【小説】「twenty all」225
「やったあっ!!」
勝利の瞬間飛び上がった佳乃は、感極まった表情で、空良を迎える体制を作った。
が、彼の様子がおかしい事に気が付く。
「・・・先輩?」
「やったよ、ソラ君やったよ!」
看的小屋から飛び出して来た観月は、喜びを分かち合おうとして、矢道横に居るであろう同級生の姿を探した。
すると、矢道の遥か後ろ、体育館方面でスマートフォンを耳に当てている静香を発見した。
「やったねシズ、ソラ君優勝しちゃったよ!」
「観月・・・」
通話状態のまま、静香は表情を崩した。
「なに、もう誰かに勝利の報告をしてるの?」
静香は、ゆっくりと頭を振った。
「・・・先輩が」
「そうよね、今日だけは空良先輩と呼びましょう、ホント凄かったもん」
有頂天になった観月は、彼女の微妙な変化に気が付いていない。
「違うのよ」
そんな観月を、静香は低い声で押し止めた。
「観月、里香先輩がね・・・」「えっ?」
弦切れの反動を受け止められず、限界を超えた左腕を暫く押さえていた御角は、ややあって床に転がった弓を拾い上げて、ゆっくりと空良の元に向かった。
「・・・完敗だ」
彼は、少し憎々しげで、それでいて清々しい表情を浮かべて言った。
「まったく、最後にあんな射をされたら、敵わないぜ」
微動だにしない空良の肩に、ポンと手を掛ける。
「でも、次は負けない。ホッカイドウで勝負だ」
そう言った時、彼はここまで、空良の反応が全く無い事に気が付いた。
「どうした・・・」
彼の顔を覗き込んだ御角は、思わず息を呑んだ。
空良は、
矢を放った姿勢そのままで、自分の角見をひたすら見つめながら、大粒の涙を流していた。
(ようやく橋が架かったよ、里香先輩)
勝利者に贈られる拍手が鳴り響く中、全てを悟ったような表情を浮かべた空良は、その場にいつまでも、いつまでも立ち尽くしていた。
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