ささやかな日々が通り抜ける〜本のひととき〜
「夜の水平線」津川絵理子句集
きっかけは今年3月の読売新聞の記事だった。
「五七五という短い定型が詩として成立するのは、そこに読者の想像力が加わるからだ」
こう評したのは俳人の仁平勝氏。
本書には2012年から2019年の句が収められている。
1ページに2句。規則正しく並んだ五七五は、こぢんまりとして余白が目立つ。
この余白こそが読者に与えられたスペースなのかもしれない。そう感じた。
「日々の暮らしの中、ささやかだけど心に留めておきたいもの」
それを俳句にしてきたという。
風の匂いや床のきしみ、温度や手触りまで思い浮かぶことばの景色。
限られた文字数に収まりきれなかったものが、余白に散りばめられる。
それを拾って、読み手は想像するのだ。
同じ場面を味わうために。
以下、印象に残っている句をご紹介。
麻服をくしゃくしゃにして初対面
玄関に犬の匂いや夕立来る
家中を夕風通る豆ごはん
葉桜やもう鳥をらぬ籠あらふ
「犬の匂い〜」「葉桜〜」は、かつて自分も飼っていた生き物に思いを馳せて。
「豆ごはん」は夕ご飯でしょうか。
ふんわりと炊きあがる豆ごはんの香りが、家中に漂う。至福のひととき。
最後にもう1句。
珈琲にうかぶともしび夜の秋
眠れなくなりそうで夜は滅多にコーヒを飲まない。
だけどこれを読んだら飲みたくなった。
なめらかな表面にうかぶともしび。
それを見つめながらコーヒーの時間を楽しみたい…秋になったら是非!
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