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総員Sucker

こう見えてサッカー部だった。
“こう見えて”と書いたところで皆様に僕がどう見えているかはわからないが、大概の人にこれを言うと
「えー、意外」
と笑われるか
「はいはい。で、本当は何部だったの?」
と、そもそも信じてもらえない。

正真正銘、僕は中学の三年間をサッカー部員として過ごした。
こないだ実家に帰ったときも、ユニフォームで写っている当時の写真があったので、おそらく真実である。記憶の改ざんとかではない。
(あまりに信じてもらえないので自分でも疑ってきていた)

ただ、これを言うと必ず繰り広げられるやり取りがある。

「へぇ、そうなんだ。じゃあサッカー好きなんだね」
「いや、大嫌いです」

食い気味に返す。
嫌いだからじゃない。大嫌いだからだ。
そうなったのには勿論理由がある。
海よりも深く、
空よりも高く、
メンヘラ女よりも重く、
蒙古タンメン中本よりも辛く、
ゴーヤのブラックコーヒー煮込みよりも苦い理由が。

サッカー部を選んだのは本当に、ただ「なんとなく」だった。
仲の良い友人連中がサッカー部を選んだから、とか。
親から「運動部の方がナイシンテン良くなるよ」と言われたから、とか。
当時父親が買い集めていたサッカー漫画を読んでいたから、とか。
細かい理由は沢山あるにはあるが、とどのつまり突き詰めると「なんとなく」サッカー部に決めた。

そんな感じで入部した為、そもそもサッカーというスポーツにも興味はない。
ルールに関しても「とりあえずボールが来たら蹴る」と「手でボールを持ったら反則らしい」と「オーバーヘッドキックはカッコイイ」くらいの認識しかない僕は、この時点でもう既に他のチームメイトと同じスタートラインには立てていなかった。
入部してすぐ、顧問の先生に
「希望のポジションはあるか?」
と聞かれ、友人達は口々に「ディフェンダーです」とか「フォワードがいいです」と答える中、僕は自信満々に
「ストライカーです」
と答えたほどだ。
失笑する顧問、爆笑するチームメイトに囲まれながら、
「なんかよくわからんけど、ウケたからいいか」
とへらへらしながら、マイナスからのスタートをなんとなく肌で感じた。

三年間で試合に出られたのは十回あるかないかだと思う。
相変わらずサッカーに興味もなければ好きでもないままなので、当然上達もしていない。せいぜいルールを覚えたくらいだ。いや、それすらも怪しい。オフサイドなんて今でも六割くらいしか理解できていないような気もする。

試合でミスをする度にチームメイトに舌打ちをされ、溜息を吐かれ、顧問からは怒号が飛んでくる。
「プロのサッカー選手になりたいワケでもないし、別にいいもんね」
と受け流していたが、流石に何度も続くと僕もちょっとは傷つく。
ある日の帰り道、チームメイトで友人の田中に
「あのさ、俺、要る?」
と、単刀直入に訊いてみると
「お前の事は好きだけど、チームには要らん」
と容赦なく言い放ってくれた。
僕としてももう試合には出たくない。
その方がチームメイトとの関係も悪化しないし、僕のミスによって陥るピンチがなくなる分、今よりも勝率が上がるかもしれない。チームにとってもその方が絶対に良いだろう。
僕は僕で、将来的に何のプラスにもならない無意味な疲労や息切れをする必要もなく、チームメイトを応援するフリをしながら空想に耽ったり、ベンチで日向ぼっこをしつつ母が持たせてくれた半分凍ったままのポカリを飲みながら、まったりと時間を過ごせる事が出来る。

利害は一致した。

「じゃあさ、明日にでも俺をレギュラーから外すように、お前から顧問の先生に言ってくれよ」
という僕の申し出を快諾してくれた田中は、今までで見たどんな笑顔よりも晴れやかだった。

さて。翌日。
部活が始まりストレッチをしているときに田中が顧問の先生に歩み寄った。
僕はそれを横目で見ながら、なるべく意識しないようにストレッチを続ける。

「先生、あいつをレギュラーから外してください」
僕を指さし、顧問に告げる田中。
僕は心の中で「よく言った!田中!」と拍手を送った。
事情を知っている周りのチームメイトも黙って事の成り行きを見守っている。これで僕達には安寧の日々が訪れることだろう。ありがとう、サッカーの神様、えーと、ペレ?だっけ?あれ、ペラだっけ?まぁなんでもいいや。ありがとう。

「お前、なんてことを言うんだ!!」
顧問が田中を大声で叱りつけた。
田中は予想外の展開に目を丸くしている。
僕も予想外の展開に唖然としていた。

「確かにあいつはミスも多いかもしれん、でも大事なチームメイトだろうが!」


肝心な事を忘れていた。
顧問の先生は熱血タイプのポケモンだった。

結果として、
“下手糞なりに練習には毎回参加し、ひたむきにサッカーを続ける健気な少年”と、
“そんなチームメイトに心無い事を言い放った悪い奴”という構図が出来上がってしまった。
顧問の先生に散々叱られ、
「ちゃんと謝って二人で握手をしろ!」
と言われた田中は、目に涙を溜めながら

「ごめんね」

と言ってきた。

僕は

「いいよ」

って言った。

和解の握手を交わす二人。

それを見てうんうん、と頷く顧問。

白けた目で見守るチームメイト。

グラウンドを夕日が真っ赤に染めていた。

これ以外にもいろいろ書きたかったエピソードはあるけど、思った以上に文字数が多くなったので今回はこれくらいにしておく。

とにかく。
こういった事が何度もあって、僕はサッカーが大嫌いになった。
何が「ボールは友達」だ。
そんなこと言って、蹴ってんじゃねーか。酷い奴らだ。
しかも散々追いかけまわして蹴りまくった挙句に、PKの前とかにたまに優しくキスをしたりするのだ。(その後はやっぱり蹴る)
どんな飴と鞭だ。DV男か。DV男予備軍か。

僕は未だにサッカーが大嫌いだ。
でも、わかってる。
サッカーが悪いワケではない。
顧問が悪いワケでもない。
勿論、田中も悪くないし、チームメイトも悪くない。


好きになりたかったよ。サッカー。もう叶わないけど。


ちなみに。
今現在、会社の上司からフットサルに誘われている。
もしかしたらサッカーともう一度向き合えるかもと一瞬だけ思ったが、
「でもなぁ、疲れるし……」
「いっぱい走るとお腹痛くなっちゃうし……」
「コタツで丸くなってた方が気持ちいいし……」
スマホでドラクエやってる方が楽しいし……
なんて躊躇している僕には、そもそもスポーツをやる資格はないのかもしれない。

ところで、ずっと気になっていたんですけど“ゴーヤのブラックコーヒー煮込み”なんて料理があるんですか?
もしあるんだとしたら、食べ物で遊ぶなんて最低だと思います。
いい加減にしてください。

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