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「自社株買いと株式投資の留意点」について考えてみました

「自社株買いと株式投資の留意点」

7/10付けの日経新聞朝刊は、「株主リサーチ~自社株買い 強まる潮流」と題する記事で最近の自社株保有動向を伝えています。今回のメモでは自社株買いに関する株式投資での留意点を考えてみることにしました。

紙面によると、東証株主分布調査を引き合いに2019年度末の自社株式の比率は4.04%、前年度末から0.43ポイント上昇したと報じています。また、日経新聞調べでは、2019年度の自社株買い実施額は前年度比2割増の約7.3兆円とリーマンショック後で最高を記録。今年度はコロナショックの影響で実施額の激減が見込まれるものの、消却しなければ自社株の保有比率は増加し続けます。

自社株買いがこれまで増大している要因として、紙面は資本効率重視の流れを挙げています。企業側が自発的に取り組んでいるようにもみえますが、資本効率、株主還元に対する株主の目が厳しくなったことによる企業を取り巻く外部環境の変化が大きく影響し株主還元の一環として実施せざるをえなくなっている側面が強いようです。

紙面には一定の条件を設けたうえで、2019年度末の自社株式の保有比率が上昇した上位企業19社と保有比率・上昇幅が掲載されています。金融関連を除くと掲載企業にバリュー投資家が投資先として選考しそうな銘柄が目立つことも、外部環境の変化が大きく影響していることを示す証左なのではないでしょうか。

教科書的な自社株買いのメリットは、

①ROE(株主資本利益率)など資本効率の改善に役立つ

②株価が割安であるというマネジメント側のメッセージを伝えるうえで有用である

③M&A(合併/買収)の対価として、また、従業員報酬として活用できる  などです。

一方で自己株式の保有比率が大きくなりすぎると、市場での売り出しによる株式指標の希薄化も投資家サイドでは意識しなければなりません。個人的には保有比率が10%前後になると、株主は自己株式を意識してくるとみられます。こうした企業と投資家の意識のズレを解消する必要は従来以上に高まり、当然のことながら対話や企業による説明責任が重要性を増してきます。企業は、具体的な保有目的はもちろんのこと、保有期間を明示する格好で使わなかったら自己株式を消却する姿勢が求められることは言うまでもありません。

ところで、自社株取得に関して取得上限(株数・金額)と実施期間を設けますが、よく取得枠は設けたけれども一部しか買付しない企業もあります。「ヤルヤル」詐欺ではありませんが、実施状況の確認も重要なポイントとなります。なお、こうした資料は当該企業のホームページなどで確認できますので、閲覧をお勧めします。

最後に、自己株式の議決権は消滅するため大株主の存在する企業の少数株主にとって自己株式の大量保有は株主総会での議決に不利になるケースも想定されます。オーナー企業、親子上場の子会などがこの事例に該当。こうした企業ではより厳格なコーポレートガバナンス(CG)体制の構築と説明責任を求められます。CGで語られる「Comply or Explain(ルールに従え、従わないのであればその理由を説明せよ!)」ということになる訳です。

Malon, 7. 11. 2020 

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