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相続財産は誰がどれだけ受け取るのか?

お盆休みが近づいてきました。

先祖や亡くなった方の精霊を祀る行事とされるお盆は、カレンダー上の祝日ではありません。正式には「盂蘭盆(うらぼん)」と呼ばれ、旧暦7月15日を中心にした前後4日間ということで、一般的には8月13日から16日までの4日間とされています。

■相続の話を切り出すきっかけ

「相続」と聞いて思い浮かぶのは、「資産家の遺産分割を巡る争い」や「税金対策」のように、ある程度資産を持っている家だけに関係しそうな話題です。実際、「うちにはそんな財産がないから関係ない」と言われるケースは多いのですが、これは大きな誤解で、相続は誰にでも発生します。
私が相談をお受けするほとんどの方も、「自分には関係ないと思っていたけど、こんなに大変なんですね・・、もう少し事前に考えておけばよかったです」と話されます。

では、何を考えておけばよいのでしょうか?
ご家族によって事情は異なるものの、ひと言でいえば「誰が、何を、どれだけ引き継ぐのか」という点について、親族間での意思疎通を図っておくことでしょう。
とはいえ、人の死と直結した話題のため、切り出すタイミングは難しいですよね。

そこでおススメな方法が2つあります。
1つは、「自分が亡くなった時」を前提に話すこと。例えば、エンディングノートを書いてみたとか、遺言書について話を聞く機会があったから自分でも作ってみた、などの話題です。

「実際に書いてみると、色々考えることがあった」とか「わからないことが出てきた」などの話題から、「実家の名義ってどうなってるの?」とか「銀行の口座っていくつくらい持ってる?」という話につなげていく流れは、それほど抵抗なくできそうです。

もう1つは、「世間で話題になっていること」をテーマに話すことです。
2019年から2020年にかけて、相続分野の法律改正がいくつか始まっています。例えば、自筆証書遺言の保管制度や配偶者居住権などを初めて知った、という流れで、「うちの場合はどうなのかな?」という話につなげる流れです。

自筆証書遺言については、こちらのYouTube動画で解説してますので、ご参考にどうぞ。

■相続が発生すると誰が財産を受け取るのか?

相続が発生すると、亡くなった人の財産を引き継ぐのは「法定相続人」です。

法定相続人は、文字通り法律(民法)で定められている相続人のことで、戸籍上の配偶者は、婚姻期間に関係なく必ず相続人になります。
その上で、子がいる方は「子」、子や孫などの下の世代がいない方は「父母や祖父母(直系尊属)」、子も直系尊属もいない方は「兄弟姉妹」が、この順番で相続人になります。

図解するとこんな感じです。

法定相続人の図

この法定相続人は、話し合いでも変更できません。
例えば、父親が亡くなって財産を引き継ぐことになった子が、「自分の子ども(父親の孫)」にも財産を引き継がせようとしてもできないのです。このように、相続人以外に財産を引き継ぎたい場合、父親が亡くなる前に「遺言書」を作成しておく必要があります。

ちなみに、「子」は実子も養子も同じ立場になります。

■財産を受け取る割合はどうやって決まるのか?

財産を引き継ぐ法定相続人は、どれだけ財産を引き継ぐことになるのでしょう。
これも民法の中に「法定相続分」規定があるのですが、相続人同士の話し合い(=遺産分割協議)によって自由に決められます。

ただし、相続人同士での話し合いがまとまらなければ、調停や審判という家庭裁判所を通じた手続きが必要となります。特に審判にまで進むと、基本的には「法定相続分」で財産を分割することになります。もちろん、裁判ですから事情によって異なります。

法定相続分は、配偶者と子が相続人の場合は「配偶者1/2・子1/2」、配偶者と直系尊属が相続人の場合は「配偶者2/3・直系尊属1/3」、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は「配偶者3/4・兄弟姉妹1/4」です。子、直系尊属、兄弟姉妹は複数いる場合もありますが、その時は均等に分けます。例えば、配偶者と子2人が相続人の場合は、配偶者が1/2、子は1/2を均等に分けるので、1/4ずつとなるのです。

ここでのポイントは、法律の規定とは関係なく、話し合いで自由に分けられることですが、配偶者と子、直系尊属には「遺留分(いりゅうぶん)」という、「請求すれば受け取れる権利」があります。
この遺留分、簡単にいうと「自分の法定相続分の半分」です。先ほど例に挙げた「配偶者と子2人」の場合、配偶者の遺留分は「相続財産全体の1/4」、子1人の遺留分は「相続財産全体の1/8」となるわけです。※直系尊属だけが相続人の時に限り、遺留分は1/3となります

ただし、遺留分は「必ず受け取れるもの」ではなく、「遺留分が侵害された場合に、請求すれば取り戻せる権利」だということに注意しましょう。

■相続税はかかるのですか?

これもよくいただく質問です。
相続税は、被相続人が遺した財産額に応じて課される税金ですが、一定の金額までは非課税となっているため、9割以上の方には課せられません。
国税庁が公表した2018年の相続税申告状況によると、年間の被相続人数約136万人のうち、相続税の課税対象となった人は約11.6万人(被相続人の8.5%)でした。

相続税の計算手順は次の通りです。

① 相続財産の総額を算出する
② 遺産に係る基礎控除額を差し引く
③ 「2」でプラスになった場合、法定相続人が法定相続分通りに財産を取得したとして、財産額に応じて各自の相続税額を計算する
④ 「3」で計算した相続税額を合算した相続税の総額を、財産の取得割合に応じて各相続人に割り振る
⑤ 各相続人の個人的な事情を考慮した「加算減算」を行い、相続税の納税額を確定する

まずは①の手順。
プラスの財産として、土地や建物などの不動産、預貯金や投資信託、株式等の金融資産、その他諸々の財産をすべて合算します。この際、マイナスの財産である借金やお葬式費用などは差し引けます。ここで出た金額を「課税価格の合計」といいます。

次に②の手順。
「課税価格の合計」から「遺産に係る基礎控除額」を差し引きます。
「遺産に係る基礎控除額」の計算式は、「3,000万円+600万円×法定相続人数」です。

例えば、両親と子2人の4人家族のケースで父親が亡くなった場合、相続人は母親と2人の子の3人ですから、遺産に係る基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」。

つまり、①で計算した相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税はかからないというわけです。この場合、相続税の申告も必要ありません。9割以上の方はここで計算が終わることになるのです。

③の手順以降については、こちらの動画をご参照ください。

■相続を円滑にするための第一歩は、日頃からのコミュニケーション

今回は、相続が発生した際に知っておきたい、基本的な知識についてお伝えしました。

誰の身にもいつかは必ず発生する一方、人の「死」に関連するため、切り出しにくい話題です。特に核家族化が進む日本では、離れて暮らしている親子や兄弟姉妹間の交流が希薄になりがちで、お互いの状況や考え方がなかなか見えないものです。

こうしたコミュニケーション不足の状態で相続が発生しますと、お互いが気を遣いすぎたり、逆に自分の都合だけで話をしてくる親族がいたりして、話し合いがストレスになってしまいかねません。
だからこそ、日ごろからのコミュニケーションで、意思疎通を図っておくことが大切なのです。

今年はいつもと様子が違い、実家への帰省を見送る方も多いようですが、お盆やお正月などで親族が集まるタイミングは、意思疎通を図れる大切な時間です。オンラインを通じてでも、普段取れない家族間のコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。

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