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指と指の間をすり抜けるバラ色の日々よ

昔、友人が目に涙を溜めて一言だけ呟いた。
「つらい」

場所がどこだったか、どういったシチュエーションだったかも忘れた。
ただ、そのときの友人の様子は鮮明に覚えている。

僕はなんて言ってやればいいか、わからず。
ただ、
「わかるよ」
なんて心にもない言葉を掛けた。

本当はわかってなかった。
彼のつらさなど、何ひとつ。
今になって後悔している。

いざ、自分がその状況に立たされてようやく、他人の気持ちが理解できる。
いつだってそうだ。
僕たちはいつだって、失くしてからようやく気づく。

予兆は確かにあった。
目を背けてきたのは僕自身だ。
人は「因果応報だ」と嗤うだろうか。

じゃあ、どうすればよかった?
僕なりに必死で生きてきた。
それだけなのに。
いつから、こんなにも遠くなってしまったのだろうか。

僕もあのときの友人と同じように、目に涙を溜めながら呟く。
ただ、「つらい」と。

しかし無情にも…、いや、当たり前のように。
今日も電車は時間になれば駅を出発し、陽は沈み、秒針は動き続ける。
いつまでもこうしてはいられない。
生きている限り。
それらを背負っていかなくてはいけない。
数々の別れに背を向けて、また歩き出さなきゃいけない。

さようなら。愛しき日々よ。

さようなら。バラ色の日々よ。

さようなら。



花粉症になる前の日々よ。




世知辛い世の中である。
何故こうも、してやられるのか。
海を埋め、山を崩し、空まで蹂躙してきた我々人類でも、相手が花粉では流石にどうしようもない“運命でしょ?”(ヌー)

というか、人体は何故こうも馬鹿なのか。
いい加減にしてほしい。
なんや聞くところによると、特に害のない花粉を敵や思てるんですって。
んで、なんとか排除しようとしとるんですって。
「侵入者だ!つまみ出せ!」
と、本体である僕から頼まれてもないのに張り切って、くしゃみ大作戦や、鼻水戦法や、涙じんわり攻撃を絶えず繰り出すワケだ。
なんと滑稽な。我ながら情けない。本当に。
もう謝罪したい。謝罪動画を撮りたい。は?誰に?

思えば、二年前くらいから予兆はあった。
「なんか、おかしいぞ」
とは思っていた。
でも心のどこかで
「まさか、この僕が」
という気持ちがあった。

「健康エリートの僕が?まさかね」
と。

あ。悪玉コレステロールの数値は高いけど。
青魚と野菜中心の生活にしろってさ。
「えっと、マックは大丈夫ですよね?」
「大丈夫なワケないでしょ、アホか」
だってさ。
なんだそれ。死んだ方がマシだ。

……話が逸れた。こんな話はどうでもいい。

三十五年間も花粉症とは無縁の生活だったのだ。
すれ違う事もない日々だったのだ。
例えるならば、顔は知ってるけど話したこともないし部活も違うし、特に興味もない奴だったのだ。
もっと例えるならば、隣のクラスの大して面白くもねー事を言って女子にキャッキャ言われてるだけの陽キャだったのだ。全然面白くもなんともないのに。俺の方が絶対面白いのに。あいつなんて、声がでかいだけじゃねーか。
それに群がる女子も全員どうせしょーもない奴らだろ。ヤリマンが。うるせーだけです。込々で興味ねっす。あんな奴ら。

……話が逸れた。こんな話はどうでもいい。暗黒時代か。

とにかく、ずっと無関係で過ごしてきたのだ。
「まさか自分が」
と思ってしまうのも無理もない。

でも事実、なってしまった。

もう、こうなったら腹をくくるしかない。
あれこれ不安になったってどうしようもない“運命でしょ?”(ヌー)


お金は好きです。