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玉が欲しい 高祖と呂雉と戚夫人の三竦み

 愛だの恋だの。
 そんなものは、どうでも良い。
 戚夫人は、わざとらしく高祖にしなだれかかった。
 そしてうんと、甘い声を出して、高祖の分厚く、柔らかい手を握った。
「北の使者より、世にも珍しい玉が献上されたと聞きました」
「うーん」
 戚夫人のマッサージは巧みだ。
 高祖はその気持ちよさに、声をもらした。
「何でも、龍の涙と言われているとか。
 青に緑が混じった、不思議な光を放っているとか」
「そうだったかいのう」
 高祖は、玉には全く興味がない。
 確かに、北の使者の献上品を目にはした。
 居合わせた宮廷人がどよめき、口々に、「これは、これは」など、言っていたのは覚えている。
 加工して、腕輪にすれば代えがたい一品だとか、いやいやこれを加工するなど、バチが当たる、価値が損なわれるなど、言っていたなと、思い出した。
 北の使者は得意顔で、「高祖様のお気に召せば何よりでございます」と、か言っていた。そして…
「戚は、その玉を見とうございます」
「ふうむう」
 戚夫人に手をモミモミされながら、高祖は「あっ」と、叫んだ。
「いかがなされました?」
 失礼でもあったかと、戚夫人が慌てて手を引いた。
 そういえば、あの時、呂雉がいた。
 皆からは姿を隠し、すだれの向こう、呂雉が玉を食い入るように、見つめていた。
「ああっ、ああっ」
 高祖は頭を抱え、ピヨンと起き上がった。
 その勢いで、戚夫人が寝椅子から転げ落ちた。
「きゃあ」
 戚夫人の悲鳴に、扉の外の女官たちがざわめくのが分かる。
「苦しゅうない、苦しゅうない」
 そう叫びながら、高祖は部屋を飛び出した。

 
 呂雉は分かっていた。
 あの時、夫が、高祖が玉を見て何を考えていたか。
 あの、優柔不断の、女好きのスケベジジイは、戚夫人が喜ぶだろうなあ、と考えていたに違いないのだ。
 だからこそ、世にも珍しい玉が献上されると宦官から聞いたからこそ、呂雉はめかし込み、希少な香の匂いをプンプンさせて、すだれの奥深くに、座っていたのだ。
 高祖は、呂雉が公式な場所に姿を現すのを、嫌がる。
 それはどんなに寵愛した側室も同じだ。
 あんなに女にだらしなく、言いなりなくせに、と呂雉は鼻を鳴らした。
 女に操られてるって思われるのが、嫌なのよね。
 プライドだけは、龍なみ。
 それに比べて、項羽ときたら、と呂雉はうっとりした。
 稀にみる美丈夫とは、あの人のこと。
 整った、高貴な顔立ち。
 余裕で六尺はあろうかという、上背。
 くぐもった、でもよく通る声。
 そして、あの目!
 呂雉はブルッと身震いした。
 あの目よ、あの目!
 あの目で見つめられて、平気でいられる女なんて、いるのかしら。
 お義父さんと私が捕まった時、側近たちは、口々に私たちを処刑するよう進言した。
 あの時、私たちはどん底だったし、項羽がその気になれば、赤子の手をひねるように、せん滅できたろう。
 でも、項羽は言ったのだ。
 我はそのような手は使わぬ。
 年寄りや女人を手に掛けてまで、勝とうとは思わぬ。
 周囲の将軍は息をのみ、一勢にひざまずいた。
 その中、堂々と立つ項羽に、呂雉は恋をした。
 そう、呂雉は恋をしたのだ。
 一生に一度の恋。
 見返りを期待しない、恋。
 項羽には虞美人という、生涯の恋人がいた。
 呂雉も、一度だけ、見たことがある。
 長い髪を風になびかせて、薄絹をまとった彼女は、まるで天女のようだった。
 そしてふたりは、顔を寄せ合い、何やら言葉を交わし、微笑んでいた。
 天上の美。愛とは、こういうもの。
 それに引き換え、と呂雉はため息をついた。
 項羽に捕まりそうになり、妻と父親を見捨てて馬車で逃げた。
 早く逃げたいあまり、馬車にいた自分の子供ふたりを、何度も突き落とした。
 そのたびに御者が馬車を止め、子供たちをすくい上げた。
 でも夫は、その御者の行動が気に入らず、わしを殺す気か!と、切り捨てようとしたとか。
 かろうじて、御者がいないと、自分も逃げられないと気がついて、思いとどまったとか。
 本当に下らない男だ。
 それに比べて項羽は…と思い、呂雉は頭をブンブン振った。
 あの男は、夫に敗れた。
 惚れ惚れする男だったけど、もう死んでしまった。
 さて、玉。
 そろそろ、戚夫人にそそのかされた高祖が、泡食って駆けつける頃だ。


