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TRPGシナリオ創作論 -7- 読みやすいテキストを書くために

はじめに

 こんにちは、黒崎江治です。最近はソード・ワールド2.5のキャンペーンが佳境になっていて、シナリオ制作からやや遠ざかってますが、リハビリを兼ねて今回の記事を書いています。

 私は新クトゥルフ神話TRPGのシナリオ作者としてRole&Rollに寄稿したことがあるほかに、講談社レジェンドノベルから小説を出した経験があります。

 この記事では上記のような経験なり実績なりをもとに、分かりやすい、読みやすい文章という観点から、シナリオ制作について語りたいと思います。例をたくさん挙げるのでちょっと長くなってしまいますが、頑張ってお付きあいください。書くにあたっては新クトゥルフ神話TRPGを念頭に置いていますが、ほかのシステムにも共通する部分は多いと思います。

分かりやすさは改善しやすい

 シナリオのよさはいくつかの要素から成り立っています。独創性、演出、GM(KP)のやりやすさ、描写の美しさ、ゲームバランス、等々。特に独創性や演出はシナリオの個性とも言える部分なので、作者としては力をいれたくなります。でも、これらは狙ってよくするのが難しい。なんとなくやっているうちに偶然よくなった、あるいはテストプレイでの出来事を組み入れたらいい感じになった、というケースが多いのではないでしょうか。

 一方で、文章の分かりやすさ。これは上記に比べれば、努力や注意深い修正で改善しやすい要素です。身内で遊ぶ分には箇条書き程度でも問題ないですが、審査員がいる公式のシナリオコンテストなんかにおいては、文章自体も結構評価されます。「ほんとぉ?」と思う人は、実際に確認してみましょう。『クトゥルフ神話TRPG』/『新クトゥルフ神話TRPG』シナリオ・コンテスト入賞作の中には、いくつか無料で公開されているものがあります。読みやすいものが多いです。

 シナリオにおける文章の分かりやすさは、勉強すれば比較的容易に得点できる科目みたいなものです。ひとつの科目の点があがれば、総合得点もあがります。勉強し、パターンを覚えましょう。

小説との差異を意識する

 TRPGシナリオと小説。人に読ませる文章という意味では同じですが、書き方には結構違いが存在します。小説の一文として読めば素晴らしいが、シナリオテキストとして読むとよく分からん、ということは充分にあり得ます。この部分ではシナリオと小説の違い、という観点から改善の方法を書いていきます。

レトリックを多用しない

 レトリックとは言葉を巧みに使って美しい表現をすることです。小学校だか中学校だかの国語の授業で、倒置法とか擬人法とか隠喩とかの言葉を聞いたことのある人は多いと思います。以下はレトリックを駆使して小説っぽく書いた文章。

 おもむろに腕をもたげるカール・スタンフォード。彼の口からおぞましい音節が紡がれた直後、探索者たちの武器が手の中で踊る。

 かっこいい感じはするし、よく読めばなにが起こっているかは分かるけど、具体的な状況を脳内で描くのに若干のカロリーが必要ですね。読み手のカロリーはセッションに使ってほしいので、もうちょっとシナリオっぽく書いてみます。

 カール・スタンフォードがおもむろに腕をもたげる。彼が呪文を唱えると、探索者たちは武器を持っているのが難しくなる。

 かっこよさはともかくとして、少し理解が容易になりました。とはいえ全体がそっけない文章だと書くのも面白くないと思うので、要所とか描写ではここぞとばかりにレトリックを使ってもよいでしょう。

想像の余地を残さない

 多少残してもいいんですが、残しすぎない方がよいです。少なくともシナリオテキスト上は。GM(KP)でなくプレイヤーに想像の余地を残すのは演出の範疇なので問題ありません。例を挙げてみます。

 ベッキーはライフルの柄を強く握ったまま、曖昧な笑みを浮かべる。

 ベッキーちゃんの内心を想像するのに少しカロリーが必要ですね。想像の余地を少なくするために、文章を足してみます。

 ベッキーはライフルの柄を強く握ったまま、曖昧な笑みを浮かべる。彼女は探索者を受け入れているように見えるが、その態度はいかにもぎこちなく、いまだ強い警戒心を抱いていることが窺える。

 少し長くなりましたが、ベッキーちゃんの内心を読み取るのが楽になりました。文章の後半をプレイヤーに開示するにあたって、GM(KP)はなんらかの判定を求めることになるかもしれません。

