もでりんぐ!! 十話

「三琴君! 三琴君!」
 誰かが俺の名前を呼ぶ声がした気がした。
 そういえば、さっきまで俺は何をしていたんだっけ?
 そうだった。菜音に夏水が屋上から落とされて、俺はそれを追って落下して……。
「というか、夏水大丈夫か!」
 と、勢いよく俺が起き上がった瞬間。
【ゴチン】
「……っつー」
「いってー……」
 夏水の頭を思いっきり頭突きしてしまい、お互いに額を抑えて悶絶する。
「三琴君、結構な石頭ですね……。頭の中がガンガンしてますよ」
「そっちこそ、同じ様な感じだって……、え、おい!」
 俺はある点に気が付いて、額を押さえて悶絶している夏水の体をペチペチと叩く。
「どうしたんですか、急に」
「触れる……、夏水に触れられるぞ」
 夏水に初めて触れられた衝撃で、額の痛みが一瞬で飛んでしまった。
「赤い点線に閉じ篭ってないで出て来い、って言ったのは何処の誰ですか? それと、僕たち屋上から落ちたのに、よく助かったとか思わないんですか? いくら三琴君が主人公といえども、無敵な訳じゃないんですよ」
 夏水にそういわれて、確かにと頷いてしまった。
 四階建ての校舎から落ちたら、複雑骨折どころの騒ぎじゃ済まない筈だ。でも、俺達は擦り傷程度で済んでいるのだ。
「一体、どういうことだ?」
「三琴君、下を見てください。下」
 夏水が指で地面を指差す。俺が下を見ると、地面がもぞもぞと、う、動いた!?
 そして、つぶらな瞳がコチラを凝視して、
『ケモケモー!』
 と鳴いた。
「なっ、モケリス星人がなんでこんな所に。お前ら、星に帰ったはずじゃ……」
 あの後、部室を見学した後に星に帰ったはずなのに、なんでこんな所にいるんだ?
『実は、ちょっと寄り道してから星に帰ろうとしたのですが、交通規制にかかってしまって……。あ、もう降りていただけませんかね?』
「あ、悪い」
 俺と夏水は、モケリス星人のベッドから降りる。
「それにしても、宇宙にも交通規制があるなんて」
「驚きですねぇ……。それにしても、貴方たちが居なかったら僕たち二人とも死んじゃっていたところでした。ありがとうございます」
 夏水はそう言って、モケリス星人の頭らしい部分を撫でた
『結構宇宙でも交通マナーは煩かったりするんですよ。そんなことは置いておいて、その規制に引っ掛かっているときに、クラップス星人が地球を攻め入るという情報がラジオで流れて来たので、皆さんのところに飛んできたというわけです。ぼくたちが着いたときに丁度、貴方達が校舎から落ちるところを目撃したので、助けに参りました』
「本当に助かった、ありがとうな」
 俺も、夏水に倣ってモケリス星人の頭を撫でた。何回撫でても手触りが良くて、ずっと撫でていたい触り心地だ。
「ずっと撫でていたいけど、ここは危ないからお前らは避難してろ。ここから北に暫く行けば簡易シェルターがあるはずだ」
 俺は、モケリス星人に進行方向を指差してやると、モケリス星人は頷く。
『ありがとうございます。お二人とも、ご武運を!』
「おう」
「モケリス星人さん、ありがとうございます」
 俺らは避難場所へと向かうモケリス星人に手を振って見送った。
「僕らもココでは何時見つかってもおかしくないですから、ちょっと隠れましょうか」
 落下した地点が校庭の隅っこで死角とは言え、戦いが激しくなっているので、いつ攻撃が飛んできたり見つかったりしたりしてもおかしくない状況だ。
「そうだな。とりあえず、校舎の中に入るぞ」
 俺達は見つからないように、そっと校舎の中へと入り込んだ。
 誰も居ない校舎を、俺達は腰を屈めてゆっくりと進む。
「まるで、コソ泥みたいですね、僕達」
 夏水の言う通り、まるで不法侵入している泥棒みたいな感じだった。
 校庭から一番遠い教室を選んで、俺達は中に入った。
「それにしても、本当に例の赤い点線がなくなってるな」
 俺は夏水の足元を見る。前まであった赤い点線はきれいさっぱり無くなっていた。
「あれは、僕の周りに誰も近づいてこないようにする、ある意味“心の壁”を実体化したものですから。僕が心の壁をなくせば消えちゃうんですよ」
