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【小説】「twenty all」210

「なっ、何やってんだぁ!?」
 慌てて雪駄も履かずに矢道に飛び出した空良は、もの凄い表情で彼女達に走り寄った。

「見ての通り、花火です」
「道具棚整理してたら出て来たのよねー、ちょっと湿気てるみたいだけど、ちゃんと火は付くよ」
 しれっとして観月が言う。
「だから、そんな事じゃなくて」
「おまじない、がわりなんです」
 佳乃が真剣な表情で言った。
「明日の試合、空良先輩が上手くいく様に、って」
「文字通り、大きな花火上げましょうよ」
 静香が言葉を引き継ぐ。
「インターハイ出場っていう、大きな花火をね」
「お前達・・・」
 彼女達の言葉に、空良は思わず言葉を詰まらせた。
「よし、先輩は明日頑張るからなっ」
 三人娘の姿を見回して、彼はそう誓った。



「やー観月、その花火私が取ってたのにぃ」
「きゃー、ヘビ花火ってキモーい!」
「あー、線香花火また落ちちゃった」
 キャイキャイやっている三人を、空良はジト目で見ていた。
「お前達、ホントは単に花火やりたかっただけじゃないのか?」
 三人娘はギクッとなる
「そっ、そんな事ないわよねぇ」
「う、うん」
「オホホホホホ」
「ったく」
 ぎこちない笑顔を浮かべる彼女達を見て、空良はため息を付いた。

(試合の前日だっていうのに、全然緊張感が無いな)
 その反面、気が付いた事もあった。
(でも、余計な気負いも消えてしまった)
 彼は密かに微笑んだ。
(まったく、大した後輩達だ)


「・・・ありがとう」
「え?」「へ?」「ん?」
 訳の分からない顔をした三人に、空良は改めて感謝の言葉を口にした。

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