【小説】「twenty all」001
【twenty all】第1部
桜舞う月のはじまりの日、国府田空良(こうだそら)は県立都合ヶ丘(みやがおか)高校の敷地を踏み締めていた。
多少の不安を身に纏いながら、それでも大きな期待に胸を膨らませている。
「よし、行くぞバスケ部に」
旧校舎の渡り廊下を歩くと、目の前にずらっと人の列が出来ていた。
これが全部、昨年インターハイベスト8迄勝ち進んだ男子バスケ部の入部希望者なのだ。
見るからに体格のいい男連中の背中を見ながら、空良は思った。
成るほど、強敵揃いだな。
だが、負ける訳にはいかない。
何たって、俺には石倉センパイが付いているからな。
中学時代、バスケ部の一学年上の先輩の姿を思い浮かべる。
彼が、空良をこの学校に誘ったのだ。
「はい、入部希望者は一列に並んでください」
喧騒を静める様に、聞き覚えのある声がした。
「あ、石倉先輩」
思わず声を出す空良、周りの視線を気にしながらメガホンをもったユニフォームに近づいていった。
「お、国府田じゃん、ホントに来たのか?」
「え」
思わぬ軽い反応に、空良は肩透かしをくらった。
そんな彼に構わず、石倉は言葉を続ける。
「入部希望なら、そっちに並んでくれ。じゃあ俺忙しいから」
足早に去っていった石倉を見送る空良に、周りから失笑が漏れる。
きっと、上級生に媚び入ろうとして振られた間抜けに映っているのだろう。
空良は、恥ずかしさとショックで顔を赤く染めながら、後ろに下がっていった。
「吹き行く小雲の群れが爽やかなのに、何故こんなにも心が寒いんだろう」
浪漫主義ではない空良だったが、重い足取りで体育館を後にする自分に
対して思わずこう呟いてしまった。
石倉の心無い一言にも腹が立ったが、それ以上に入部テストで見返すだけの結果を出せなかった事に憤りを感じていた。
体格のハンデもあった。
空良の身長は164センチ、先程3オン3で組まされたメンバーは、全員180センチを超えていた。
高校バスケは、体格差がモノをいう。
ましてや彼は先日まで中学生だったのだ。
「くそっ!」
行き場を失った彼の志が、虚しく辺りを漂っていた。
バスッ!!
空良の耳に、突然聞き慣れない重低音が響いた。
「?」
いつの間にか、校舎の外れまで歩いていたらしい。
その音は、曲がり角の向こうから規則的に聞こえてくる。
好奇心をそそられた彼は、そっと壁伝いに歩いて覗き込んだ。
そして、目を奪われる。
そこには、一人の女生徒がいた。
紺色の袴を身に付けて、左手には緋色の和弓が握られている。
彼女は目の前にある大きな米俵の様なものに向かって、矢を飛ばしていた。
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