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君の物語  7 足

ルゥに初めて会ったとき、片方の後ろ足がわずかに引きつっていた。
手術の後遺症だという。
「じきに良くなるんじゃないかな」
と保護した事務所の人たちは言っていた。
ルゥ自身も全く気にしない様子で、元気にピョンピョン走り回っていたし、
やがて引きつることはなくなった。

でも私たちはいつしか、ルゥの足に気を配るようになっていた。
他の一般的な猫に比べて跳躍が弱いということに気づいたから。
外で猫に会ったとき、テレビで猫を観たとき。
「あれ?こんなに跳べるんだ。そうなんだ、これが猫か。
そういえばルゥってこんなふうに跳ばないな。」

机くらいの高さから降りるときに、足を何度も踏み換えためらっているのを見ていたせいもある。
やっとのことで飛び降りても、見るからに緊張しているのでこちらもドキドキしてしまう。
だからルゥが高さのある場所から飛び降りるとき、みんなの視線は着地後の足取りに集中する。そうして問題なく歩いているのを確認すると、一様にホッとして目配せし合うのだった。

10才が近づいた頃には、降りるときに近くにいる人が椅子をさっと引いて
一段増やしてあげたりした。
間に合わないこともあるし、準備した椅子が空振りして使われずにそのまま飛び降りることもあるけれど。それはそれで構わない。

よく上り下りする姉妹のベッド脇には、サイドテーブルや小さな棚を追加。
これで大雑把な階段の出来上がり。
この不恰好な階段は使い勝手がよかったのか、登り降りしてくれた。

「猫なんだからこんなことしなくても大丈夫じゃないか?」という意見もあったが、万が一のことを考えると放っておけなかった。
だって、猫は痛くても「痛い」と言わないし、そんなそぶりも見せないというから。

左右どちらの足かは
忘れてしまいました

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