「んー、よく分からないけど、俺のことは信用してくれていると捉えていいのか?」
「一応、そういうことになりますかねー」
 夏水は照れくさそうに笑う。
「三琴君こそ、僕が勝手に主人公に選んで、トンでもないことに巻き込まれたことに対して、本当に怒らないんですか?」
「怒っていいんだったら、怒るが?」
「ヒィッ」
 俺がそういうと、夏水は顔面蒼白になって俺から離れる。
 それと同時に、例の赤い点線が出現した。なるほど、こういう仕組みなのか。
「怒らない、怒らないから、帰って来い」
 俺が苦笑しながら手招きすると、夏水は戻ってきて、例の点線も消えていった。
「怒るよりも、色んなことが起こりすぎて目が回りそうなくらい楽しい気持ちでいっぱいなんだ。だから、夏水に感謝してる」
 俺はぽんと夏水の頭に手をのせて、
「俺を選んでくれて、ありがとう」
 と、感謝の言葉をやっという事が出来た。
「……もう、三琴君は、僕を泣かせる天才ですね。こちらこそ、僕を助けてくれて、ありがとう」
 夏水は号泣しそうなのをぐっと堪えて、俺を見て笑った。
「さて、言いたいことは言えたし、どうしようかねぇ」
 相手は強化したクレポンを使っている。現状のままでは勝ち目が殆ど無いような気がする。
 実際問題、先輩達の戦いは苦戦を強いられている様子だった。
「専門家として、この状況どう思うんだ」
 俺は夏水に話を振る。
「いつから僕は専門家に? まぁ、一応、生みの親ですけど。そうですねぇ、この状況は非常に危ないですねぇ。ある二点を除いては」
「ある二点? それは一体?」
 すると、突然夏水はフフフと悪役風に笑いだした。
「その一、クラップス星人は僕が差し出したレシピを、強化型クレポンのレシピだと勘違いしている模様ですが、全くの別物なんです。なんと、最初は凄く強い威力を発揮するんですが、動かし続けると途端に弱くなるクレポンのレシピを差し出してやりましたとも! ハッハッハ!」
 な、なんというレシピを敵に投げやがったんだ、コイツ。夏水がなんだか、一番の悪役に見えて仕方なくなってきた。
「その二、真のレシピなんてものはありません。でも、クレポンの最終形態なら僕が今、この手に持っているのです。それがコレです!」
 夏水はズボンのポケットから十センチ角のクレポンを取り出す。パッと見、いつも見ているクレポンと変わりは無い。
「特に変わっている様子がないとは思いますが、これが最強クレポンなのです! 実は……」
 夏水は俺の耳へそのクレポンの秘密を暴露する。
「な、なんだと、そんな事が出来るのか」
「はい。そろそろ、クラップス星人のクレポンが脆くなってくる頃です。殴りこみに行きましょうか。反撃開始です!」
「そうだな。あ、あと夏水。一つ頼みがある」
「なんでしょう?」
「アレはやっぱり夏水しか適役がいないから頼む」
 そう。アレはお前じゃないと勤まらない。
 さぁ、この夏水聡、長い充電期間を経て戻ってまいりました!
 いやはや、重大な人物としてこのまま語り部業を隠居しようと思ったのですが、三琴君にどうしてもと言われればやらない奴が居るでしょうか? いや、居ない!
 ここは僕の精一杯の実況魂を結集させて、クラップス星人との戦いを実況させてみせようじゃないですか!
「途端に元気になったな」
 何を言っているんですか、三琴君。クレポンの生みの親の僕なんて、過去の僕なんです。今の僕は、三琴君を最大限に引き立てるために存在している陰の存在。それこそが僕のライフワークなのですよ。僕の全身全霊を込めて当然じゃないですか!
「そ、そうか?」
 おおっと、そんなことで臆してもらっては、この先が心配ですよ。いいですか? これからが奴らとの最終決戦です。三琴君、先ほど渡したクレポンでクラップス星人をギッタンギッタンのボコボコにしちゃってください。
 そう。彼らが泣いても、僕は殴る手を止めない!
「……夏水も一週間の間に色々あったんだな」
 色々ありましたとも。あんなにムカついたのは久々です。だから、絶対に倒しましょう。こんな、台本に無い茶番は終わらせてしまいましょう。
「台本で思い出したんだが、夏水」
 はい。なんでしょう?
