【小説】「twenty all」228
拝啓 国府田空良様
少し堅苦しいかも知れませんが、どうか許して下さい。
この手紙を貴方が読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないのでしょうね。
自分の本心を、こんな形でしか伝える事が出来なかったなんて、ホント馬鹿な先輩だと思う。
まず、インターハイ本選出場おめでとう、そして「個人戦優勝」おめでとう、もかな。
書いてしまえるのは、私が空良君の射を信じているからです。
何と言っても、私が手塩にかけて育てた唯一の後輩だもん。
この台詞、一度言ってみたかったんだ。
さて、本題に入ります。
私は、貴方に嘘をついていました。
『貴方に任せて、道場のある所で楽をしたかった』という、文化センター弓道場で言った言葉は、偽りです。
本当は、いつまでも貴方と一緒に弓を引きたかった。
でも、
自分の命が、あと僅かしか残されていないと分かった時、このままここにいては、きっと空良君の重荷になってしまうと思ったの。
貴方は絶対、私を気遣うあまり、大事なものを駄目にしてしまう人だと、分かっていたから・・・
昨年の春、
体育館裏で初めて空良君に会った時から、私の中で「二つの自分」が動き始めた。
一つは、弓道部の先輩としての自分。
そして、河上里香という、一人の女性としての自分。
色々な事がある度に、二つの自分は交錯や葛藤を繰り返して、私を苦しめた。
何度も歯痒い思いをしたのか、分からない。
でも、今なら言えるわ。
私は、最初に出会った時から、貴方に惹かれていた。
あの日、貴方があの場所に来てくれた事で、私は変わることが出来た。
どんなに辛い時も、挫けそうになった時も、貴方が居るからと思って、頑張って来れたの。
そんな大切な人を、理由こそあれ、私は突き放してしまった。
心にも無い台詞を機械的に口から紡ぎ出した時も、
絶望の淵に落し込んだ貴方から、「卑怯者」と言われた時も・・・
どんなに、後悔しただろう。
あの時、振り返って貴方の胸に飛び込もうと、何回思ったことだろう。
でも、
「河上里香は、最後まで国府田空良君の先輩でありたい」という選択肢を、私は選んだ。
そして、諸先輩達から引き継いで来た「弓道場を建てる」という想いを、何とか現実のものにしたかった・・・
ごめんね、騙していて・・・
わたしは本当に、悪い先輩でしたね。
我儘ついでになりますが、最後のお願いです。
立派な弓道場、建てて下さい。
敬具
ソラ君
国府田、空良君
私は、あなたが大好きでした。
本当に、ありがとう・・・
河上 里香
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