「不法滞在者は犯罪者」という言説―”不法”の原因は厳しすぎる制度

最近の入管法改正に関するトピックが多くなるにつれて、ニュースのヤフコメやTwitter等の投稿で、「不法滞在者は、不法に入国・在留している時点で犯罪者なので、国外追放するべき」といった意見が散見されます。

中でも、現在入管法の改正で問題にされている(収容中で送還忌避している人と仮放免の人の合計)3,000人くらいといわれる「送還忌避者」のことは特に注目を集めているところだと思います。

参考)出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」(令和元年12月末現在)
http://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri09_00026.html

外国人にたいする退去強制手続は入管法に基づいて行われる行政手続です。身体の拘束を伴う収容令書の発付や退去強制令書の発付も行政処分であり、刑罰ではありません。

一方、入管法には罰則も定められており、入管法の規定に違反する外国人に対しこの罰則が適用され、刑事手続によって処罰されることがあります。

そして、入管法は、ある違反行為について、退去強制事由と罰則を両方定めている場合が多くあります。

「不法滞在者は犯罪者だから追い出せ」といった意見は、日本人の外国人嫌悪(ゼノフォビア)の傾向を端的に表しているわけですが、すべての不法滞在者が「犯罪者」ということはありません。(刑罰に処せられる罰則規定はあるが…。)

以前書いた記事の繰り返しになりますが、(特に難民申請者についていえば)問題の根幹は「日本の難民認定が厳格すぎる」ために難民資格を求め続け、不法滞在し続けなければならないことにあります。あるいは、不法滞在についていえば、留学生等のビザで来日して、何らかの事情があってオーバーステイとなってしまう、などのケースが考えられます。

参考)朝日新聞(有料会員記事)「在留期限間近に交通事故 通訳ない入管審査で強制退去」https://www.asahi.com/articles/ASP2373Y5P1TPITB00C.html

簡単に言い換えれば、彼らが「悪いことをした」から犯罪者になったのではなく、「ルールが厳しい」から結果として犯罪者扱いされていると言えるのではないでしょうか。

後述しますが、不法滞在者の置かれた苦しい立場(特に難民申請者の二重性)にも目を向けてもらいたいと思います。

難民申請者の二重性

入管法は「出入国管理及び難民認定法」のことです。

「出入国管理法」からみれば難民申請者は、ほとんど全て不法滞在者、不法入国者です(そもそも出国・日本への入国の際に「難民申請」というビザで来るわけじゃないし…)。しかし他方で、「難民認定法」からすれば、難民条約加入国日本に難民受け入れ・庇護を求めてきた難民申請者です。
難民は不法入国者、あるいは不法滞在者でもあり、難民申請者でもあるという二重性を持っているのです。

(そうした指摘については、TRY(外国人労働者・難民と共に歩む会)による「日本の難民受け入れ問題」https://try-together.com/probrem_01.htmlを参照していただきたい)

入管法違反の規定・罰則

入管法では、不法在留、不法在留に対する罰則が規定されていて、退去強制事由に該当する場合、退去強制は「行政処分」として行われ、罰則は刑事手続によって処罰されることになり、それぞれ同時に別個の処分として進められます。

参考)法務省入国管理局「退去強制業務について」(平成29年11月)http://www.moj.go.jp/content/001240066.pdf

(入管法の罰則規定についてはこちらのホームページに分かりやすくまとめられているので、参照していただきたい。大村行政書士事務所「入管法罰則規定」https://omuraoffice.jp/html/service/immigrationpenalty.html

なお、上記の罰則は「不法入国者」「不法上陸者」「不法残留者」「特例上陸許可の不法残留者」について、上陸後遅滞なく入国審査官に難民である事を申し出、その証明があったときは刑を免除されます。

入管法の退去強制事由に該当する場合は、原則として退去強制手続を受け、日本から出国することになります。

退去強制手続に入ると必ず出国させられるかというと必ずしもそうではなく、日本での生活歴や家族状況などが考慮されて日本への在留が特別に許可される場合もあります(後述する「在留特別許可」といいます)。また、退去強制により帰国した場合、その後5年間(場合によっては10年間)は日本へ入国することができません。