主語と目的語を省略しない

 行動したのは誰か。行動の対象は誰(なに)か。小説でいちいちこれを書くと美しくない文章になってしまうんですが、シナリオで省略しすぎると読み手が補わないといけなくなり、これまたカロリーを消費してしまいます。

 ベッキーは激昂し、素早く銃口を向けてくる。引鉄にはすでに指がかかっていた。

 ベッキーちゃんの情緒が不安定なのは気にしないでください。主語と目的語を補ってみます。

 ベッキーは激昂し、探索者たちに素早く銃口を向ける。彼女はすでに銃の引鉄に指をかけている。

 こうした修正ひとつひとつの効果は小さいかもしれません。でもシナリオ全体に粘り強く修正を加えていくと、読んだとき(特に流し読みしたとき)の分かりやすさはぐっと向上するはずです。

 小説との比較はここまで。以下ではもう少し一般的な観点で語ります。

文のねじれに注意する

 文章をあまり書きなれていない人がしやすいミスです。「文がねじれている」というのは、文頭と文末(あるいは主語と述語)が対応していないということです。典型的な例を示します。

 ベッキーが自然を愛するのは、幼少期、ロッキー山脈の麓で両親と穏やかな生活を送った思い出がある。

 ねじれてます。ベッキーが自然を愛する理由を述べたいので、以下のように修正します。

 ベッキーが自然を愛するのは、幼少期、ロッキー山脈の麓で両親と穏やかな生活を送った思い出があるからだ。

 気をつけながら書く、あるいは注意深く推敲すれば、このようなミスを犯さずに済みます。ただ自分で何回も読んでると分からなくなってきたりするので、文章を読みなれている人にチェックしてもらうのもよいと思います。

セクションの構成を整える

 私の作るシナリオは、だいたい10~15のセクションに分かれています。冒頭のセクションと中盤のセクションではもちろん役割も書き方も違いますが、ここでは主に中盤、探索場所やイベントについて書くときを考えてみます。とはいえ、ここは作者によって差が大きいところだと思うので、あくまでサンプル・参考程度に捉えてください。

探索場所

・どのような役割を持った場所であるか。
・そこになにがあるか。
・入った瞬間に起こる出来事、目に入るもの
・プレイヤーキャラクター(PC)が積極的に調べられる場所、得られる情報
・得られたものの意味、PCはそれを使ってなにをおこなえるか

 だいたいこんな順番でこんな内容を書くと、セクションとしての体裁が整うかと思います。もちろん上記すべてを書く必要がない場合もあり、上記以外のことがたくさん書かれている探索場所もあるでしょう。広い場所、ものがたくさんある場所なんかは、これらの記述が入れ子構造になっていることもあります。

イベント

・どのタイミングで起こるか
・なにが起こるか
・GM(KP)から要求する判定→成否に応じた結果
・PCに与えられる選択肢→選択に応じた結果
・イベント後の展開

 探索場所の部分にも言えますが、なんらかのフラグによって展開が変化したり、判定をおこなったり、複数の選択肢があったりした場合、それらによって発生しうる結果を、ある程度まで網羅しておかなければいけません。文の構造が複雑になりやすいので、特に注意して書く必要があります。下記は単純化した例。

 探索者たちが洞窟に入った直後(タイミング)、怒り狂ったノフ=ケーが襲いかかってくる(出来事)。怪物の咆哮が洞窟全体を揺るがし、無数の氷柱が探索者たちの頭上に降り注ぐ(出来事)。このとき〈回避〉(要求する判定)に失敗した探索者は、突き刺さった氷柱によって1d6のダメージを受ける(判定の成否に応じた結果)。
 探索者たちはノフ=ケーに立ち向かってもよいし、すぐさま逃げ出してもよい(選択肢)。もしその場にベッキーがいるならば、探索者たちが逃げ出す際、彼女を素早く転ばせて、囮にすることができる(フラグによる展開の変化。前文を受けてのさらなる選択肢)。転倒させられたベッキーは続くチェイスにおいて、通常の位置よりひとつうしろからスタートする(選択の結果)。
 探索者たちがノフ=ケーを殺すか、無事に逃げ切ったならば、あとはなにごともなく麓まで辿り着くことができる(その後の展開)。

おわりに

 ここまで書いたいくつかのポイントは、人によって意識しているかどうかが結構バラバラな印象です。その作者のクセのようになっていたりして、自分ひとりでは気づかないケースも多いと思います。この記事ですべての改善方法を網羅しているわけではないですが、少しでも参考になるところがあれば幸いです。

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