夢の在り処3(掌握小説)
前回の小説2話はここから↓
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そして今、私は大阪からの帰宅の途についている。
ぼんやりと車窓の風景が山並みや街並みへと移動する中、車内のアナウンスから新幹線は次の停車駅である京都に差し掛かっていることを知った。
車内アナウンスのお兄さんが京都へ止まることを告知すると、電車は徐々にスピードをダウンさせて行き、やがてホームへと滑り込んで止まった。
京都では乗り込む人が多いようで車内は人が一気に増えた。
その中で通路を挟んだ私の向かい側に親子が乗り込んで来た。
四十~五十代ほどの母さんと思われる女性と、彼女に似ているようで似つかない私と同じ歳くらいの美少女だ。
腕や脚にレースをあしらった黒のワンピースドレスに身を包み、赤い口紅と透き通った鼻筋と切りそろえた前髪に後ろまで続く長い黒髪は毛先までとても綺麗に見えた。
そして控えめだが胸と腰のラインがしなやかなボディとなっている彼女は、とても私にとって理想的なスタイルをしている。
可愛い美女とはきっとあの子のことを言うのだと思う。
私は私の中でそうあの子のことを決め付けた。
通路を挟んでいるせいで、あんまり彼女たちの話し声は聞こえてこない。
また、通路を行き交う人々が彼女たちと私の間を遮るせいで私が彼女たちを見ていることも向こうは気づいてはいなかった。
この状況をいいことにさりげなく彼女を観察する私がいる。
いいな。あんな姿だったらきっとモデルを目指していた。
私は女子の中でも平凡な身長で、顔立ちもさして特徴のある顔をしていない。
特に胸よりもお腹の肉の方があるくらいだ。
だから体型がバレないよう普段は少し服装を細身に見えるよう工夫している。
また家を出る時はこっそり一重であるアイラインを二重に見えるよう目の周りを化粧でごまかしている。
でも大概は、周囲の男子よりも女子の目線を伺うために気をつけていることだ。
嫌われたくない。変な距離を置かれたくない。
その思いが私にみんなと同じような上げ底ブーツを履かせて歩かせているのだ。
頑張って自然な変化に見えるようごまかしているせいで意外にも他のクラスメイトにはバレていないようだ。
でも、私のような人間はあがいたってこれっぽっち。
むしろ私は私がどうにか張りぼてで作った自分で勝負しているだけなのだ。
私にないものを持っているあの子はまた違う道があるのだろうなあ。
そんなことをぼんやりと考えていた。
そんな折、乗っている新幹線の隣を別の新幹線が猛スピードで追い越していった。
風圧で車内は若干の抵抗を受けて揺れる。
この新幹線は、のぞみなどの新幹線に比べて格安な分、到着スピードは一.六倍ほどの開きがある。
ぷらっとこだまはやっぱりマイペースな新幹線なんだなと改めて思う。
世間の誰しもがこんなスピードで駆け抜けていけば、いつか私も遠くにいる存在になってしまうようなそんな錯覚を新幹線に投影していた。もっとも私を電車に例えるなら、新幹線ではなく鈍行の各駅停車をしている電車だろうけれども。
そんな私の脳内をよそに車内はさっき新幹線が隣を通過していったことを何事もなかったかのように感じさせるくらいゆったりと人々がお喋りをしていた。
その時、電車の発車のアナウンスが流れ、ぷらっとこだまはひっそりと京都を後にした。
出発を合図に私は暇つぶし用に持って来た英語のテキストを開き始める。
この空いた隙間の時間に何か勉強しなければと思い立ち、家から適当に詰めてきたものだ。
どの教科も平凡でこれと言って好きな教科はないけれど、英語という文学だけは私をどこか別の世界に誘ってくれるような心惹かれるものがあり、何かと英語だけはよく勉強していた。
でも高校の英語を学んでも私はこれっぽっちも外国人と話せることもない。
これをずっと続けて将来、社会に出た時に意味があるのかも今の私にはわからなかった。
もし今の私が英語をやり続ける理由があるのなら、受験勉強に入る今、周囲の大人や友達からの目で何もやらない子という社会の表品価値を下げるレッテルを貼られるのが嫌だっというそれだけだ。
そう考えるとさっき座っていたおじさんは、もう腐りかけのりんごのような存在かもしれないとふと思って、怖くなった。
ああいうふうになった大人はいつかどうなるんだろう。腐っているのだから捨てられてしまうのかな。だからこそ若いのはいいとみんなもてはやされるのだろうか。
そんなダークファンタジーのようなことをしばらく考えてしまっていたので、英語のテキストの内容は全くもって頭には入ってこなかった。
おかしいな。いつもはすっきりと英語に集中できるのに、今は自分の気持ちすらブレているせいかそれすらも集中できない。目標が何もなかった。
電車はいろいろな景色を追い越し、スピードを一定に保って行く。
新幹線から見る車窓はたくさんの建物や木々、山々を追い越してその全てが私の後ろへとすぐに消えて行く。
隣に見えていたであろう在来線の線路や道路もやがては消えて行く。
今日は空が曇天模様でかなり雨が降っているのだろう。
消えていった向こうは霧のように見えなくなっていることもまた多い。
これじゃあ、せっかく窓側の席に座ったのに富士山は見えないだろうな。
そんなことをぼんやり思いながら、雲のような霧のようなものが出た今の景色に、私の未来には一体、どんなことが待っているのだろうかと私の気持ちと天候を重ねてモヤモヤした想いが胸を覆っていた。
私は外の景色を見ながら、昨日のお姉ちゃんとの会話を振り返っていた。
<夢の在り処4へと続く>
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