はじめてセミを持った日。(2022/08/28)
ベランダにセミが死んでいた。青空でもなく、ザラザラとした天井を、まんまるとした黒い眼で、見つめながら寝ていた。汚っねぇ排水溝で。
先ほど捨てた割り箸でつまんで落とそうかとおもったが、好奇心が湧いた。
ぼくは、その夏を取り返そうとした。
少し悩んだあと、恐る恐る、手で、つまんだ。
ベランダを覗き、下に誰もいないことを確認して、落とした。
くるくると横に回転しながら、宙を舞った。
こういう文章を書いているのだからといって、注意深く見届けたわけでもなく、すぐ目を離した。そういうものである。
ぼくだけが、秋へ向かった。
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