#17. 他者に配慮する「当たり前」_吉田智之
1. 青少年施設の仕事
──お仕事はどのようなことをしていますか?
自分はさくらリビングの施設長をしています。施設には常勤と非常勤職員がいて、若者同士が気軽に参加して交流を図れるようなイベントを企画したり、ボランティア活動を通じて若者が地域の大人と交流できるよう、地域の方に協力を依頼したりしています。コロナ前は、たこ焼きパーティーなど食事のイベントも行なっていたようです。利用者の人たちとの雑談も、大切な業務です。
あとは細かい作業では、メールチェックや書類作成など、一般企業と似ているところも多いかもしれません。さくらリビングは、横浜市から委託を受けて運営しているため、報告に必要な事務作業もあります。
──なるほど、細かい作業が多そうですね。企画はどのように立てているのでしょうか?
やはりこの施設の目的に沿った形で企画しています。ただ単に若者たちを楽しませたいという理由だと、企画が通りません。
例えば「動物園に行く」企画を立てたとします。その場合、動物園の飼育員さんに仕事の話などを聞くような形だと、若者と地域の大人との接点が生まれ、職業について知識を深めることもできます。「何をやるか」は手段であって、「それを通してどうしたいか」がこの施設の運営趣旨に合うよう、企画を立てています。
──外部での活動はどのように行なっているのでしょうか。
横浜市の社会福祉協議会を介して、活動に協力してくれる団体を探したり、地域の方たちやNPO団体などに依頼して協力していただいたり、あるいは別の方が団体を紹介していただいたり、各々とのつながりの中で業務を進めています。
2. さくらリビングの在り方
──さくらリビングとはどのような場所なのでしょうか?
ここは皆さんぐらいの大学生はもちろん、中高生をメインとした24歳以下の若者のための施設です。スタジオやミーティング用のお部屋の貸し出しをベースにしつつ、フリースペースや自習室も提供し、学校や家とは違った過ごしやすい場所を提供してます。
──なるほど、学生さんが主に利用されているんですね!
ただ、お部屋貸しがメインの目的ではなく、地域との橋渡し役になるのが私達の本業になっています。ここで出会った若者たちに、例えば「地域のお祭りのお手伝いに行かないかな」とか、「ボランティア活動をやってみないかな」という形で声を掛け、地域活動・社会体験に参加してもらいたいと思っています。この活動の過程で、達成感やコミュニケーションの楽しさを味わってもらい、社会性や自立心を育んでもらうことが、施設の目的となっています。
3. 施設でのつながり
──施設では何か企画を行なっているのでしょうか。
少し前までは、たこ焼きを作ってみんなで食べたり、鍋を囲んでお話したり…ということもあったんですけど、コロナの影響もあってできなくなったことが増えました。今はボードゲームを置いておいて、遊びながら若者同士の交流を深めてもらおうと企画したり、趣味を同じくする若者たちをグループ化して交流を深めてもらったりしています。
また施設の外や、地域との関わりも大切にしていますね。施設の中だけでの交流だとちょっと足りないというか、やっぱり社会とつながってもらいたいという思いがありますね。
──楽しそうですね! みなさん、どのようなつながりでいらっしゃるのでしょうか。
大方は学校の先輩に聞いて、教えてもらって使うことが多いみたいですね。あとは友達に教えてもらったとか、小学生や中学生のときに訪れそのまま使っている人、お兄さんやお姉さんに教えてもらって来る人もいますね。今は利用者がピーク時より減少しているので、いろいろPRも行なっていますが、基本は元々のつながりから来てくれる人が多いです。
──利用者の方とはどのように交流されていますか?
入り口のホワイトボードに、クイズを日替わりで出しているのですが…。これを雑談のきっかけにして、ちょっとずつ会話することが多いですね。他愛もない話題で終わってしまうことも多いんですけど、その中で仲良くなると、色々と相談してくれる人もいます。ちょっと家族関係に悩んでるとか、友人関係で悩んでいるとか。解決してあげることはできないけど、少しでも心を軽くしてあげることができればと思っています。
4. 青少年施設に対する思い
──子ども・若者に関わる仕事は長くされているのでしょうか?
以前は、法人で運営する放課後児童施設を統括する部署に所属し、職員の勤怠管理や報告書作成などの事務を行なっていました。その前は、主に横浜市の小学生が宿泊体験学習を行う施設の所属でした。なので、こういう仕事には携わるようになって14、5年になりますね。
もともとは教育系の大学を出て、教員を目指していたのですが…。途中で学芸員として博物館で働こうと思ったところ、当時科学館を運営していたこの法人の募集を見つけ、応募しました。科学館ではなく、先に話した宿泊体験の施設で働くことになり、そこからずっとこの業界にいます。
──宿泊体験施設と、このセンターとの違いはなんでしょうか?
以前の場所は、毎日かわるがわる小学生たちが泊まりに来て、長くても2日間くらいの関わりでした。小学生だし、こちらが黙っていてもわーって話しかけてくれたんですけど…今の場所は対象が小学生よりも上で、大人しくなるので、そこの関わり方の違いはあると思います。
ここにきて4ヶ月になりますが、こちらから話しかけないと話してくれないような若者が、ちょっとしたことでも話しかけてくれるようになるのは、やっぱり嬉しいですね。
──このセンターに来てから、印象に残っているできごとはありますか?
関わっている子たちにとって、少しでも役に立ててたらいいなと思いながら仕事に取り組んでいます。夏に、高校生が職業体験・インターンでやってきて、その成果を高校で発表してくれました。発表の場で「無理に頑張らなくてもいいよ、できないことは言ってくれて、できることをやってくれればいいよ」と私たちスタッフが伝えたことによって、「肩の荷がおりました」と報告してくれたんです。その時に、少しこの子の役に立ったのかなという気がして、それが嬉しかったんですよね。それぐらいしか自分にはまだないけど、そういうのが積み重なったときは、やっぱりやってよかったと感じます。
5. 吉田さんにとっての「ふつう」とは
──ふつうとは何だと思われますか?
多様な若者と関わる職業ということもあって、「普通」という言葉をあまり使うべきではないとされています。自分の思っている「普通」が、全員に当てはまるわけではないということで、なるべく使わないように気を付けています。でも、やっぱり使っちゃうんですよね。頭ではわかってるけど、便利に使えてしまうというか。…だから、せめてこのインタビューのときには使わないように、気をつけようと思っていたんだけど笑。
そういう意味で言うと、自分にとっては「他者に配慮すること」が普通というか、良しとすることかと思いました。今話していて気がつきました。当たり前だからこそ、気がつかないものなのかもしれないです。たとえ「普通」という言葉を使ってしまった場合でも、他者に配慮して「自分はこう思う」と言い直すようにしています。この瞬間が、新しい普通に気づくタイミングになっているのかもしれません。
──ありがとうございました。
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