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浮気は世界を灰色にさせる

「次いつ会えるの〜?」
彼の携帯から見えた通知は、知らない女の子からだった。
血の気が引くとはこのことか。急に息が出来なくなった。世界の彩度が一気に暗くなった気がした。


「久しぶり」や「こんにちは」など挨拶なく、何をしようと提案するわけでもなく、明記していなくても2人だと分かるその文は、何でもなく2人で会う事を目的にしている文だった。
これだけで、初めてでは無いことなんてすぐに分かった。

疑いの気持ちは常にあったのだと思う。
ああ、やっぱりか。
少しの希望と、信頼と、願う気持ちが、すっと火が消えるように消えた。
悔しくも、好きな気持ちは変わらなかった。

聞きたいことは山ほどあった。
いつからなんだろう。誰なんだろう。2人で何をどこまでしているのだろう。どのくらい会っているのだろう。私より好きなんだろうか。私となぜ一緒にいるのか。この人は私の存在を知っているのだろうか。私の彼と付き合ってるのだろうか。いつから私の事を笑顔で騙していたんだろう。
心の中の私達が一斉に、質問をする。
心の中のみんなの声を聞いていると、嫌でも想像してしまう。
私に嘘をついて、笑顔で楽しむよく知っている彼と知らない女。

感情が込み上げてきた。
泣き出したら止まらなかった。
よく知っている彼は、本当の彼ではなかった。

「どうした?」
私の様子を察知して、洗面所から出てきた。
彼は焦りながらも、平然を保っていた。
焦っている様子を出さないように必死だった。
そこに私への心配は無かった。

聞きたいことは、山ほどあったはずなのに出た言葉は
「これはなに?」
彼の言い訳を引き出す言葉だった。
真実なんで言うはずが無かった。
これはただの友達で、ただの飲み会の誘いだと。
そんなことは俺がするはずないだろう。
疑ってるのか?と。

疑っているのだ。

でも、知りたくもなかった。
真実なんて分からない、知りたくもない。ほぼ黒に染まったあなたを怖くて掘りたくなかった。
でも、黙ってることも出来なかった。
あの何も知らない、何をみても好きで、心の底から楽しくて、色鮮やかにキラキラして見えたあの時に戻りたい。
そんな方法ないのに、それしか考えられなかった。

別れたくない。

あの時にもしかしたら戻れるかもしれない。私さえ忘れれば、あれは友達だったかもしれないし。焦りすぎたかもしれない。そうすれば戻れる。また幸せなキラキラした世界に。
うん、信じよう。

そう思った先に彼は

「別れよう」

もっと世界が沈んだ気がした。
信じられなかった。
彼は疑う人とは付き合えないと言った。
邪魔だったんだろう。
これから疑われ続けすぐ泣く女と、軽くフラフラと会いたい時に会える女では後者の方が楽で自然体ないい女に見えたのだろう。

なぜだろう。なぜ私はこんなに苦しむのだろう。
私がどうすればよかったんだろう。
別れても忘れられるはずなんてなかった。
別れて正解だとみんなは言った。
正解なはずがない。
もうあの頃のキラキラした世界は見られない。
ずっと灰色の沈んだ世界でこれから生きなくてはいけないのか。
これが正解の世界なら、正解じゃない世界に行きたかった。

灰色の世界を色付けるのは、あの人しかいなかったんだ。


真里

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