 「高祖様のお出まし」と、侍女が声を上げるのと、高祖が部屋に転がり込んで来たのは、当時だった。
 ゼイセイと肩で息をしながら、高祖は今にも倒れそうだった。
 是非もない。
 皇帝となってから、自分で歩く事もなく、美食と酒に溺れ、肥え太る毎日。
 若い頃はそれなりに、見れなかったこともない。
 粗野な人間ではあったけど、不思議と、人を引き付ける物があった。
 ただそれだけて、夫はここまで登り詰めたのだ。
 でも今は、ただの太った老人だ。
 白髪交じりの髭には菓子くずらしきものが付いている。結い上げた髪は乱れ、艶もなく、薄い。腹はダブダブと垂れ下がり、目をソムケタクなるほど、醜悪だ。
 まだ若い戚夫人が、なぜこんな男に夢中なのか、と呂雉は夫を見ながら思った。
 いや、彼女は、夢中なフリをしてるだけなのだ。
 なぜなら、夫は皇帝だから。
「お越しなさいませ」
 そう言いながら、呂雉は頭をゆっくりとさげ、膝を曲げた。
 口元には、侮蔑の笑みを浮かべながら。
 呂雉より背の低い高祖は、「ふんふん」と満足げな声をもらし、椅子に座った。
 侍女が急いで、酒を持って来る。
 去って行く侍女の胸元を、穴が開くかと眺めながら、高祖は杯に手を伸ばした。
「突然のお出まし、いかがなさいました?」
 呂雉はなるべく優しい声で、高祖の杯を満たしながら、聞いた。


