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ブックカバーを作りたいだけ / 500色の色えんぴつ編

「○○ちゃんは、色を塗るのがあまり上手じゃないのね」

小学3年生の時に担任の先生に、図工の時間に言われた言葉です。
これ、結構トラウマになりました。

記憶の底から離れないこの強烈な言葉を抱えながら、最終的に私は制作する人になりました。
色を使う度に若い頃はこの言葉がふと頭をよぎりましたが、もう長い間色と向き合ってきたので超えていると自分で思ってはいるのですが、もしかしたら潜在意識では今でも囚われているのかもしれません。

なんでも色でくくってしまう癖

そのせいか、色に反応する事がとても多い気がします。
例えば、なんでも色に当てはめたがる。
洋服とか目に見えて断定できる物だけじゃなくて、映画とか今日の雨、とかそういう事を色で括ります。
「ミッション・インポッシブル」は赤、とかロゴの色などから連想されるわかりやすいものから、全国ロードショーで上映されていないものなども。

「一番好きな映画は?」と聞かれたら
即答するのは「バグダット・カフェ」。理由はこの映画の色イメージが私の中ではっきりとしているから、だと思います。
色はズバリ黄色。

他にも、「哀愁」は薄いブルー。
「ドライビング・ミスデイジー」はエンジ色。
「バベットの晩餐会」はオレンジ。
こんな風に映画の色合いがはっきりと印象づく映画が好きです。
人によってその色は違うでしょうね。

人やモノ、国も、色のイメージが常についてきてしまいます。
人だと俳優、ミュージシャン、スポーツ選手まで。
もっともスポーツ選手は、ユニフォームの色だったり、活動しているエリアカラーが影響するところが大きいです。
国は、国旗の色もそうですが、気温や大統領のイメージカラーだったり。

この本は何色?

本も色で括りがち。
まあ「ノルウェイの森」は緑ですが、「酵素の凄さ」とか「メダカの育て方」(これは父の愛読書ですが)とか実用書まで。
もちろん装丁の影響が大きくなるので、最初の数ページと目次、そして書体(この要素がかなり大きい)に集中。
するとなんとなく青っぽい、とかブラウン系だ、とかイメージが出来上がるのでしょう。

書体は好みがはっきりと出てしまいますが、目次はニュートラルに向き合える大事なもの。
映画の予告編が大好きなように、サマリーされたものに注目します。
目次は、まだ本文に入る前に目に飛び込んでくる見出しのワード。
とても大事にしていますし、ここでおおよその色イメージの候補が出てきます。

本のイメージに合わせて、色えんぴつの絵をブックカバーに

フェリシモの500色の色えんぴつ

フェリシモの「500色の色えんぴつ」と言うプロダクトがあります。
初版はもうどのくらい前になるでしょうか。
私が描き始めたのが15年以上も前になるので、それよりももっと前に発売されていますね。
その後にこの500色の色えんぴつは改訂されているらしいので
形状も色合いも当時と今では違うのだと思いますが、その初版のシリーズの時に企画をご一緒させて頂いた事があります。

とにかく500もの色に、それぞれ色鉛筆の名前がついている。
後から伺ったら、あの名前は社内で社員の方々がネーミングされたと聞き、びっくり!商品への想いや愛を感じました。

・シュツットガルトの森
・日本海の漁火
・朝食のスクランブルエッグ
・翡翠の風鎮
・トルコ石のプロミスリング
・週末のレマン湖
・夏祭りのほおずき
・軒先の干し柿
・午前7時30分の露草
・ピエロの涙
・闇夜のカーテン
・古本の皮表紙
・ノースランドの未の群れ
・残暑の頃の葛餅
・エリカ街道
・夜露のマチュピチュ遺跡
・ベランダのセキセイインコ
・たぬきの鼓笛隊
・冬将軍の到来
・オランダの木靴

500本の名前の一部です。
名前を見て、こんな色かなあ?と思えるものもあれば、想像もつかないもの
もありますよね。


Blue / Darkgreen / Yellowの中から

その名前の絵を各色えんぴつの濃淡で切り絵のように描き続けました。
相当前に描いた物なので、今見るとちょっと子供っぽくて気恥ずかしくなるものもありますが、とにかくその時はメルヘン調の名前に沿った絵を描いてみることが楽しくて。

色への反応体質に加わり、その時に改めて言葉と色は乗っかり合うものなのだと感じた事を覚えています。

色えんぴつの絵をブックカバーに

その絵を並べて印刷した紙がどっさりと出てきました。
半分マットな感じのわりと厚みのある、JD紙(だったと思う)に色シリーズごとにプリントした物です。

今、このどっさりとあるこのシリーズの紙をブックカバーに使ってみています。もちろん本に感じた色のイメージのものを使います。
こうなると本屋さんや図書館の本棚は、まるで500色の色えんぴつを並べて陳列しているケースのようです。

今読んでいる本のイメージは、Green Vol.2

昔、中山美穂の映画に「蝶の眠り」という映画がありました。
中山美穂は作家の役で、病気になりながらも自分が講義を持っている学校の生徒(キム・ジェウク)と恋に落ちる切ない映画です。
その中で、その学生に自宅の本棚を色別に分けて欲しい、と整理を頼みます。
この時の色別、というのは中身からイメージしたものではなくてブックカバーの色で、という意味なのですが
膨大な本棚は色のグラデーションに生まれ変わります。

もちろん本屋さんの棚は、出版社別・作家別に陳列されているので、色はバラバラですが、これからそれぞれの本の中身が色に置き換わると思うと、
ちょっとこの映画のシーンや、色えんぴつがずらりと並んでいる風景を思い浮かべたりもします。

色に溺れそうになる脳

きっと私の中で、いつまで経っても色に対する憧れ・畏怖・興奮。。
いろいろな感情が渦巻いているのだと思います。
風や言葉の響も色に置きわかってしまうこの「脳内色素変換機能」。
楽しくもあり、時に疲労してしまう事もあり。
そんなわけで私の描く絵はこの500色の色えんぴつの絵を除き、モノクロが多かったりします。
もっとも白も黒も色、究極の色ではあるので、その裏に本当は鮮やかな色が隠れていて、それを見る人には何色かが見えているのでしょう。

ところで私の500色の色えんぴつの絵。
まだあと200枚ほど残っているまま、10年前からずっとそのままになっているのです。

なかなか最後までいかないこの進行状態ですが「いつか描ききって頂くことを信じています」、と できている分だけで数年前に中国の出版社より重厚な体裁でカレンダーが発売されました。

でもね、Ms.Chung.
いつか全部描ききるのかなあ?私、と自分でもわからないんですよ。


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