小恐

買い物に行こう。そう思って家を出た。
小雨の降る暗い夜道を自転車で独りゆっくりと走り抜ける。雨がカッパを打つ音が耳の近くで破裂する。点々と立っている街灯がひび割れたアスファルトの舞台を煌々と照らし出している。時折向こうから車の前方灯が私に照準を合わせる。特に何を考えるわけでもなくただペダルを回している。
古びて赤く錆びた案内板のついているバス停を通り過ぎた。真上の街灯に照らされて1層不気味さをましている。少し怖くなって速度をあげる。バス停が見えないほど遠ざかってほっと息をついた。
しばらくするとコンビニがある。閉じきった私の瞳孔には優しくない明るさだ。しかし光はやはり私を安心させてくれる。少しだけ速度を落として通り過ぎる。
またしばらくして大通りに出た。これで一安心。後、さらっと買い物をして帰途につく。行きと同じ道を戻ってゆく。大通りから見えるその道は且つ暗く尚恐ろしい。気を落としつつも暗闇に溶けてゆく。しばらく走っているとなんとなく先刻よりくらい気がした。きっと先程まで大通りにいたせいだろう。足取りは重く、雨足は少しずつ強さを増し、カッパの庇がぱちぱちと忙しく歌っている。切れかけで点滅している街灯や人の気配のしない民家を横目に家へと急ぐ。コンビニに着いた頃違和感を覚えた。電気が着いていない。3秒迷ってそう言えば数日前に24時間営業を辞めたのだったと時代の流れを感じていた。
しばらくしてかのおどろおどろしいバス停が道の先に見えた。他の暗さに反してやはりそこだけは煌々と輝いていた。近づくと人がいる。白いカッパを来た人だ。なんと、このバス停まだ使われていたのか、などと思っているとその人がこちらに気づく。ゆっくりと顔をこちらに向けた。その顔を除くと顔に光はなくただ黒いのみであった。私は幽霊なぞ信じていないのだが、夜道、バス停で云々などという話は余りにもよく聞くため体を強ばらせた。
しかし近づいてみればただ逆光に照らされてよく見えないだけであった。少し恥ずかしく頭を下げ通り過ぎる。それからまた暗闇を走ってゆく。
少し雨も弱くなってきて、家が近くなってきた。まだ心臓はばくばくと強く脈打っている。その時、家と家の隙間から物陰がふっと私の目の前に現れた。自転車のライトに照らされたそれはビニール袋であった。驚かせやがって、と胸を撫で下ろす。そして家のドアを開けた。

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