 これだからこの女は、と高祖は心の中で舌打ちした。
 久しぶりに夫に合うのだ。ふたりきりで。
 お越し頂いてありがとうございますとか、嬉しゅうございますとか、言えんのか、こいつは。
 目の前で、三白眼で済まし込んでいる、女。
 目元涼しく、お美しいとか、スラリとしたお体は、まさに高貴に他ならないとか言われているがと、高祖は酒を呑みながら思う。
 物は言いよう、全く潤いのない女だ。
 それに比べて。
 戚夫人の、あの愛らしさはどうだ!
 バッチリと見開いた、ウルウルした瞳。胸はムッチリ大きく、まるで桃のような尻。
 コロコロと、鈴を転がしたような笑い声。
 何より、わしを見た時の、あの、嬉しさが滲み出ている態度。
 やはり戚夫人は可愛いのう、と高祖はシミジミ、頷いた。
「いかがなされました」
 明らかに苛立った呂雉の声。三白眼が、キラリと光る。
「おおっ」
 高祖は慌てた。ここで呂雉を怒らせては、目論見が泡と消える。
「この酒は美味いのう」
「恐れ入ります」
 しかし、うっとおしい顔だわい、と高祖は酒を呑みながら思った。
 昔、はるか昔。
 高祖が小役人だった頃。
 呂雉の父は、それなりの役人だった。
 大ぼら吹いて、酒席に上がり込んだ高祖を見込んで、呂雉を嫁にするよう、頼み込んできた。
 呂雉の見た目や、性格は全く、高祖の好みではない。
 表情のない、ノッペリした顔。鶏ガラのような、ギスギスした体。
 確かに、呂雉は良い嫁だった。
 貧乏に文句も言わず、子を産み、田畑を耕し、義両親にも仕えた。
 高祖の浮気にも、何も言わず、それどころか下手な女に手を出した後始末をしてくれたこともある。何度も、ある。
 だからこそ、高祖の運は呂雉ありきだと言う者が多いのだ。
 貧乏だった時代、たまたま居合わせた卜者に、「将来は天下を取る貴相であられる」と言われたことも、呂雉を良い気にさせてるのだと、高祖は思う。
 などと、文句を言ってる場合ではない。高祖は咳払いをし、呂雉に笑いかけた。
「ところでのう、先日、北から届いた品なんじやがの」
「北?」
 呂雉は不思議そうな顔をした。
 北ね、と思いながら。あの、玉よね、と。
 「う、うむ。北からの、あれじゃよ、あれ」
「はあ、と申されましても、貢物など、毎日山のように届きますし。私には、分かりかねます。
 宦官が管理していると思いますが」
 まさに、木で鼻をくくったような返事に、高祖はムッとしてものの、ここは我慢と下手に出る。
「ほれ、そなたも見たであろう、あの玉じゃよ」
「ああ、あの」
 ようやく呂雉が得心したように言う。三白眼が、ますます冴え冴えと光る。
「覚えております。あの龍の涙はかくやとも思える」
「う、うん。そんなに立派だったかいの」
 高祖はむせそうになりながら、言った。
「ええ。北の使者も、得意気でしたわね。
 側近たちも、感じ入っておりましたもの」
 呂雉の赤い口が、ヒラヒラと動く。
 そなたはどうなのじゃ、と言いかけて、高祖はグッと言葉をのんだ。
「わしはそこまで立派だとは、おもわなんだがの」
「私は」と、呂雉。
「ずいぶんと立派だと思いましたわ」
「そうかのう。
 皇后たるものには、不足かと思えるがの」
 呂雉は目を見開いた。わざとらしく。
「あのような立派な玉。国の宝になさるべきかと思いましたわ」
 高祖の杯に、酒を注ぎながら言った。
 高祖はムムムとうなりながら、酒を飲み干す。
 全く、女とはヤッカイなものだ。
 呂雉は、あの玉を戚夫人が欲しがっていると、気づいていながら、惚けているのだ。
「あれを国の宝にか?それ程の価値があるのかの!」
 しまった、と高祖は口にして思った。
 こんな事を言ってしまえば、あの玉の価値が、下がってしまう。
 例え手に入れても、戚夫人はどう思うだろう。
「価値を決めるのは、皇帝たるあなた様でございます」
 呂雉が嚴かに言う。
「皇帝たるあなた様が、あの玉は国の宝にふさわしくないと言われるなら、あの玉の運命は決まったも同然でございます」
 複雑な顔で酒を飲み干す高祖を見ながら、呂雉はニタッと言い放った。


