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賃貸と持ち家の総支払額から見る住宅の資産価値のお話

住まいに関わるお金の話と言えば、住宅購入を前提とした「頭金の貯め方」や「住宅ローンの組み方」や「住宅ローンの見直し」の話を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

子どもという立場で実家暮らしをしている人でも、親に家賃を払うケースはあるでしょうが、それでも多くの場合、実家を出て自分の住まいを確保する時に、初めて「住まいに掛かるコスト」を意識するようになります。
そしていつしか、買う方がいいのか?と賃貸のままの方がいいのか?という命題にぶつかります(ちょっと大げさですが・・・笑)
そこで今回は、自分で判断するための基本的な考え方についてお伝えいたします。

以下、長々と解説していますが、結論は「賃貸と持ち家の経済コストの比較は意味が無い」というだけの話です。あと、住宅ローンを組む際に気を付けるべき3つの大切なポイントを最後に書いておきました。

■自分にとっての住まいの位置づけ

生活における住まいの位置づけは人それぞれです。
実家に住み続ける人もいれば、賃貸住宅やシェアハウスなどに住むケースもあれば、社宅という方もいるでしょう。そして、その選択肢の1つに「住宅の購入」があります。

FPの学習の中で人生の三大資金の1つである「住宅」は、購入することが1つの目的になっているように見えます。
ただ、今の日本では、統計上総世帯数を超える住居が存在します。

総務省が公表している「住宅・土地統計調査(2018年)」によると、全国の総住宅数は約6,241万戸で、総世帯数は5,400万世帯。数字だけの単純比較はよくないものの、多くの空き家が存在している事実がある以上、持ち家の財産的な価値は昔と大きく違っているはずです。
ようするに、今の時代の住宅購入は、それ自体が目的なのではなく、あくまでも自分自身のライフプランにおける選択肢の1つだと考える感覚が大切かもしれません。

■家賃を支払い続けるのは「もったいない」のか?

住宅に関する相談をお受けしていると、「家賃を払っても何も残らないから、早く家を買わないともったいない」というご意見を聞くことがあります。
確かにごもっともなお話です。借りているものはいつまでたっても自分の財産にはなりません。

家賃相場は、家族構成や住む地域によって随分と違いますが、計算しやすいように毎月の家賃が100,000円の物件に住んだとしましょう。都市部ではともかく、郊外だと2LDK程度のファミリーマンションが借りられる価格です。例えば、この物件に30年間住んだ場合、「100,000円×12ヶ月×30年=3,600万円」が支払う家賃の総額です。ここでは途中の家賃変更や更新料などは無視します。

30年後、この家を出ていく時には何も残りませんから、住まいの財産価値は0円です。
でも、実際には、その時々の状況に合わせた引越しによって、経済的な負担を抑えたり、新たな出会いやかけがえのない思い出ができたりしていたかもしれません。自然災害で困った際には一時的に実家に避難するという選択肢を実現し、危機を乗り越えていたかもしれません。

住宅という財産は残らなくても、この間の自由度の高い暮らしぶりは、無形の財産と言えるかもしれません。

■住宅を購入した際の最終的なコストの総額と財産価値

一方の購入です。
賃貸と同じ条件で考えるためには、「頭金の無い状態」で比較しないといけないので、例えば3,000万円のマンションをフルローンで買ったと考えましょう。「頭金無しで住宅を買うなんてとんでもない!」という意見はごもっともですが、単純に比較するだけの題材ですから、気にしないでください。

さて、わかりやすく全期間固定金利の住宅ローン「フラット35」で見てみると、2020年6月時点の最頻金利は1.290%。ただ、融資率90%を超える場合は1.550%なので、こちらを使って「ボーナス払いなしの30年返済」で借りたとしましょう。返済額は月々約104,260円になります。

さて、このローンを最後まで返済しますと、総返済額は約3,753万円です。もちろん、これ以外にも固定資産税や都市計画税、火災保険料といった持ち家ならではのコストがかかります。マンションだと管理費や修繕積立金なども出てきます。仮に、固定資産税と都市計画税の合計を年額15万円と考えても、30年間では450万円ですから、それなりに大きな支出です。
30年間住んでいれば、修理が必要なところも一つや二つあったことでしょう。
30年間の総コストは、ローン返済と税金だけでも4,200万円ですから、家賃10万円の物件に30年住むケースより約600万円多くなります。

ただし、ローンが終わればその家は自分のものです。築30年の建物の財産価値はほとんど無いかもしれませんが、土地の資産価値が600万円以上あれば、持ち家の方が有利だったといえそうです。

■よくある「持ち家」と「賃貸」の比較自体に意味が無いのはなぜか?

ここまで話が終わると、持ち家の場合の最終的な資産価値が、賃貸のケースとの差額以上になっているのであれば持ち家の方が有利と言えそうですが、果たしてそうでしょうか?

先ほどのシミュレーションでは、賃貸の家賃が100,000円で、住宅ローン返済額は104,260円でした。
では、賃貸の人は差額の4,260円を30年間積み立てたとしましょう。
利息を無視した場合の積立金の合計は約153万円。仮に運用利率3%として計算すると約248万円になります。

ここまでの話を整理しましょう。
【賃貸のケース】
・支払額合計:3,600万円(+更新料等)
・資産価値:住宅ローンとの差額を積立てた金融資産が153万円~248万円
【持ち家のケース】
・支払額合計:4,203万円(+修繕費等)
・資産価値:30年後の土地の価値〇〇万円

賃貸のケースは、3,600万円の支出に対して約200万円の金融資産が残ると考えると、差引3,400万円が30年間の総コスト。
持ち家のケースは、4,203万円の支出に対して、土地の資産価値が800万円以上であれば、30年間の総コストは約3,400万円。
ただし、当然ですが、資産価値800万円は売却しないと手にできませんし、売却してしまうとその後の住まいには新たなコストがかかるかもしれません。

■結論:賃貸と持ち家の経済的な比較に意味は無い

ということで、冒頭でお伝えした通り、比較そのものにほとんど意味が無い、というのが結論です。
条件を少し変えるだけで結果が変わるというのが一番の理由ですが、それ以外にも途中に発生する様々な要素を無視してますし、経済価値以外の精神的・感情的な要素も無視していますから。
また、住宅ローンを組むと、住宅ローン減税の恩恵を受けることができますし、エコ住宅であれば光熱費も安くなるでしょう。

ようするに、「損得を考えても答えがでないから、自分や家族の気持ちを一番に、満足できる方を選びましょう」ということなのです。

■住宅ローンを組む際に気を付けるべき3つのこと

最後に一つ、住宅ローンを組む際の注意点を。
住宅ローンは、長期に渡って家計の固定支出に居座り続けるので、過剰な返済は避けるようにしてください。

じゃあいくらぐらいが妥当かといわれると難しくて、「手取り年収の20%以内に抑えるべき」といった一般的な目安はあるのですが、これにしても条件次第で変わるため一概には言えません。ただ、これまで多くの相談を受けている中で、最低限守りたい3つのポイントがあるので、それをお伝えして今回の記事を締めくくります。

1.遅くとも65歳までに完済できる計画を立てる
2.ボーナス払いは使わない
3.返済終了までのキャッシュフロー表を作成する


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