないさ。ホラ」
 三琴君はそう言って僕に向けて手を差し出しました。
 手を繋いで突撃ですか? 何かヒーローとヒロインの最終局面的な構図で恥ずかしいんですけども。
「いいから、行くぞ」
 有無を言わせず、三琴君は僕の手首を掴みました。
 仕方ないですね。こうなったら一か八かです。やってみましょう。
 僕は前方に赤い点線を出現させます。これで、一般的な干渉は出来ないはずです。
「ところで、この点線の仕組みは一体なんだ?」
 ソレを訊くのは野暮って言うやつですよ。少しくらい、夢のあるモノは夢のままでもいいでしょう。
「なんだよ、ソレ。まぁ、いいか。行くぞ」
 そう言うと、三琴君は僕の手首を掴んだまま全速力でTRICYへと突っ込んでいきます。
 は、早い早い! 三琴君早すぎます! ギャー!
 黒い物体が前方から向かってきますが、点線から先は攻撃出来ない様で僕らを避けるようにコードは二手に分かれました。
 どうやら、三琴君の読みは当たっていたようですね。
 さて、全力で駆け抜けてTRICYの中心へと辿りつきかけたときに、
「今だ夏水。解除しろ」
 三琴君の合図をともに、僕は点線を消滅させます。
 次の瞬間、三琴君はあちらこちらに散らばって戦っていたパンダ達を右手に集結させ、パンダたちが持っていたような大剣と作り上げました。
「お前の復讐も、コレで終わりだ!」
 そう叫ぶと三琴君はスパッとTRICYの中央部分を一刀両断しました。
 TRICYはブツンという音とともに攻撃を止め、辺りは静寂に包まれました。
 お、終わった?
「コンピューターも動いていない様子だから、そのようだな」
 や、やった……。
 僕は安堵により、一気に体の力が抜けてその場へへたりこみます。
「おいおい、俺の方が頑張ったっていうのに、お前が腰を抜かすのかよ」
 そういわれましても三琴君。僕だって僕なりに頑張ったんですよ。そこを褒めてほしいくらいです!
 腰を抜かしつつプンプンと怒る僕の隣に三琴君は座り、僕の頭を撫でました。
「はいはい、夏水にしてはよく出来ましたよっと」
 “僕にしては”というのは余計ですよ、全く。
 それにしても、ボスを叩いたですから流石に終わりですよね?
「さあ? どうだろうな。もしかしたら二周目からしか出てこない隠しボスという存在も居たりして」
 三琴君、怖いこと言わないで下さいよ。僕のシナリオからは既に外れているのですから、何が起きたって不思議じゃないのですから。
「まぁ、終わりってことでいいんじゃないか? ボスを叩いたってのに、クラップス星人がココに戻ってきていないところを見ると」
 それもそうですね。これで、地球は救われたってことになりますね!
「実感ないけどな」
 確かにそうですね。まぁ、これが僕らの物語らしいってことでいいんじゃないでしょうか。
 ということで、僕の役割はこれで終わりってことになりますね。
「やっぱり戦いが終わったら戻るんだな」
 はい。言ったことはちゃんと実行させないといけないですからね。
 三琴君、本当にありがとうございました。君が居なかったら僕、あのまま閉じ篭っていたままだったかもしれません。本当に感謝しきれないくらいです。
「別に、俺は特に何をしたわけでもないからな。それに、まだ仕事が残っているぞ」
 ん? まだ、何かありましたっけ?
「人質、探しに行くんじゃないのか?」
 あ、そうでした。ボスを倒した感動に酔いしれていて、すっかり忘れていました。
「いいのかそれで」
 あの人は、あー見えても強い人ですし、少し危険に晒されても多少は大丈夫でしょう、多少は。
 それでもいい加減探さないと怒られかねないので、三琴君お手伝いお願いできますか?
「あいよ。ついでに出口を探さないといけないからな」
 そう言って僕達は立ち上がると、この部屋を出て行くのでありました。

 さて、どこから語ろうか?
 はてさて、TRICYを壊した俺達はあの後、夏水の捜し人を捜すべく、クラップス星人のアジト中を捜索してみたが、見つからなかった。
 アイツ曰く、
「もしかすると、僕が見せつけられたのは偽者だったのかもしれません。向こうへ帰ってから確かめてみます」
 との事だった。
 捜索ついでにアジト中を駆け回って、出口を捜して見つけた俺達は無事外へと脱出することが出来た。外はすっかり日が暮れていて、満天の星空を見ることが出来た。俺は俺達の戦績と学校の状況を確認するために先生へ連絡を取ることにした。
『山吹、無事か』
「夏水も俺も無事です。こっちは、クラップス星人のボスを倒したのですが、そっちの方はどうですか?」
『コチラも無事作戦完了だ。いきなりクラップス星人が弱体化したと思えば、お前らがボスを倒したってワケだな。でかしたぞ。で、今何処にいる? これから迎えに行く』
 俺はスマホのアプリで現在位置を確認して先生に伝えた。一時間後、先生はワゴンタイプの車で迎えに来た。
「一先ず、学園へと帰るぞ。夏水の迎えが学園でお待ちかねだ」
「僕に迎えですか?」
「お前が一番会いたがっている人だそうだぞ」
 先生からのその一言で夏水の表情が綻んだ。
「そうですか……、やっぱり生きていたんですね」
 俺が良かったなと話しかけると、夏水は凄く嬉しそうにハイ。と答えた。
***
 三琴君と別れた後、僕はどこかしこりというか、モヤモヤが残ったままでした。
 これはさすがに、出来すぎではないかと。
 いくら僕の脚本の外の話だったとしても、あまりにも話が出来すぎている。そう思うのです。
 なので、僕はいろんなところに頼み込んで、翌日、あのクラップス星人のアジト跡へと再び足を運んだのです。
 政府の機関とかがあの後すぐに乗り込んで色々と調べたらしく、TRICYの本体と思われる大きい機械は取り除かれていました。
 僕はキョロキョロと辺りと見回しつつ、時折、コンコンと壁を叩きながら探索をしていたところ、一箇所だけ、壁の打音が違う場所を発見したのです。
「……空洞?」
 僕はぐっと壁を押すと、その壁はいとも簡単にパタンと倒れ、壁に隠されていた空間が見えたのでした。
 その空間には、なんと僕のモヤモヤを晴らす切欠になるモノがいたのでした。



「見つけましたよ」

#創作大賞2023

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コーヒー牛乳代をもしよければください。