 玉は戚夫人のものになった。
 でも、玉にまつわる皇帝と皇后の会話は、宮廷中を駆け巡った。
 見事な、妖しげな光を放つ玉を前にしても、戚夫人は、面白くない。
「おお、おお。北の使者が言うだけのことはあるな」
 高祖は玉を見ながら、感心して言う。
 確かに、と戚夫人も思う。
 見事な玉だ。
 これ以上の逸品は、中華広しといえど、2つとないだろう。
「確かに、立派でございますわね」
 戚夫人が、言う。
 その言葉に、高祖はニコニコした。
 戚夫人が言葉に含ませた、皮肉に気付かずに。
 意味がないのよ、これでは!
 戚夫人は、悔しさに、涙が出そうだった。
 確かに、この見事な玉は、私のものになった。
 私がこの玉を望んで、手に入れた。
 高価で、2つとない物。
 私が望めば、手に入れられぬ物はないのだ、と。
 この、横にいる、呆けた顔の老人の力を、戚夫人は思いのままにできるのだと。
 ただひとり、呂雉を除いて。
 あの女に、戚夫人の力は通用しない。
 戚夫人が、皇帝を指で操っても、それをいつも、あの女がミソをつける。
 今回もしてやられた。
 私が欲しかったのは、国宝級の玉。
 その価値がある、玉だった。
 なのにあの女は、高祖をうまく言いくるめ、その価値を、落としめた。
 龍の涙かなんだか知らないけど、もうこの玉には興味がない。
 糟糠の妻かなんだか知らないけど、あの女には、本当に腹が立つ。
 夫に捨てられた、哀れな飾りだけの皇后。
 戚夫人はキッと頭を上げた。
 そして、ガブガブと酒を呑む高祖に寄りかかる。
「高祖さま、本当にありがとうございました。
戚は、本当に嬉しゅうございます」
 とろけるような甘い声で、高祖の目を見つめながら、ささやいた。
 高祖の顔が、デレデレと伸びた。
「ふむふむ。お前は本当に可愛いのう。
 これからも、何でも望みを叶えてやるぞ」
 高祖の言葉に、戚夫人は内心、ヤッタと舌を出す。
 今までは、宝石とか、土地とか。身内に分不相応な贈り物だったけれど。
 そろそろ本気を出す時だ。
 高祖は年寄りだ。
 酒が好きで、美食を好む。
 医師に止められても、好き放題している。
「そのお言葉だけで、戚は天にも登る気持ちでございます」
 戚夫人は甘えた声をだす。
 高祖はニヤニヤと、戚夫人の髪をなでた。
「そちは欲のない女よのう」
 上目遣いで、高祖を見上げる。
 下から見る高祖の顔は、弛んだ頬に垂れ下がった鼻。酒焼けして赤らんだ顔。
 死相が出てるんじやない?と、戚夫人は不安になった。
 死ぬ前に。キチンとケジメをつける、話がある。
「戚が心配なのは、息子のことでございます」
「息子が?なぜじゃ?」
 高祖と戚夫人の間には、息子がひとりいる。
 とても利発で、穏やかな優しい青年だ。
 そして、高祖と呂雉の間にも息子がいる。
 戚夫人の息子より年かさだが、ふたりはとても仲が良い。
 容貌も良く似ており、母親違いとは思えないほどだ。
「ふたりは仲良くしておる。何が不安なのじゃ」
 高祖はよくわからないと、頭を振った。
「もちろん、皇太子さまには仲良くして頂いております。ただ、私は」
 戚夫人は、うつむいた。
「私は力のない、無力な女でございます。
 呂雉さまのように家柄が良いわけでも、頭が良いわけでもありません…」
 はん!と高祖が笑った。
「家柄だと?呂雉は田舎の小役人の娘じや。
 そちはどうだ?れっきとした貴族の娘てはないか」
「そう言ってくださるのは、高祖さまたけですわ」
 戚夫人は高祖に抱きついた。
 戚夫人の髪の毛から漂う香が、高祖の鼻腔をくすぐる。
「皇太子さまが、ご立派なのは重々承知しております。非の打ち所がないということも。
 では、我らの子は?」
「おうおう、我らの子は、完璧じゃ。
賢く、性格も良い。臣下にも好かれておる」
「私は見たいのです」
 戚夫人は、高祖の手をとり、そっと自分の胸元に差し入れた。
 老人のガサガサした手を感じながら、戚夫人は思い切って言う。
「息子を皇太子にしてくださいませ。
皇太子という位は、我らの息子にふさわしいと思うのです」
 高祖の、戚夫人の胸元に入った手の動きが止まる。
 戚夫人は急いで、その手をより奥へと差し入れる。
「戚は呂雉さまが怖い…。
 あの、目が怖い…」
 高祖の手が、じっとりと汗ばむ。
「いつまでもこうして居られれば」
 戚夫人の声は、シットリとして、高祖の体を押し包む。
「戚はそれだけで幸せなのです。
ただ、息子のことを思うと、胸が張り裂けそうになるのです」
 戚夫人は囁きながら、高祖の指を唇でもてあそぶ。
 高祖は、ムフウと、荒い息を吐いた。


