見出し画像

『新時代の扉』に見る、ウマ娘だからこそ描ける物語

以前、ウマ娘3期のnoteを書きました。

結構がんばって書いたので、まだ読んでいない方は読んでいただけると嬉しい……ですが!
申し訳ないのを承知で、ウマ娘3期に関してはだいぶネガティブなことを言ってます。怒らないでね。褒めるべきところは褒めてるので。

その際、最後はこんな風にまとめました。

ウマ娘は特殊なコンテンツです。制約は多いものの、他では実現できない、質の高いエンターテインメントを提供できるポテンシャルを秘めています。

(中略)

 今のウマ娘にとって、一番良いメディアミックスの形とはなんなのか。今後も制作側が模索を続け、最適解を見つけることを祈っています。

「秀作の1期、傑作の2期を超えて、「アニメウマ娘3期」は何を描いたのか」より

さて、2024年5月、劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』が公開されました。

私の祈りは通じたのか。
観終わった率直な感想を言うと――よかった!!
よかったよ! めっちゃよかったよ~!

はい、これで終わってもいいんですが、せっかくなので魅力をもう少し話します。

まずは軽く紹介

知っての通り、ウマ娘はメディアミックスプロジェクトです。ソシャゲだけでなく、アニメや漫画、楽曲展開など、無数のプロジェクトの集合体で構成されています。

劇場版は、そんなウマ娘の全てが詰め込まれていると言っても過言ではありません。
ストーリーはアニメで好評だったスポ根路線を踏襲。ギャグシーンに泣けるシーン、史実を知っていると思わずニヤリとできるネタもふんだんに盛り込まれています。ライブもあるよ!

それでいて、あえて崩した作画によるギャグの表現やレース演出は、今までにない新たな領域へと足を踏み入れています。この辺は、CygamesPicturesだけでなく、TRIGGERなどからもスタッフを引っ張ってきている影響が大きそうですね。

とにもかくにも、ウマ娘の作品としてだけでなく、アニメーション作品としても非常に見どころの多い作品となりました。

ジャングルポケット

さて。今作の主人公はジャングルポケット。
ひょんなことから生で観戦したフジキセキの弥生賞を見て、自身もクラシックに挑戦することを決断。様々なライバルたちと切磋琢磨しながら、ウマ娘の頂点を目指します。

そんなジャングルポケット、今までのどの主人公とも似ていないキャラだと思います。
負けん気が強く、初対面の相手にもガツガツ突っかかっていくタイプ。その一方で、とある事情から「自分は最強になれない」と一人で抱え込んでしまう、繊細な心も持ち合わせています。スペやテイオー、キタサンやオグリなどとは似て非なるキャラクターなのです。

また、同期としてダンツフレームやマンハッタンカフェなども登場。中でも注目はアグネスタキオンです。ソシャゲではリリース当初から実装されており、以前から非常に人気のあったウマ娘です。彼女の活躍がアニメでフォーカスされるのは初めてで、歓喜したファンも多いでしょう。

そして、このあたりは後ほど書くのですが、『新時代の扉』はジャンポケとタキオンの関係性を特に深く描いています。そしてそれこそが、アニメ3期に欠如していたものを埋め合わせてくれたように感じるのです。

※以下、ネタバレ注意

「プランAの世界線」と「その先の可能性」

今作は基本的に史実通りのシナリオを描いているので、タキオンもそれに倣っています。ソシャゲユーザー向けに説明するなら、「プランAの世界線」と言ったところでしょうか。

史実を見聞きした方はご存知の通り、アグネスタキオンは類まれなる才能を持ちながら、怪我によってその真価を見せることなくターフを去った競走馬でした。

新馬戦から皐月賞に至るまで、同期を赤子の手をひねるように圧勝。ジャンポケもその被害者の一人であり、最後まで勝てないまま、ついぞリベンジの機会はありませんでした。この「勝ち逃げ」が、ジャンポケをじわじわと苦しめていくのです。

ぶつかり合う二人

……と、ここまで読んでいて気づいた方もいるかもしれません。「勝ち逃げ」ってどこかで聞いたな、と。
そう、アニメウマ娘3期のキタサンブラックも、ドゥラメンテに勝ち逃げされています。あちらは「またいつか再戦しようね」というノリだったので、キタサンの心に大きなわだかまりを残したわけではありません。

