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【曲からショート】片恋同盟

ふと目が合った。

フェンスから1番遠い位置。

フェンス周りの一軍は可愛い女子だらけ。マネージャーからの注意に噛みついている。その周りに二軍。一軍女子に気負いしながらも肩の隙間から背伸びしてグランドを覗き込んでいる。

ここからはグランドの中まで見えない。ボールの音と歓声が聞こえるだけだ。短めスカートの後ろ姿の大群しか見えやしない。

思わず舌打ちしそうになった時、横にいる彼女に気付いた。

あなたも?

視線で問いかける。2回頷いてくれた。どうやら同志らしい。

野球部のエースは樫宮くんだ。それはそれは人気者で、雑誌に載ったり他校からも女子が押し寄せる。

うちの野球部はわりかし強いみたい。正直野球には詳しくないんだけど。

私が詳しいのは野球部の瀬川くんだ。彼はレギュラーではなかった。でも私は瀬川くんに片思いしていた。入学式からずっと。


樫宮ファンに弾かれて、グランドから遠い場所に追いやられた私と彼女は同学年だった。と言っても彼女は理系コースで私は文系。今まで接点がなかったから知らなかった。


「ここに来てマトモに見えたことない」

強豪野球部には専用グランドがあり、普段はここで練習している。

校庭ならいい場所知ってるんだけどな。彼女は呟いた。

「誰ファン?」

おずおずと尋ねた。かぶったらどうしよう。

「近藤」

苗字を呼び捨てにした。

「同じクラスなの」

彼もレギュラーではなかった。

「そっちは?ええと…」

先に名乗ることにする。

「4組の浅野。私は瀬川くんが」

「浅野さん。よろしく。私は8組の吉川」

理系らしくハキハキと自己紹介した。

「なんかおかしいね」

初対面の自己紹介が好きな人暴露なんて。

吉川さんは口を開けて笑った。


その日はフェンスに近づけなさそうだったので二人で帰ることにした。

駅まで歩く道で互いの片思いをマシンガントーク。こんなに瀬川くんのことを語った相手はいなかったから止まらなかった。

クールに見える吉川さんも語る語る。

「喉乾いた!寄らない?」

ファミレスの看板を指差す。グッドタイミング。私たちは入り口の階段をいそいそと上がった。ドリンクバーでお腹がたぽたぽになるまで恋の話をした。


「ねぇ、同盟組まない?」

吉川さんは言った。

「同盟?」

笑顔で頷く。長時間喋り続けたせいで頬が上気しているし、声もかすれている。

「そう。お互いの片思いが上手くいくよう応援するの」

幸い私たち好きな人かぶってないし。こんな風に話聞いてもらうだけで勇気出るっていうか。

「一人じゃないって安心する」

私は2回頷いた。

「いいよ組もう!私吉川さんの恋を応援するよ!」

「なんか青春ドラマみたいだけど」


照れ隠しに乾杯した。緑色のメロンソーダで。


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