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過去の投稿:【ゴルフ石川遼選手の腰痛】を分析*2019/05/06個人フェイスブックの投稿より

はじめに

2019年5月6日、その当時から腰痛専門を謳っていましたが、個人のFacebookに投稿した【ゴルフ石川遼選手の腰痛】については多くの方に読んでいただきました。


今までスポーツ選手の腰痛については触れてきませんでしたが、アスリートだからといって一般の方と違うところはなく同様の考え方で腰痛の分析を行うことができます。


Facebook上では過去の投稿を改めて引っ張り出すことが大変なので、こうやってブログに転記したいと思います。


【ゴルフ石川遼選手の腰痛】

注意!:思ったより長文になりましたので、根気強く最後まで読んで頂けたら幸いです。

男子プロゴルフツアー中日クラウンズ2日目
「石川遼選手腰痛のためプロ生活12年目で初の棄権」とのニュースが飛び込みました。

前日の1日目に腰痛が再発し、その日の夜に治療に励んだとの事でしたが痛みが引かず無念の棄権。

腰痛で苦しんでいるゴルファーは多いとのこと。ゴルフは全くのど素人で知識もない私ですが、腰痛で苦しんでいる方のことを知るとどうしても何とか良くなって欲しいと思ってしまいます。

情報不足は否めませんが、ここ数日ニュースで流れた情報や動画などから
現在の石川選手の
・腰痛の病態仮説
・治療の方針
・トレーニングの方針など
オランダ徒手療法の立場から一意見として考えを述べたいと思います。
腰痛で苦しんでいる人が少しでも救われることを願って…。

メディアから得られた情報

ニュース情報より
・今年4月中旬練習中に第5腰椎に痛みが出て国内開幕戦は欠場
・異変が起きたのは8番でティショットを打った直後
「3Wで右からフック目に打って、良いショットだったけど、その時にちょっと腰が抜けたというか、フィニッシュの足の位置から一歩も踏み出せなくなった。
・「腰が抜けた感じ。フォロースルーからフィニッシュの間で、痛かった。そこから足が動かなくなりました。本当に、どうしたらいいか、分からなかった」
・後半はティショットで2番アイアンを用いる場面もあり、「ダウンブローに打って、地面にクラブを刺してフォローで減速させないと腰が抜ける感じがした」と恐る恐るのプレーとなった。
・前夜は「(整体の)先生に診て頂いてアイシングをして、少しおさまった感じはあったんですが、一日では炎症が治まらなかったです」
・「起きた時の方が厳しかった」


情報の分析と解釈

これらの少ない情報をオランダ徒手的な問診で整理してみると、
「今」
・痛みの部位:第5腰椎
・腰が抜ける感じがする
・スイングのフォロースルーからフィニッシュの間で痛い
・アイシングによって少し楽
・起きた直後は痛み強い

「経過」
・きっかけ:8番でティショットを打った直後
症状の表現や出方で特徴的なのは、「腰が抜ける感じ」、「起きた直後が痛みが強い」ということ。

これらから石川選手の病態は「不安定性腰痛」ではないかと予想した。


不安定性腰痛とは?

この「不安定性腰痛」の特徴は
・椎間板が薄くなっている。
・椎間板が薄くなった結果、椎間を結ぶ靭帯の緩みが生じ「不安定性」が生じる。
・腰部を深層で安定させる多裂筋などのインナーマッスルの働きが抑制される。
・逆にアウターマッスルと呼ばれる脊柱起立筋の収縮が過剰になっている。

恐らくであるが、第5腰椎の「不安定性」が生じているのではないかと考える。

このような場合、腰部の組織に組織損傷が生じている場合は少なく、仮に軽微な損傷が生じていたとしても大きな炎症が生じることはないと考える。

そのため、アイシングをしてもさほど症状の変化には影響を及ぼさなかったのではないか?

