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黒色に吸い込まれてゆく

昔は色が豊富で鮮やかなものが好きでしたが、今では黒色が一番好きです。黒色が一番際立つと思う白色との組み合わせで普段は絵を描いています。そこで黒色は私の絵作りの原型でもあると考えていることから、黒色について語ってみたいと思います。

どうして黒色が好きになっていったのか、振り返っていきます。

まず、真っ先に思い出すのは福岡市美術館所蔵のアニッシュ・カプーア作「虚ろなる母」という作品です。

この作品を観たのは今から4年くらい前の2019年頃だったと思います。それも偶然でした。時間が空いたので大濠公園の散歩を満喫しつつ福岡市美術館に行ってこの作品を観たのです。
この作品の何よりもすごいと感じたのは、中を覗き込むとまさに吸い込まれるような黒色の世界が拡がっていることです。
音で例えるのなら、何も鳴るものがない無音の世界。シーンと静まる空間。声を出しても全く聞こえないような世界。
現実にこういうものがあるのだと思い知らされました。

家電、家具、ファッションや雑貨等で黒色はたくさんのところで使われていますが、それらの黒色とは全く別のものと感じました。
黒色は性質として光を吸収しますが、それでも普段見ているような黒色は僅かに白く反射していると思います。
しかし、この作品の黒色は光が全く帰ってこないような黒色。まさに闇でした。
前述の通り本当に吸い込まれる感覚です。ただ一点のみを見つめ、奥へ奥へと行ってしまうような感覚です。黒色にはそうした、奥へ奥へと引き込んでしまう力があるのだと感じました。
このような黒色の世界は普段の生活ではあまり観ることがないと思います。部屋の電気を消して真っ暗にしても到達することは難しいのではないでしょうか。
それゆえに経験として大変面白いものになりました。そして作品の観賞後、あれこれと考えていくうちに黒色って面白いと思うようになったのです。

吸い込まれるような黒色の世界。どういうわけか、その世界に暖かさも感じるようになるのです。奥へ奥へと行ってしまうような感覚のせいでしょうか。色でこのように感じたのは黒色が初めてです。

黒色に怖さを抱く方も多いと思います。私も子どもの頃はそうでした。
その怖さの原因のひとつに、奥へ奥へ引き込んでいってしまう力を感じとっているのではないかと思います。ずっと見ているとどこかに連れ去られてしまうように感じるのかもしれません。光が吸収されて帰ってこないと同じように黒色を観ていると連れ去られたら帰ってこれないという気持ちにもさせられます。孤独や寂しさというものも黒色からは感じます。
もしかすると、そのようなことから心理的負担を避けるために、黒色の製品にはわずかに白い反射を施すようにしているのかもしれません。

黒色について少々語ってみましたが、黒色に関して私には疑問が一つあります。なぜ基本的に文字は黒色で書くのだろう。どうして文章でも基本は黒色なのだろう、と。
顔料の調達や見やすい読みやすい等の理由もあると思います。でも、それ以外の人間の根幹に関わるような答えに一つ近づいたような気もする体験でした。

余談ですが私のペンネームである黒磯惟人の「黒」はこうしたことから付けました。
黒色は面白い。本当にそう思います。



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