「その手に持っている台本、元から何も書いてなかったんだよな」
 あ、やっぱり分かっちゃってました? まぁ、正体が分かれば当然のことですよね。
 さぁて、僕の語り部の集大成というものを“最後”に見せてやろうじゃないですか。
「最後? 夏水、お前まさか」
 えぇ、人間はやはり何処かで決着というものを着けなければならないと思うんですよ。この戦いが終わったら、僕はあそこに戻ってやろうかと思ってます。
「その言葉を聞くと、何かフラグが立っているようにしか聞こえないのだが」
 そんなフラグなんて叩き折ってやりますよ。三琴君が。
「俺が折るのかよ。まぁ、いいか。そろそろ行くぞ」
 そうですね。僕の計算が正しかったらあと五分ほどで、クラップス星人が動かしているクレポンの弱体化が始まります。狙うならその時です。
「了解。それにしても、このクレポン。夏水が言うような機能があるのか?」
 三琴君は先ほど僕が渡したクレポンを指で触りながら訊ねます。
 そうですよ。僕があそこを脱走する前に出来た、唯一の成功作です。先にも後にも、それしか作る気はさらさら無いのですけどね。悪用されたら困りますし、最も、僕はクレポンを兵器利用として使って欲しくないですから。
「そんなのを俺が使っていいのか?」
 信頼出来る三琴君だからいいんですよ。
 僕が微笑むと、ちょっと照れくさそうに笑う三琴君。そんな中、三琴君のスマホに着信が入ります。発信相手は亀山先生。
「はい、山吹ですが」
『山吹、今何処にいる』
「今ですか、高等部の西棟校舎の端の教室に居ますが」
『OK、監視カメラで確認する……。よし、二人とも元気そうだな。戦闘に戻れそうか?』
 三琴君、僕に電話を替わってください。僕に良い案があります。
「ん? ほい」
 三琴君からスマホを受け取って、電話に出ます。
 先生、夏水です。ご心配をおかけしました。
『お、夏水か。無事そうで良かった』
 先生。僕が考えたナイスな案、聞きたくありませんか?
『ナイスな案? それはなんだ?』
 ちょっと、塩原君をお借り出来ないかと思いまして。なぁに、ちょっと彼にクレポンを一体作って欲しいのですが。
『塩原にクレポンを? そんな無謀な……おっと、こらっ』
 電話の先でバタバタと物音がした後、塩原君本人が出てきました。
『俺がクレポンを作っていいって良いのは本当か?』
 えぇ、本当です。己の本気を試すときですよ! さぁ、塩原君のクレポンでクラップス星人をギャフンと言わせてください。五分で作ってくださいね。いいですか、制限時間は五分ですよ。
『うおー! やる気出てきた。待ってろ、五分と言わず、三分で仕上げてやる』
 塩原君はそう言って、先生に電話を替わりました。
『いいのか? 塩原にやらせて』
 いいんです。さて、本来の作戦は……。
 僕は先生に作戦の内容を伝えました。
『ほう。塩原はそんな役割になるわけだな。アイツらしいっちゃアイツらしいが』
 はい。最後は塩原君にも花をもたせてあげたいと言う、優しい語り部の心意気なのです。
「どこが優しいだよ、作戦は鬼じゃないか」
 三琴君。それは言っては負けというお約束なのですよ。
「左様で」
『兎に角、作戦開始って訳だな。お前ら気をつけろよ? 必ず生きて部室へ帰って来い』
「了解」
 了解です。
 三琴君が電話を切り、教室の出入り口のほうを見ます。
「行くか」
 そうですね。行きましょう。僕らのターゲットは例の性悪女とそのボスです。
「ボスの居場所は分かっているのか?」
 いや、さっぱりです。
【ドサッ】
 三琴君が壮大にコケて……、コレは実況を……。
「やらんでいい。ってか夏水と初めて会った時にもこんなやりとりあったな」
 そういえばそうですね。懐かしいです。
「出会ったときは、何コイツ? とは思っていたけど、まさかこんなことになろうとはな」
 そうですねー。思い返すと色んな思い出が蘇ってきますが、今は過去を振り返っている暇はありませんね。向くべきは僕らが勝つ未来のみです。
「そうだな。奴らの親玉はきっと戦ってたら出てくることだろうし、乗り込みますか!」
