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美術展巡りでもらうプレゼント 2023

まるで堰を切ったように、この夏あたりから美術展巡りを再開しています。
美術展めぐりは、年単位で間が空いてしまう時期と、スケジュール帳が埋まるほど巡る時期が繰り返しやってきます。
今年は酷い暑さだった夏からそんな気分です。
もっとも、気分だけが先行するかというとそんな理由だけでもなく、見たいものが開催されている時は、多少気分がのらずとも足を運びます。


なので美術展ニュースが入ってくるようにいろんなSNSをフォローして、
おおっ!?と気づいて行ってみると、次回開催や同時展示しているものの方が興味ある内容だったりもするので、やっぱり行ってみる、ということがとても大事だなあ、と今年はつくづく思っています。
なぜかというと、美術館に行ったからこそ手に入る”プレゼント”があるから、です。

柚木沙弥郎  YUNOKI SAMIRO

今年の美術館巡りの一つ、世田谷美術館で開催されている「土方久功と柚木沙弥郎 ー熱き体験と創作の愉しみ」に先日行ってきました。
お目当ては大好きな柚木沙弥郎です。

先月に日本橋高島屋でも展示会があったそうなのですが、残念ながら見逃してしまい、ちょっと交通が大変ですが、秋晴れの日に朝からトコトコと電車とバスに揺られ柚木さんの世界を堪能したわけです。

もちろん有名な方なので至るところで作品を目にする事ができますが、
いつもこの方の作風、技巧、思考、何より90歳を超えて尚 現役でいらっしゃる事に感動します。
ものを創る事への自然な情熱を限りなく感じますし、
シンプルでいながら遊び心満載で、生活の中から自由に湧き出るデザインは、めんどくさい理屈無しにどんな年代の方にも国籍や性別問わず愛されるのは当然だなあ、と今回展示会を見て、改めて思いました。

柚木沙弥郎の鳥モチーフ

柚木さんのデザインに多く出てくる大好きなモチーフが鳥。
とてもオシャレでシックで、版画でも染め物でも素敵なデザインなのです。私の落描きは鳥を描く事が多いので、鳥のモチーフに特に目がいってしまいます。

柚木さんの鳥は、同じようで同じじゃない。
一羽一羽、微妙に違う鳥がいくつもいくつも並んでいます。
鳥の愛嬌のある動きが、柚木さんのシンプルなデザインの中に落とし込まれているようで、いつまで見ていても飽きません。

土方久功  HIJIKATA HISAKATSU

今回、柚木さん目当てで訪れた展示ですが、こちらの「土方久功」という作家さん。恥ずかしながら存じませんでしたが、本当に作品が素晴らしく何度も何度も作品の前を行ったり来たりと離れがたい内容でした。

彫刻家でもあり、版画、絵本デザインなど幅広くお仕事されてきた方で、どれも見応えがありました。
ブロンズの彫刻も、木彫り、マスクも、パラオに移住されて創作活動をされてきた事がよくわかります。
木彫りは現地の子供達にも教えていらしたと知り、当時南国の子供達がどんな驚きで日本から来た芸術家の作品に触れたのだろう、と思い巡らせました。

その中で作品として展示されていた、土方さんがおっしゃっていた一文がある記事として展示されていました。

土方久功の目が覚めるような言葉

「裸の身体を鍛えたら、裸の頭も鍛えられた」。

”裸の頭”とはこれまた素敵な言葉だなあ、と驚きました。

柚木さんもおっしゃっていますが、結局心から湧き出るものを形にするには、暮らしの中にそれはあるのであり、それは常に心がニュートラルでいる、という事です。

頭の中を裸にしていたら、ある時 宇宙が突然飛び込んでくる。
今の時代、こうなるには余程の覚悟と技術が必要で、毎日瞑想している僧侶なら話は別ですが、凡人にはなかなか難しい。

飛び込んできた宇宙に気づく人、気づかない人。どちらも存在するのですが、肝心の私の頭はなかなか裸んぼうにはならないです。

暮らしの手帖 イラスト展示会

今回、柚木さんを見に行ったら、プレゼントのようにもう一つ素敵な展示がありました。
それは「雑誌にみるカットの世界」という名前で
「世界」(岩波書店)と「暮しの手帖」(暮らしの手帖社)のカット画が展示されていました。
終戦後すぐに発行が始まった雑誌「世界」と「暮らしの手帖」両方の展示でしたが、もはやアートというより歴史と文化の展示会でした。

久しぶりに花森安治ワールドにどっぷり囲まれ、幸せ一杯になりました。
本当に今見ても、なんというおしゃれ感と洗練度。
やっぱりこの方のデザイン力って素晴らしい、と思います。
デザイン=レイアウトという意味ではなくて、生活をデザインされてきた方。
花森さんのシンプルな線画の一覧は、情報過多の私の目には、ヒーリングアートのようです。

雑誌の「暮らしの手帖」は、それほどの愛読者ではなかったですが、昔からちらりちらりと見てきた雑誌。
時代が変わって、モダンで無機質なデザインが多くなる中、暮らしの手帖はクラシックで人の心に響くようなものでした。

東京はいつしか全てが正円と正方形で溢れていき、パリの街で見るようなオーバル型の綺麗なパッケージデザインのような、暮らしの手帖のようなデザインはどんどん減ってきた気がします。

花森安治の心掴まれる言葉

出版されている花森さんの冊子はいくつもありますが、その中でも紹介されている、忘れる事のできない暮らしの手帖の記事があります。
以下引用ー

もう時間はいくらも残っていない。
間に合うか、合わないか、この地球がやがてなにもかも使い果たして
ほろびてゆくのが早いか、ぼくらが無いものから生きてゆくための物を
新しく作り出すのに成功するのが早いか、
人間のいのちを賭けたいたましく、壮烈なレースをすぐにはじめよう

暮らしの手帖 2世紀30号P5 1974.6.1

心をぎゅっと鷲掴みにされるような文章です。

期限があるから産み出されるモノたちは、急ぎ世の中に送り出されます。
人間がいつの時代も新しいものを世の中に生み出して、人の心を動かして、そして何より作り手の心が一番動かされているのだ、と感じます。

限りある人生の中で、モノを送り出し、子孫を送り出し、次の時代へ繋ぐ営みの歴史なぞ、10年前には考えもしませんでした。
きっと私の中である程度の未来のスペースを感じ始めてきたからだと。
でもそれはこれからの時間の少なさに嘆くというより、凝縮された情熱のような気がしています。

美術館巡りは、思いもしないアートや、気づかなかった自分との出会い、という魔法のようなプレゼントがもらえます。
美術館巡りはこれからも続きます。

三菱一号館美術館が今改装しているので、こちらでの展示はしばらくお預け。私が好きな展示が多いので、再開を心から待っています。
それにしても、先日訪れたマティス展を見たにも関わらず、御殿場アウトレットでマティスの白いシャツを買わなかった事を後悔しています。

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