少し治った感じがしたのはアイシングの効果としてエビデンスが高い疼痛抑制の効果が得られたためではないか?と考えた。


ゴルフスイングと腰痛の関係性

次に視点を変えて、痛みが出た瞬間の場面について

ゴルフのスイング

①アドレス②テークバック③バックスイング④トップオブスイング
⑤ダウンスイング⑥インパクト⑦フォロースルー⑧フィニッシュ
の8つのフェイズに分かれるそうだ。

そして、今回痛みが出たフェイズは⑥インパクトではなく、打ち終えた後の⑦フォロースルー⑧フィニッシュであった。

インパクトであれば、腰にはかなりの衝撃が加わるため容易に想像できるが、今回はその後のフェイズ。

衝撃が加わるインパクトの瞬間はインナーマッスルもアウターマッスルも関係なく、「共収縮」といって体をガチガチに固める反応が起こる。

そのような共収縮の場面では「不安定性」がある腰にとっては逆に好都合で腰は安定する。

しかし、「共収縮」を終えた後のフェイズではガチガチに固めた体幹が緩む瞬間がある。

その際に「不安定性腰痛」では適当な減速に必要な外力に対してそれに見合った関節を安定させるインナーvsアウターのバランス(サイズの原理)が崩れている。

そのため、インナーが関節をしっかりと安定させることができなくなる。

それがインパクト後のフェイズで「腰が抜ける」というような「不安定性」を想像させるような表現をしている原因ではないかと考えた。


神経生理学的な視点からの考察

さらに神経生理学的な視点も含めると、今回の第5腰椎の痛みがかなり強い場合、または過去の腰痛を騙し騙しでプレーしており慢性的な症状を持っている場合には自律神経の第2腰椎にも影響を及ぼしている可能性が高い。

第5腰椎神経支配領域の軟部組織には萎縮や癒着、硬結が生じたり、関節の遊びが少なくなりスイングを妨げる可動域制限が生じている可能性もある。

しかし、今回は神経生理学的視点には深く触れないでおこうと思う。


「不安定性腰痛」の治療・トレーニング

さて、このような「不安定性腰痛」をどのように治療・トレーニングしていくか?
これは何をゴールとするかでプログラムは全く違ったものになっていく。

しかし、ゴールが何であれ共通しているのは
・椎間板を厚くして、静的な「安定性」を獲得する
・インナーマッスルを鍛えて、動的な「安定性」を獲得する


ここで注目すべき点は「フォーム」を変えるという戦略をあえて加えていない点である。


昔のニュース記事にあったが、石川選手は以前腰痛になった際には「腰に負担がかからないフォーム」に改造するということに取り組んだらしい。

それは大変良いことだと思う。

しかし、「腰に負担がかからない」というのは腰の組織にかかる負荷を減らし(逃がし)ているに過ぎず根本的な解決にはなっていない可能性もある。

ゴルフのスイングを見るとわかるように、腰に圧迫や伸張などのメカニカルストレスがかからないスイングを行うことはほぼ不可能だからだ。必ず何かしらの組織にメカニカルストレスはかかる。

ということはスイング中に加わるメカニカルストレスに耐えられる組織を作り上げる必要がある。

運動器の治療やトレーニングでは「負荷を逃す」と「組織を鍛える」の2つの要素のバランスを考えながら展開していくと上手くいくことが多い。

これまでフォーム改造という「負荷を逃す」という視点に重きを置かれていた石川選手であるので、今回はあえて「組織を鍛える」という点に重きをおいてみようと思う。


スポンジ効果とは?

具体的には何を行うか?
椎間板の厚みを回復させるには「スポンジ効果」を使う。

血流が豊富な組織であれば血流が酸素や栄養を組織内に運んでくれる。しかし、椎間板は辺縁以外は血流に乏しい組織である。

そのように血流が乏しい組織の組織内循環をどのように回していくか?
これが「スポンジ効果」である。とにかく様々な方向に動かすことである。痛みがない範囲で。

物理的に動かすことで、椎間板の中の水分が電気的に結合する。例えるならば水々しい組織になっていくのだ。

逆に考えると血流が乏しい組織は物理的にオーバーワークになっている、もしくは不動になっている場合に組織の硬さや萎縮が生じる。

石川選手の場合は腰椎5番。スイングの中で恐らくであるが、腰椎5番目が過剰に動き過ぎており椎間板はオーバーワークになっている可能性がある。

「スポンジ効果」によって椎間板を厚くするとともに、腰椎5番に隣接する例えば、上位腰椎、仙腸関節、股関節の可動域制限があると、余計に腰椎5番の動きが過剰になっていくのでそれらの可動域制限を解消することはより早く適度な「スポンジ効果」を高めることになっていくはずである。


コアの安定性をどのように高めるか?