 戚夫人が、皇太子の位を望んでいることは、易易と呂雉の耳に届いた。
 それを聞いた呂雉は、顔色こそ変えなかったが、無言で、杯を投げた。
 あの女!
 卑しい身分の、あの、若さだけが取り柄のバカな女!
 愚かな老人に取り入り、私を足蹴にしたうえに、私の息子までも、貶めようとするのか!
 侍女が、恐る恐る、新しい杯と酒を運んできた。
 そして、去ろうとするのを、呂雉は呼び止めた。
「あの者はどこにおる?」
侍女は当惑した。
「あの者、でございますか?」
「そうじゃ。元豚飼いとか言っておった者じゃ」
「豚飼い…」
「呼んで来るのじゃ!」
 呂雉の鋭い叫び声に、侍女は急ぎ足で、出て行った。


 元豚飼いの女は、最近入った下働きだった。
 呂雉が庭を散策していた時、たまたまその女が現れた。
 女が急いで立ち去ろうとしたのを、呂雉は見逃さなかった。貴人の前に姿を現すなど、死刑に値する。
 呂雉は、侍女に命じ、その女を取り押さえさせた。
 呂雉に前に引き出された女は恐怖で震えていた。
 ムチ打ちを命じようとして、呂雉はふと気がついた。
 豚の匂いだ。
 昔、貧しかった頃、田畑を耕し、豚を飼っていた。
 豚の世話は、田畑に比べると簡単だった。
 便所の下に豚を放つのだ。そうすれば、豚は好きなだけエサを貪り、ブクブクと肥え太る。
 そして清潔好きな豚は、便所の片隅を器用にきれいにして、寝床を作る。
 何故かその時、呂雉はその思い出を懐かしいと思ったのだ。
「そなたは」
 呂雉は言いかけて、その女をマジマジと見た。
 この女、案外きれいな顔をしておる、呂雉はそう思った。
「先程は、何を話しておった」
 女はもうひとりの侍女に、何かを話していた。
 その侍女は、呂雉の気配を敏感に感じて、逃げ去ってしまったようだ。
「あの、私は…」
 女は言い淀む。
 イライラした呂雉はもう一度、言った。
「二度目はない」
 呂雉の言葉に震え上がった女は、つっかえるながら、話し始めた。
「豚の話です」
「それで?」
 大人しく話を促す呂雉に、周りの侍女は、驚きを隠せない。
 いつもなら、この女はムチを打たれ、宮廷からたたきだされているだろう。
「私の村では、豚と暮らす女がおりました。
 豚を便所の下で飼うのてすが、そこでその女は、豚と暮らしていたんです」
「ほう」
 呂雉が面白そうに、相槌を打つ。
「その女は、豚と寝起きを共にして、村の男を相手に、春を売っていました。
 それで、食べ物なら服やらを手に入れてたんです。
 その女の体からは、すざまじい匂いがしていてました。村の女はその匂いを嫌って、決してその女と関わろうとしませんでした。
 女はたちは、人間豚と呼んで、嘲笑ってました」
 呂雉は、笑った。
 侍女達は驚いて、顔を見合わせた。
 こんなに楽しそうな呂雉を、見たことがない。
「面白い話だ」
 さんざん笑って、呂雉はその下女を許した。褒美まで、とらした。


 元豚飼いの下女が、オズオズと現れた。
 呂雉は、優しく言った。
「そなたの、人間豚の話をしてたもれ」
 呂雉の瞳はさんざんと輝き、赤い口は耳元まで裂けていた。




 

 




 

 

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