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バンジージャンプと教育論

とある出会いから、教育論を持つことになる。

教育論なんて、教育者の戯言だと思っていたが、人生を変える人間に出会った。

佐藤康生(仮名)、元大手企業の総務部長だ。
齢八十だが、教育論の必要性について語る。

佐藤氏は、教育論は人生を凝縮したものだと語る。

自分は何をしたいのか、相手にどうなってもらいたいか。
近い未来を導いてくれる方位磁針のようなものだと。

とにかく部下に幸せになってもらいたい。
そのために、わたしが何ができるのか。
そればっかり考えていた。
そう語る。

妻には迷惑ばかりかけたが。
苦笑いしながら、申し訳なさそうに語る様子が、幼子のようだった。
愛嬌があるところも、佐藤氏の魅力なのだろう。

他人に頼らなくても、経済的に自立できる人間の育成。

教育論は、分かりやすい方がいいという。
愛を分け与えるとか、個性を重視するとか、目標が遠すぎると手が届かない。
机上の空論になりがち。

そう語る。

愛を育むのは大切なこと。
個性を磨くのも大切なこと。
人生を楽しむのも大切なこと。

でも、分かりやすいのは、経済的に自立すること。
お金って必要でしょ。
笑ながら語る。

人に媚びながら働いたり、頭を下げて仕事もらったり。
そんな生き方、子どもにさせたいかい?

大人になったら、自分でお金を稼ぐ方法を身につけさせることでしょ。

愛とか個性とかっていうのは、大人になってから学ぶことじゃなく、子どもの頃に学んでおくことだからね。
今更何言ってるんだい?

言葉が胸に突き刺さった。
いいおじさんが、恋だの愛だの。
もっと言えば、褒められたいだの、個性を認めてほしいだの。
肩身が狭い思いをした。

しっかり稼いで、守るべきものを守る。
これが大人でしょ。
佐藤氏は続ける。

まー、今の時代の人からすれば、古い考え方なんだろうけどね。
老人の戯言だと思ってよ。
缶コーヒーを片手に笑顔で語る。

人の意見を押し付けられるの嫌でしょ?
実は、俺も嫌なんよ。
だから、これは俺だけの教育論。
他の人から見れば、偏屈なものかもしれんよね。

バンジージャンプでもしてみればいいよ。
人ってさ、死を直面したときに色々考えるから。
走馬灯っていうよね。

俺も自殺しようと思ったことがあってさ、ビルの屋上に立ったとき足がすくんでダメだったんだよ。
そのとき、いろいろ考えたよね。

産んでくれた親に申し訳ないとか、俺が死んだら妻はどうなるだろうとか。

奥さんと二人で手を繋いでレジャーをする姿を見ると、そんな生き方もいいなと思った。


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