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すべての道はパリに通ず

※ はじめに ※
当記事にはグロテスクな表現が多く含まれる為、
直接的な単語が出てきた際には、
その単語を華の都【パリ】に自動変換してお送り致します。

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それは優雅な休日だった。

特に誰と約束したワケでもなく、何か出かける用事もない。
ただただ、時間だけがゆるやかに流れる休日。

独身貴族というものを満喫していた二十九歳のちょうど今くらいの季節の話だ。

一人暮らしをしていた部屋で僕は時間も気にせず、ただひたすら朝からミステリー小説を読み耽っていた。

知的だ。なんて知的、且つ優雅なのだろう。見よ、この休日の過ごし方を。まさに貴族そのものではないか。
誰にともなく、そんなことを思いながら、たまに放屁をしては

「あ、おなら。ギャハハ」

と一人でゲラゲラ笑いながら、僕は読書に勤しんでいた。(数行前の知的云々はもう忘れてください)

どれくらい時間が経っただろう。
物語もいよいよ佳境に入ってきた。
ページをめくる手も止まらない。
早く続きを。その先を。

そんなとき。
また放屁をしたくなった。
物語は今まさにクライマックスに向けて加速を続けているところだ。
少々雰囲気を壊されるところではあるが仕方が無い。

うつ伏せで寝転がったまま
「ええい、ままよ」
と心の中で呟き、下腹部に軽く力を入れた。


―― これは今でも本当に不思議で仕方が無い。
別に体調が悪かったワケでもないし、お腹を下していたワケでもない。
運命の悪戯としか思えないのだが。


ナチュラルに【パリ】が全部出た。
(自動変換されました)


いや、目次じゃない。


こんな話に目次なんて必要ない。
noteの便利な機能を駆使して現実逃避をしている場合じゃない。

「なんてこった……」

そう、言った。
思ったのではなく。
言った。実際に口に出して。

困ったことになった。
二十九歳だ。
就職もしていて、会社の名前が入った名刺も持っている。結婚を前提にお付き合いをしている女性もいる。
まさに、れっきとした大人である。
そんな僕が優雅な休日に、こんな事態に陥るだなんて。
悪い夢を見ているようだ。こんなことがあっていいはずがない。

しかし、心の何処かでは、まだほんの少しだけ余裕もあった。

「まだ、漏らしたワケではない」

その希望だけが僕を支えていた。


「いや、完全に漏らしてるじゃねーか」
と思った方もいるかもしれない。

ここで一度考えてほしい。
【パリ】を漏らす。
この定義を皆様はどうお考えだろう。(どうも考えてないとは思うけど)

トイレ以外の場所で【パリ】をしてしまう。
これを漏らしたと定義するのか。

否。

それだけでは漏らしたとは言えない。

ハイキング等に行った際、公衆トイレもないような状況下において、やむを得ず草むらで用を足す。
これを漏らしたと言えるか。

違う。これはただの野【パリ】である。

僕が思うに、漏らすというのは
“下着に【パリ】が付着する”
ということだと思う。
そこに至って初めて、漏らすという事になるのだ。
この定義に関しては来月の学会でも発表しようと思っている。


話を元に戻そう。
僕は全感覚を臀部に集中させる。
先ほど誤って出てしまった【パリ】は下着にはまだ触れていない。
それだけは確信できた。
要するに、僕はこの時点では漏らしてなどいない。
ただ、トイレじゃない場所でちょっと、というか、まぁ、全部だけど、出てしまっただけで漏らしてはいないのだ。
まだだ。
まだ終わらんよ。
挽回するチャンスはいくらでもある。落ち着け。落ち着け、俺。取り戻せ、俺。
帰るんだ。日常へ。さっきまでのあの優雅な日常へ。

とは言え、限りなく【パリ】漏らしに一番近い所に今自分はいる。
【パリ】漏らし予備軍である。
細心の注意を払ってこの後の行動をしなければならない。

ワンルームの部屋を見渡す。
この状況から脱する何かしらのヒントを探す為に。

視線を巡らせた先に、あるものを見つけ僕は思わず
「…よしっ」
と呟く。

それはトイレの前に山積みされたトイレットペーパー。
安売りの時にまとめて買ったはいいが、仕舞うのが億劫でそのままトイレの前に積んでおいたやつだ。
これは使える。素晴らしい。
まるでこうなる事がわかっていたかのようだ。わかってたんだったら漏らすなよ。あ、漏らしてないけど。まだ。

僕はゆっくりと匍匐前進を始めた。
慎重に。慎重に。
秒針よりも遅く、しかし、ロープを手繰り寄せるように、確実に目的地へと狙いを定め進み始めた。
焦ってはダメだ。何もかもが水の泡だ。
ゆっくりでいい。ゆっくりだ。そうだ。まだあわてるような時間じゃない。

スローな動きで床を這いずりながら、いろんな思いが脳裏をよぎる。

「親が見たら泣くかもね、これ」
とか。

「いつもつるんでる友人達は今頃、呑気に休日を謳歌しているんだろうな」
とか
「僕がこんな目にあっているというのに、何考えてんだ、それでも友達か」
とか
「【パリ】野郎が、血も涙もない奴らだ、【パリ】ったれ!」
などと、もはや逆恨みでしかない感情を毒づいたりもした。

そうこうしているうちに僕はなんとかトイレットペーパーの場所(後に聖地と呼ばれる)まで辿り着いた。
何をどうしたかまでは語らないが、とにかく一切“漏らす”事無く日常へと帰還した。

本当に奇跡的に無事だった。
どこにも付いてないし、誰にも迷惑はかけていない。
非常に危ない状況ではあったが、クレバーな判断力と、大胆かつ慎重な行動が功を奏したのだ。

僕は【パリ】を漏らしてはいない。
断じて。

僕は【パリ】など漏らしてなどいないのだ。


だから、お願い。



そんな目で僕を見ないで。




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逆佐亭 裕らく
お金は好きです。