見出し画像

「きみは太陽みたいだ」〜本のひととき〜

「夏の体温」瀬尾まいこ

「夏の体温」「魅惑の極悪人ファイル」「花曇りの向こう」の中編3作が収められている。

表題作の「夏の体温」。
ギラギラとした夏のイメージ。
しかし、太陽から離れた場所で過ごす人もいる。
主人公の瑛介は入院中だ。その期間は長く、今のところ退院の予定は見えない。
期間の決まった、検査入院の子どもたちが羨ましくて仕方ない。

病室の白さに押し潰されそうな不安と焦り。
それを心の奥に押し込めて、振る舞っている葛藤が手にとるようにわかった。
私も似た経験をしたことがあったから。

本当は素直になりたい。
甘えたり怖がったり感情を爆発させたい。
その我慢は夜の病棟でひっそりと解き放たれる。誰も知らないところで。

そんな時、出会ったのが壮太だ。
病気のくせにやけに明るい。
その真っ直ぐさが、瑛介をほぐしていく。

壮太は検査入院。
病棟で一緒に過ごした時間は、たったの2週間。
でも長さは関係ない。
病気だけど、病気だったからこそ出会えた2人。その喜びを同じ温度で感じている。

著者の書く人物は、ひょうひょうとしているのに真っ直ぐであたたかい。
大事なところをちゃんとつかんでいる。
芯が通っていて、自分に素直だ。
だからこんなにも心を打つんだな。

自分を認めてくれる相手がいるって、最強だ。
病院を離れても、2人はまた会える気がする。
大変な時を分け合った仲間だから。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?