【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第4話
「……好きな人、か」
その言葉を最近ようやく平気で言えるようになったアオイは、自虐的な表情を浮かべた。
「皮肉なものね」
本人はあまり自覚していないのだが、友人に言わせると、アオイは「大和撫子を地で行っている美人」らしい。
男子からもよく声を掛けられるが、その気が全くない為、全てノーと答えている。
相手を傷つけないよう、断り方も堂に入ったものだ。
『好きな人がいる、いい友達でいましょう』
しかし、
アオイが選んだ選択肢は、知らないうちに自分自身を傷つけていたのだ。
(……ん?)
背後に人の気配を感じた彼女は、羞恥と怒りの混じった表情を浮かべながら言った。
「……誰だか知らないけれど、今度から見学料を取るわよ、覗き魔さん」
一瞬、息を呑むような気配がした。
カタンという音とともに、パタパタ走り去っていく足音。
何気なく振り返ったアオイの瞳に、長いマフラーの先端がちらりと映ったような気がした。
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