 いざ、参りましょう! クラップス星人の本陣へ。
「ところで、クラップス星人の本陣の場所はもちろん分かっているんだろうな?」
 いえ、分からないですよ。
「……また、転ばせるつもりかな?」
 み、三琴くん、突き刺さるような笑顔が怖いです。話は最後まで聞いてください。本陣の場所は分からないですが、簡単に本陣にたどり着ける方法なら知っています。
「ほう? その方法というと?」
 はい、クラップス星人は携帯端末の様な転送装置を持っています。それを奪って操作すれば、本陣に乗り込むことが出来るはずです。
「その端末をあの鬼のような作戦実行中に奪うっていう寸法か?」
 さっすが、三琴君! 察してくれるのが早いですね。題して、陽動している間に身包み剥がしちゃえ☆作戦です。
「え、えげつねぇ……」
 ノンノン。奴らがやっていることと比べたらこんなこと小さいことですよ。些細なことを気にしたら負けなのです。
「なんか言いくるめられているような気がするが、そろそろ時間だから行くぞ」
 はい。そうですね。
 僕たちは教室の扉をゆっくりと開け、キョロキョロと周囲を見回します。
 敵は居ないようですね。一気に走り抜けましょう。
「そうだな」
 僕と三琴君は互いに目を合わせ頷き、校舎の出入り口まで走り抜けます。
 ちらっと外の様子を伺ってみると、そろそろ敵サイドのクレポンの強さが衰えてきているのか、軍の方にも圧されているのが目で確認できました。
 さぁ、僕たちの反撃と行こうではありませんか!
「途端に元気になったな」
 それはそうですとも、やっぱりこういう物語には挫折を味わい、形勢逆転をもぎ取るというのがセオリーですよ。
「確かに。そういう話がアツいのは分かるが、やってるこっちの身としては凄くしんどい事この上ないぞ」
 それは確かにそうかもしれませんが、終わった後の達成感は半端ないですし、頑張りましょう。
 三琴君を励ましつつ、僕らは出入り口前へと到着しました。
 再び辺りを確認しますが、今すぐ飛び掛ってきそうな人影はありませんね。
「夏水、準備はいいか?」
 その“準備”というのは、ここから飛び出す準備のことですか? それとも、実況をする準備のことですか?
「……あのなぁ?」
 三琴君は困惑気味にため息をつきます。
 フフフ。最後の戦いになるかもしれないんですから、たまにはふざけさせて下さいよ。無論、両方とも準備は万全ですが。
「では、行くぞ!」
 校舎を意気揚々と飛び出した三琴君と僕。
 すると、その時でした。
 空から無数の飛来物がやって来るではありませんか。
「な、なんだ? クラップス星人の増援か!」
 三琴君はビックリして走り出した足を止め、空を見上げます。
 地面をベチャベチャと音を立てながら落下していく無数の物体。それは、ショッキングな程色とりどりなスライムみたいな物体でした。
 目はあちこちに散らばっており、虚ろな感じでキョロキョロと周囲を見回しており、見るだけで背中からゾワゾワと変な感じがします。
「クラップス星人だけでも大変だって言うのに、こんな時に限って、別の星からの襲来者か!?」
 ……三琴君。多分、この物体味方だと思いますよ。
「いや、おかしいだろ。こんな見た目危険な物体が味方な訳……あ」
 三琴君も理解して頂いたみたいですが、恐らく塩原君作成のクレポンですよ、コレ。
 正直、塩原君は造形に向いてないタイプとは聞いていましたが、コレほどまでの酷さとは予想していませんでしたねぇ。
 戦隊モノのカラーリングっぽいので、アメーバ戦隊アメバンとでも名付けましょうか?
「呑気に名付けている場合か。どうするんだよ」
 呑気に語りだす僕を三琴君がツッコみます。
 幸いにも奴らはアメバンの襲来に驚いてたじろいでいるみたいですし、アメバンの間を掻い潜って簡単に潰せそうなカモを探しましょう。
「カモって、まぁいいか。それにしても、あのウネウネした物体の間を通るのか? すげぇ、通りたくねぇ……」
 三琴君今頃になって何を言っているんですか、背に腹はかえられませんよ。さぁ、走り抜けますよ?
