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『古今伝授 細川幽斎と和歌の道』

タイトル:古今伝授 細川幽斎と和歌の道
著者:新谷弘
ジャンル:文学、小説
発行年月日:2018年9月
発行元:文芸社
備考:細川幽斎は生涯を戦に明け暮れた人だった。また政治的にもいくつもの決断を強いられた人生だった。信長、秀吉、家康の三人の天下人に仕えたことで知られる彼の、武将としてではなく、和歌の第一人者として、古今和歌集の解釈を一子相伝の形で伝える古今伝授を受けるという知られざるもうひとつの生涯を、武将としての姿とともに、全体像を鮮やかな物語として描いた歴史小説。

感想

 歴史小説と銘打ってはあるが、地の文体はどちらかというと細川幽斎の足跡をたどる人物評としての側面が強いように感じる。当時の政治的判断、戦の流れ、そしてこの本の軸となる「古今伝授」を細川幽斎がどのような経緯で受け継ぎ、さらに次代へと受け渡したか、そうした一連の流れをなぞるように綴られている。
 小説としての側面で言えば、個人的には備後・鞆の浦で過ごす足利義昭と幽斎が十四年ぶりの再会を果たしたシーンが気に入っている。この義昭公は幽斎のことを己と決別した当時のまま「藤孝」と呼ぶのですが、この表現にときめいたし、平伏する幽斎をじっと見つめたあと、義昭から「藤孝、頭を上げよ。そしてこの床几にかけるがよい」と声をかける。なんていうエモ。
 はじめは無言のままに海を眺めていた二人が、やがて戦の情勢や、二人が別れた時期のことを語り合う。その後、当時のことを振り払うかのように再び現在の話へ戻した義昭は、幽斎が行っていた古今伝授の話へと話題を移していく。互いに、その方が気安い空気になっているのが良い。
 最後、別れの挨拶をする際に義昭は、かつていつも頼んでいたように鞆の浦の海を見て「では藤孝、最後に発句を所望じゃ」と口にするのだ。いやっ……なんだよ~~~~~~~(語彙のないオタク)エモーショナル主従か?

 著者である新谷氏は「古今伝授」という我が国の歌道における奥義を切り口にして、細川幽斎という人に興味を持ったようです。著者なりに調べたことをまとめ、細川幽斎という人物を描き出した物語は、「細川幽斎の歌道」の入門編として良いと思います。あと個人的にちょっと感じたのは、桑田忠親先生の『細川幽斎』を参考にしているんだろうなということです。たぶんね、知らんけど。

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