次にインナーはどのように鍛えていくか?

これには原理原則がある。鍛える順番があるのだ。
①インナー単独収縮
②インナー全体収縮
③共収縮(体幹ニュートラル)
④様々な角度で共収縮
⑤体幹固定+一上肢or下肢動かす
⑥動的に安定(インナーが働いた状態でアウターを使う)

ドローインなどのエクササイズは②にあたり、ザ・コアトレのプランクなどは③にあたる。

これをゴルフに置き換えてみると、インパクトの瞬間は恐らく③か④、今回痛みが出ているフォロースルーからフィニッシュは⑥にあたる。前半のスイングも⑥である。

ということは動的にインナーが安定する必要がある。

ただし、⑥のトレーニングは最終段階でありあくまでもベースが重要である。特に①のインナー単独収縮。かなり地味なトレーニングになるが、腰痛持ちの選手や患者ではこれを如何にしっかりとやれるかで、次の段階のトレーニングの質や効果の現れ方のスピードに大きな影響を及ぼす。

この①のインナー単独収縮は結構おろそかにされることが多い。

インナーの代表的な多裂筋は腰痛になると、かなりのスピードで萎縮していくことがわかっている。

そのため、多裂筋の再教育や強化は腰痛治療では必須のプログラムになる。

また、①の段階で多裂筋にしっかりと収縮が入るようになったとしても、②、③の段階に進むと多裂筋の収縮が入らなくなることが多い。これはその時点で多裂筋が持っている収縮能力よりも行なった運動課題が難しいということを意味している。つまり強度が高いまたは量が多いということである。この場合にはまた①の段階に戻り、多裂筋の収縮を促すことを行わなければならない。

このように②〜⑥までのコアトレーニングを行うにあたり多裂筋との付き合いはずっと続いていく。

では、多裂筋などのインナーが働いているかどうかを何をもって判断するのか?
それは例えば腰の全体的な張りが強くなるなどのアウターマッスルが過剰に働いているというサインが現れた時である。

この手のコアトレーニングは高強度なウエイトトレーニングと異なり、動作的に行えないということはないのが特徴ではないかと思う。つまり、インナーが上手く働いていなくても動作的には出来てしまうのだ。

しかし、動作的には上手く出来ていても腰の中は「不安定」な状態のまま。これではどんどん運動難易度を上げるにつれて、「不安定性」が増していくことになる。
なので、先ほどの腰の張りや多裂筋の収縮を必ずチェックすることにより、そのトレーニングが負荷的に問題がないかを判断する必要がある。

腰痛におけるトレーニングは運動の努力度と実際の負荷設定が必ずしも一致しないことは肝に銘じる必要があると考える。キツいトレーニングだからそれが成果につながるとかといえばそうではないのが腰痛のトレーニングの難しさかもしれない。
長々と書いてきましたが、本当のゴールに向かうには考えるべきことがまだ残っている。これらのトレーニングをどのくらいの強度と量まで行う必要があるのか?本当に勝つためのkeyは?など設定すべき項目はまだまだある。ただ、これはまたの機会にしようと思う。


おわりに

今回石川選手の腰痛について少ない情報から考えてみましたが、あくまでこれは仮説レベルだということ。

オランダ徒手療法では問診で仮説を立てるのだが、実際に体のチェックをしたり、動作を確認すると仮説と全く違うこともかなり多い。でも、闇雲に検査を行うよりも予測を立てた状態で行う検査ははるかに効率的である。

また、なぜ今回このような長々とした文章を書いたのか?

その理由は、
私自身は実際にトップアスリートの治療やトレーニングをしたことはありません。ですが、オランダ徒手療法を学んで腰痛の治療やトレーニングのことを数多く学ぶことができました。私が今回述べたことは実践の少ない机上の空論に近い理論的なものであるということもわかっています。

ですが、このような情報を発信し、私よりも選手や患者さんに対しての治療・トレーニングの経験が豊富な方に情報が届き、それが目の前の選手・患者さんのためになれば…


そのような想いで綴ってみました。
私のモットーは【グッバイ!腰痛!】
自分の辛い腰痛の経験と、治療家として身につけたスキル
腰痛で苦しむ方が少しでも救われるように今後も情報を発信していこうと思います。


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