「うげぇ……、分かったよ」
 観念した三琴君は再び走り抜けます。アメバンの横を通る際、どうやらアメバンの一部を踏んでしまったらしく、グニュという鈍い音が響きました。
「わぁ……踏んでしまった……。というか、数が多すぎるんだよ、数が!」
 そう愚痴を零す三琴君。仕方ないですって、久々に頼られたのが嬉しくて恐らく塩原君なりの本気を出してしまったのだと思います。
「いやな本気を出さないで欲しい」
 ま、まぁ、お陰で敵も混乱していますし、そのままアメバンにはスケープゴートになって貰って、僕たちはこの場を走り抜けましょう。
「そうだな。お?」
 三琴君は何かを見つけたらしく、一目散に向かっていきます。僕もそれについていってみると、そこには気絶して伸びているクラップス星人の姿が。
「カモはっけーん」
 ですね。起きないうちに身包みを剥ぎましょうか。
 僕は慎重に気絶しているクラップス星人の体を調べ、端末を探します。
「こう見ていると、セクハラしているみたいだな」
 せ、セクハラとか不純ですよ、そんな事僕は出来ません。あ、あった。
 僕は端末を取り上げます。正真正銘、あの性悪女が使っていた端末と同タイプのもの。
 これで、敵の本陣へ瞬時に移動できますよ、三琴君。
「では、乗り込むか。というか、クラップス星人の端末だろ? 書いてある事分かるのかよ」
 あ、確かに。分からなかったら、何処を触ればいいのかも分かりませんよね。下手に触ったら自爆装置を作動させちゃっても困りますし、
 念のため、僕は端末の電源を入れて確認してみることにしました。すると……、あれ?
「どうした?」
 三琴君、コレ、僕にでも分かりますよ。ホラ。僕は三琴君に電源をいれて表示された画面を見せます。
「本当だ。コレ、英文を逆さまに並べただけだ」
 その画面には、英単語がアベコベに並べられた文字列が広がっているのでした。偶然の一致か、それとも……。
「考察なんて後だ。兎に角早く行かないと、いくら奴らでもそろそろ気づく頃だぞ」
 そ、そうでした。えーっと、転送する方法はココとココですかね。
 僕がたどたどしく端末を操作すると、校庭から何やら機械的なものが並ぶ場所へと早変わりしたのでありました。
「こ、ここがクラップス星人の本陣か?」
 端末が示したとおりだと、ここです。静かに進んでみましょう、三琴君。
「お、おう」
 少し姿勢を屈めて僕らは進みます。
 機械ばかり並べられている通路。本当に近未来に来たような感じがしますね。
 そんな事を考えながら僕らは進んでいると、
「貴方たち! なんで生きているの!?」
 なんと、通路で鉢合わせしたのは、あの性悪女じゃありませんか!
「今一番遭遇したくない奴に出会ってしまったな、菜音」
 通路で出会った彼女に、三琴君は睨みをきかせます。
「何? 今度は大人しく仲間にして欲しくて投降してきたって言う訳?」
 性悪女も彼女らしく、いつもの口ぶりで応戦する。
 投降だって? 冗談はやめて下さい。僕達は貴方たちを倒しにきたのですから!
「へぇ? まだ、私達の計画の邪魔をしようとしているのかな?」
 そうです。貴方たちの野望は食い止めてみせる! 僕と三琴君の二人で。
「フッ、二人揃って救世主ごっこだなんて随分と滑稽ね。そんなことはさせないわ」
 性悪女が指を鳴らすと、クラップス星人の手下どもがぞろぞろと僕達の前に現れました。
 三琴君、例の使い方はまだ覚えてますよね?
「おう。大丈夫だ」
「何を二人で内緒話をしているのかな? ここで無残に散りなさい」
 彼女は手下どもに指示をすると、一斉にクラップス星人達は僕達に向かって攻撃を始める。
 三琴君。いきますよ!
「あいさ!」
 僕と三琴君は敵に向かって走り出します。
「これが、俺と夏水の連携プレーってやつだ!」
 三琴君は握り締めていた右手を敵に向けて振り下ろすと、次の瞬間、
 クラップス星人の手下が三体ほど、スパッと斬られているじゃないですか!
「なっ」
 その様子を見た性悪女は、今起きた出来事を把握できずに目を見開きました。
「今、何が起きたって言うのよ!」
 彼女の動揺した顔に、三琴君がニヤリと笑います。
「クラップス星人にとびっきりのマジックを披露してやっているんだよ」
 三琴君はさらに敵の中へと駆け込んでいく。そして縦横無尽に腕を振り回し、敵をバッサバサとなぎ払っていくのである。まるで、戦国時代の武将のように。
 いけそこだ三琴君! やってしまえー!