ですが、こちらはタキオン自らの意思で身を引いており、なんなら再び走る気はないと表明しています。ジャンポケもそれに憤慨し、長きにわたって引きずり続けるわけです。

この2作に似た要素が見られるのは偶然だと思いますが、それでも3期を見ていて様々な不満を抱えていた私にとっては、一つ胸のつかえが取れたように感じたのです。

なぜそう思ったのか?
その理由は、単純にクオリティーが高いのはもちろんですが、3期で中途半端だった諸々の要素に対して、今作はかなり真剣に向き合っているからだと思います。

先ほど、アニメ3期のキタサンとドゥラメンテについて話しましたが、あの二人の関係性を「史実そのままに」描いたのが、個人的には不満でした。

「いやいや、ウマ娘は史実路線がウケたんじゃないのか」と思うかもしれません。確かにその通りなんですが、じゃあまるっきり同じにすればいいのかというと、違うんですよ。

ウマ娘のアニメ作品では、冒頭に次のようなナレーションが挟まれます。

ウマ娘――彼女たちは、走るために生まれてきた。
時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。それが、彼女たちの運命。
この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して……

アニメ『ウマ娘 プリティーダービー SEASON 2』1話より

注目してほしいのは、後半の「この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない」という部分。
ウマ娘のストーリーは、確かに現実世界の出来事が「ベース」になっています。しかし、完コピしているわけではないのです。

史実を咀嚼し、そこに新たな解釈と物語を付与することで、競馬という巨大な群像劇を解体し、再構築する。
そこにウマ娘の面白さがあると思います。

3期が描いたキタサンとドゥラメンテの関係性は、確かに「史実そのまま」でした。ですが、逆に言えば、あまりにもそのまますぎて味気なかったのです。

一方、『新時代の扉』が描いたジャンポケとタキオンの関係性は、史実をベースに、新しい物語を加えています。

例えば、タキオンが身を引いた理由は、単に足の怪我が全てではない。
自分自身が無理をすれば、足を壊してしまうのは目に見えている。それだったら、同期の成長からウマ娘たちの可能性を追求するやり方だってあるじゃないか。

賢明なタキオンは、自らの同期に想いを託してターフを去った――ウマ娘だからこそ可能な、新たな解釈と物語が付与されているのです。

アグネスタキオン

また、それだけで終わらないのも今作の素晴らしいところ。
タキオンの冷静な心に再び火をつける存在こそが、主人公であるジャングルポケットです。彼女が現役最強のテイエムオペラオーに勝負を挑む姿を見て、タキオンは揺さぶられ、ウマ娘の本能のままに動き出します。

今作の最後では、史実から離れ、自分たちの歴史を刻んでいくジャンポケたちの姿が映されます。これはまさに、アニメ1期や2期でも描いていたもの。
結果として、私が大好きなウマ娘のアニメが帰ってきた……! と感じたわけです。

フジキセキ先輩、あなたって人は……

そういうわけで、『新時代の扉』は最高だったぜ!
……と、今度こそ終わりでもいいのですが、おまけとしてフジキセキ先輩の話を。

フジキセキはジャングルポケットの先輩であり、憧れの存在です。
そもそも、ジャンポケがレースに興味を持ったのは、フジキセキの弥生賞を見て、その走りに圧倒されたことがきっかけですからね。

そんなフジキセキ。史実ではフジキセキと同じスタッフがジャンポケを育てたので、縁が深いのはもちろんですが、4戦4勝での早期引退、同じサンデーサイレンス産駒という点で、アグネスタキオンとの共通点も多いのです。

今作ではフジキセキがジャンポケの心の支えになり、またジャンポケがフジキセキの気持ちを前に突き動かしていきます。タキオンとジャンポケの関係と並んで、映画では非常に重要な関係性であり、こちらも一つの見どころとなっています。

とってもいい先輩キャラなんですが、一つだけ、一つだけ言わせてほしいことがあるんです。それは……

先輩の勝負服姿

めちゃくちゃ真面目なシーンにドスケベ勝負服を持ってくるのはやめなさい!!

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,587件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?