退去強制に該当する者の中で不法残留者(オーバーステイ)には特別な制度があります。それが「出国命令制度」です。出国命令制度とは、日本に滞在する不法残留者に自主的に出頭させて出国させるための制度です。出国命令により出国した外国人は、通常帰国後は入国拒否期間が5年間(場合によっては10年間)となるところを1年間に軽減されます。

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在留特別許可

難民支援を行っているNPO法人には、「在留特別許可」の弾力的運用を提言しているところもあります。

(APSF「在留特別許可と非正規滞在外国人」http://apfs.jp/visaを参照してください)

在留特別許可とは、不法残留や不法入国などで日本に不法滞在している退去強制対象外国人に、法務大臣が特別に在留資格を与える制度です。

不法滞在状態の外国人は本来日本から出国するか退去強制されなければならないが、 出入国管理及び難民認定法(入管法)第50条に従い、法務大臣はその裁量により在留を特別に許可することができる。在留特別許可を与えるか否かは法務大臣の自由裁量である。不法滞在者の在留希望理由や家族状況、日本での生活歴、人道的配慮の必要性などを総合的に勘案して判断される。入国審査官から退去強制対象者に該当すると認定された者がその認定を不服とし、さらに第2段階として特別審理官との口頭審理でも入国審査官の認定に誤りがないと判定された容疑者がその判定を不服とし特別に在留を認めてもらいたいと希望するとき、第3段階の審査として法務大臣への異議の申出を行い最終的な判断を法務大臣に求めることができる。異議の申出に理由がないと認める場合でも、以下のような場合には、法務大臣は在留を特別に許可することができる。
永住許可を受けているとき(入管法第50条第1項第1号)
かつて日本国民として日本に本籍を持っていたことがあるとき(入管法第50条第1項第2号 日本籍離脱者や特別永住資格者)
人身売買などにより他人の支配下に置かれた状態で日本に在留しているとき(入管法第50条第1項第3号)
その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき(入管法第50条第1項第4号)(Wikipediaより)

日本に留まらざるを得ない事情を抱えたこうした非正規滞在の外国人の在留を現行法上で認めるというのは、(重大な前科があるといった治安上のリスクがあるなどを除けば)、法務大臣の裁量によってこの「在留特別許可」を出せば済むということです。ですが、在留特別許可の許可数や許可率は減ってきているそうです。

参考)弁護士ドットコムニュース「在留特別許可」10年で8割減、東京五輪が影響? 「平等、適正な判断を」https://www.bengo4.com/c_16/n_9413/

結語

繰り返しになりますが、本来難民として保護、あるいはそれに準じるかたちで庇護するべき人が、制度が厳しすぎるために認められず、”不法”在留状態になっていることが問題であり、例えば「不法在留の外国人≒素行の悪い危険な犯罪者、だから追放すべし」といった偏見は止めてもらいたいと思います。

また、本国で迫害を受けている難民については、本国に送還することは難民本人を危険にさらすことになるので、難民条約の「ノン・ルフールマン原則」があります。

ノン・ルフールマン原則( 仏: Non-refoulement)とは、生命や自由が脅かされかねない人々(特に 難民 )が、入国を拒まれあるいはそれらの場所に追放したり送還されることを禁止する 国際法 上の原則である。. 追放及び送還の禁止 (ついほうおよびそうかんのきんし)とも。. 個人の社会集団や階級の所属に基づく迫害の明らかな証拠のあるおそれに当てはまる アジール と異なり、追放の禁止は包括的な本国送還を扱い、一般に 戦争 地域と 災害 地域の 難民 のことである。(Wikipediaより)

すべての不法滞在者を一般化して「追い返せ」という言説は、迫害の恐れのある難民をも含むとすれば、この原則に反しています。やめるべきです。