「夏水。俺の応援もいいけど、自分の身は自分で守れよ?」
 はいはい、わかってますよっと。といっても僕は、三琴君がなぎ払った敵達を自分の身に当たらないように、懸命に避けるくらいしか出来ませんがね。
「なんなのよ! 一体全体何がどうなって……」
 用意した手下達が皆倒されて、彼女の顔がドンドン青くなっていくのが分かりますね。三琴君、そろそろネタばらししちゃいますか?
「えー、もうバラすのか? 折角、マジックを堪能してたというのに」
 三琴君はすごく残念そうな顔。性悪女もあんなに目を白黒させている姿を見られたんですから、もういいでしょう。
「それもそうだな。さっきの手品のタネをコレだよ」
 そう言って三琴君は彼女に握っていた右手を広げて見せます。
 そこにあったのは僕が三琴君に渡した、例の十センチ角のクレポンでした。
「このクレポンは願えばその通りになる、最強のクレポンだ」
 三琴君はドヤ顔で性悪女にマジックのタネを説明しました。
 さぁて、ここからは僕が解説しましょう!
 このクレポンは僕が開発した最初にして恐らく最後の最高傑作!
 その名も、【CL―PONマーク2】!
「ネーミングセンスダサいな」
 うっ。そんなこと言わないで下さい。
 話はもどして、このクレポンはわざわざ造形の作業をしなくても、脳内で思い描くだけで造形・色塗り・動きまで出来てしまうという夢のクレポンなのです! そして、僕があの人にも貴女にも隠し通していたモノですよ。貴女にくれてやったのはダミーです。
「よくも人質が捕まっているというのに、ダミーをつかませてくれたわね。人質の命がどうなってもいいってわけね?」
 そんなの貴女とここに居るであろうボスを倒して、助けにいくのみです!
 いきますよ、三琴君!
「おう、夏水!」
 僕達二人は彼女へ向かって走ります。彼女はなにやら端末のボタンを押しました。すると、通路の下から壁がせりあがってくるではありませんか!
「壁なんて、こうだ!」
 三琴君はクレポンで透明な鞭を作り出し、スパスパと飛び出る壁を切っていきます。
「おー、こわい」
 彼女はすこし焦りの表情をしながら、身軽に飛びながら後ろへ引いて行きます。逃がしませんよ。今度は貴女が追い込まれる番です。三琴君。彼女の動きを封じましょう!
「あいよっと」
 ぴょんぴょんと飛ぶ彼女の背後に向けて、三琴君はクレポンで鎖と作り、彼女を拘束します。
「あら、捕まっちゃった」
 彼女は捕まったのにも関わらず、逃げる様子はなく、大人しくしていました。
「無駄な抵抗はやめるんだな。菜音、いや、クラップス星人」
「もう、三琴君は私の名前を呼んでくれないのね?」
 彼女は少し寂しそうな表情をします。
「当たり前だろ? 俺達はお前に酷いことをされたからな」
「それもこれも全ては命令だからね。仕方ない、私達のボスのところへ案内してあげる」
 その言葉、本当でしょうね?
「えぇ、本当。君たちの戦いに完敗した私が捕虜としてボスのところへ案内する。そんなシナリオでいいんじゃないかしら?」
 それが語り部の夏水君らしくていいんじゃない? と彼女はそう笑った。彼女はそういうと、鎖に巻き取られたまま何処かへと歩みを進めます。三琴君。何が起こるか分かりませんが、ついて行きましょう。
「そうだな」
 三琴君も頷き、彼女についていきます。
「あーあ。折角君たちとは地球を征服しても仲良くできると思ったのになぁー」
 道中、彼女は残念そうに呟きます。
 仲良く出来る訳ないでしょう。貴女はこの地球の敵なんですから。
「敵だから、仲良く出来なくなのものなの? 味方だからって全部が友達恋人っていうのもありえないでしょ?」
 うっ。それは……。
「お前は何を言いたいんだ?」
「……。こうして長い間地球に住んでたら、やっぱり情は移るものなんだよ。だから、こうして私達がこの地球を掌握したあとも、良い友達で居たかったってことだけ。でも、もう遅いんだよね」
「あぁ、遅いな」
「……」
「……」
 重い、重いぞこの空気は! 聞こえるのは僕の声だけじゃないですか!
 貴女も懺悔するくらいなら、最初からこんなことをしないでいただきたかった!

#創作大賞2023

十一話へ
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