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言葉という故郷

 ジョナス・メカスという詩人・映像作家がいる。
 彼はリトアニアの出身で、ナチスの侵攻とともに収容所に入れられてニューヨークへ避難をする。その後は終生、ニューヨークに居続けた。
 彼は言う。
 リトアニアの言葉の中に自分の故郷があるのだと、さらに言えば言葉を使うことによって、故郷の過去の人々とつながるのだと。
 土地の代わりに言葉がある。
 日常的に使っている言葉によって、絶えず故郷とつながっているのだ。
 小説家の古井由吉は中年をすぎたころから古代ギリシア語やラテン語を学び始めたのだそうだ。
 これは推測なのだが、言葉を学ぶことによって、そうした言語で原書で読みたい、理解を深めたいという目的以上に、言葉の発生に近い、言葉の故郷と言うべき言葉を学ぶと言うことで、古代の人たちと言葉によって深い所でつながるという意識もあったのではないか。
 文学は終わったと言われることも多いが、私はそうは思わない。
 言葉と言うものは、人間の歴史を背負っているからだ。

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