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連載小説・海のなか

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とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
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2021年6月の記事一覧

小説・海のなか(15)

小説・海のなか(15)

 もう十月だと言うのに、体育館には熱気が充満していた。息苦しさにもがくように汗を拭う。壇上では生徒会長の佐々木が挨拶をしていた。ようやく今日がはじまる。準備作業の大変さを思うとそこから解放されることも相まって自然気持ちが高まった。
 佐々木はと言うと、何度も練習してきました。と言わんばかりの堂々たる顔つきで開会の挨拶をしていた。会場には名調子が響き渡り、一部の女子は熱心に耳を傾けている。本当はほん

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小説・海のなか(14)

小説・海のなか(14)

第六章  「萌芽」


『10月3日  木曜日
今夜はなんだか落ち着かなくて、彼に会いに家を抜け出した。このところは、毎晩会いに行っている。』


 夜空を引っ掻いたような頼りない三日月が浮かんでいた。今にも消えそうな感じ。まるで、青みたいだ。
 だからわたしは会いに行くのかもしれない。彼が今日もあの場所にいるか、確かめるために。そんな自分に気がつくたび、気持がわるい。わたしもあの人の娘なのだ

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小説・海のなか(13)

小説・海のなか(13)

 「で?なんかあったわけ。じゃなきゃここにおれを呼んだりしねぇだろ」
 一馬は海風に目を細めながら言った。なぜ誤魔化せないのだろう。ただ自分に会いたくなったから、とは考えないんだろうか。
 もう、あたしは理由がないと一馬と会えない。昔は違ったのに。いつもいつも呼び出すのはあたしからだ。だからあたしはいつも不安になる。一馬から会いたいと言われたことは一度もない。一馬は会いたくもないのに付き合うような

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小説・海のなか まとめ2

小説・海のなか まとめ2

どうも。
クロミミです。
亀の歩行のごとき更新頻度の本小説「海のなか」を毎度ご閲覧いただき誠にありがとうございます。
 
最近、自分でも思いもしなかったキャラ一人一人の一面が見えてきて楽しい今日この頃。私の作る登場人物は大体クズです。クズ好きなもんで。
 
(正直人間なんて一皮剥けば大体どこかしらクズ、というのが持論ではあります)
 
今回はざっくりと各章のあらすじとそれぞれの登場人物について少々

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小説・海のなか(12)

小説・海のなか(12)

***

目を細めて黒く染まった海を見つめていると、夜風が渡る気配がした。夜があたしを呼んでいる。水平線の向こうでは、夕日の名残が溶けて無くなろうとしていた。夜と昼のあわい。空は夜にもなりきれず星を煌めかせたまま一方は白み、また一方は濃く陰りはじめる。この時間帯が一番好きだ。名付けることのできないこの瞬間が。宵闇の空に鱗雲が白く浮き上がり、何か怪物の群のように見えた。
 『今がいちばんコワイ時間』

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