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成年後見制度の見直し問題について ~人生の最後まで楽しく生きるために~

成年後見制度なんて聞くと、なんだか小難しい話のように感じますが、FPの学習にも出てくる「生活に関係する制度」の1つです。
何より、高齢化が進む日本において、自分や親などの認知機能が低下する可能性を考慮しておかないと、いろいろと面倒なことが発生しますから、誰もが知っておくべき制度でもあると思うのです。

そんなわけで、FPっぽくはないですが、人生の最後まで楽しく生きるためにも知っておきたい話題なので、今回は成年後見制度をテーマにします。


■成年後見制度とは?


そもそも成年後見制度とは、成人でありながらも判断能力が不十分な人の権利を守るための制度で、認知症などの人に代わって弁護士や司法書士などの専門家や家族などが「後見人」として、本人の財産管理などを行う仕組みです。

加齢とともに、心身の機能が衰えてしまうのは避けられません。
未成年の時は、親の同意なしで契約行為を行うことはできません。それと同じように、たとえ成人していても、認知症などで自分の判断能力が十分でないならば、そこには保護者がいる方が安心です。そして、その保護者の役割を担うのが成年後見人であり、そのルールを定めているのが成年後見制度というわけです。

問題はこの「保護者」を誰にするのかと、保護者の権限をどこまで認めるのかという点だと思うのですが、実際にこの点については課題や不満が多く、現在制度の見直しが進められています。

ちなみに、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
法定後見は、精神上の障害などによって、すでに判断能力が不十分である場合に、本人や一定の親族からの申し立てによって家庭裁判所が本人の法律行為を手助けする人物を選任するもの。一方の任意後見は、今は大丈夫だけど、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、事前に本人が契約によって将来の後見人を決めておくものです。

2025年には65歳以上の人の約5人に1人が認知症になるとも言われている世の中で、自分とは全く無関係とは言い切れないのは事実でしょう。

■なぜ、成年後見制度が見直されているのか?


この成年後見制度について、制度の見直しを検討することが法制審議会に諮問され、2024年4月から議論が続いています。現在すでに7回目までが終了しており、議論の内容はこちらから確認できます。

なぜ、見直しが検討されたのかというと、今の制度の使い勝手が悪く、あまりにも使われていないからです。

意思判断能力が低下する要因は様々ですが、典型的なケースは認知症です。
2025年には認知症の人が約700万人になると推計されていて、これは65歳以上の約5人に1人にあたります。
一方で、最高裁判所の資料によると、2023年末時点における成年後見制度(成年後見、保佐、補助及び任意後見)の利用者数は、累計で249,484人となっていて、本来必要とされる数に遠く及ばない状況なのです。
認知症高齢者のすべてが成年後見制度の利用が必要とは限りませんし、認知症高齢者以外でも制度の利用を必要とする人はいますが、それにしても利用が低迷している現実は明らかと言えそうです。

多くの人が「なるべく使いたくない」と思っている制度には、何か問題があるはず。見直す必要があるのは当然と言えるでしょう。
こうした現状を受けて行われている、法制審議会による見直しの論点は次のとおりです。

【見直しの論点】
・制度の利用に期間制を設ける仕組み
・後見人の権限を制限する仕組み
・後見人を交代しやすくする仕組み
・後見、保佐、補助の三類系の見直し
・後見人の報酬を決める際に考慮する要素

法制審議会-民法(成年後見等関係)部会より

■多くの人が利用をためらう理由


成年後見制度の利用が広がらない背景には様々な理由が言われますが、現在議論が進められている法制審議会が公表した検討課題から一部を抜粋するとこんな感じです。

●制度利用の動機となった課題が解決し、本人やその家族において、家族による支援やその他の支援によって制度利用の必要がなくなったと考える場合でも、判断能力が回復しない限り制度の利用が継続すること。

法制審議会-民法(成年後見等関係)部会より

⇒これはFPとして活動する中で、最優先に解決していただきたい課題です。典型的な場面の1つである相続手続きを例に挙げると、意思判断能力が無ければ遺産分割協議に参加できないため、「相続手続きを進める」という課題解決のために家庭裁判所に申し立てをして後見人を選任する必要があります。そして無事に手続きが終わって課題が解決したあとも、その方(被後見人)が亡くなるまではずっと後見人として存在することになります。
現在は、選任される多くが専門職の後見人(弁護士や司法書士、社会福祉士など)のため、後見人が存在する限り、家庭裁判所が定めた報酬がずっと支払い続けられるのです。

成年後見制度の実態については、先ほども触れた最高裁判所が毎年公表している「成年後見関係事件の概況」をご参照ください。

●本人にとって必要な限度を超えて、本人の行為能力が制限される場合があること。本人の自己決定の尊重を更に重視する観点からすると、成年後見制度の取消権(その前提としての同意権)や代理権が広すぎること。

●成年後見人等による代理権や財産管理権の行使が、本人の意思に反し、又は、本人の意思を無視して行われることで、本人の自律や自己決定に基づく権利行使が制約される場合があること。

法制審議会-民法(成年後見等関係)部会より

⇒この点は、2022年に国連からも問題として指摘され、「意思決定能力の評価に基づき障害者の法的能力の制限を許容する、現在の法規定の見直し」が勧告されています。

自分ではできないことを任せたり、悪意から本人を守ったりする必要があるのは当然ですが、一方で、自分でできることはできる限り自分でやるべきですし、その方が望ましいはずです。
成年後見制度を利用すると、本人の判断は大きく制限されてしまいます。サポートが必要ない部分にまで口を出されるのは、決して望ましい状況ではありません。

これら以外にもいろいろな課題が指摘されていますが、この2点だけを見ても、今のままでは使いたくないと思う人が多いのは仕方ないと思うのです。

■認知機能の低下に備えてやっておきたいこと

これ以上のことは、FPが語る内容ではないと思うので、興味のある方は先ほどご紹介した法制審議会の議事録などを確認してください。

法制審議会の部会は、すでに第7回目までが終了していて、議事録や参考資料もすべて公開されていますが、専門家以外はなかなか見ることがないですよね。

多くの人が不満に感じている、「利用を始めると原則やめられない」点や、「後見人の交代ができない」点など、少しでも使いやすい仕組みに変わることを期待したいと思います。

加齢とともに判断能力が衰えてしまうのは、誰にでも起こりうることです。
その時に何が問題になるのかを元気なうちに考えておくことは、非常に大切だと思います。

具体的には、次のようなことを考えておくのがいいのではないでしょうか。

●自分自身の財産を明確にしておくこと
●判断能力が衰えたときにどうしたいのか、どうして欲しいのかを周りの方に伝えておくこと
●財産管理については、信託制度などの活用も視野に、適切な仕組みを構築しておくこと
●相談できる(あるいは、財産管理を任せられる)専門家を見つけておくこと

自分に合った保険を考えることも、適正な資産運用を考えることも、教育資金や住宅資金の準備を考えることも大切ですが、人生のしめくくりで後悔をせず、人生の最後まで楽しく生きる状況を築きたいものです。

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