見出し画像

由利高原鉄道と秋田内陸縦貫鉄道 秋田の未乗路線制覇

スターアライアンス派の私が溜めていたANAのマイルもコロナ禍での延長措置が切れてとうとう2024年6月末が失効期限。GWには四国だったり仙台だったりに飛んで、あともう少しということでトクたびマイルで東北小旅行に行ってきました。

月山のウサギをイメージしたPRキャラクターのまめうさ。だだちゃ豆のだだちゃさんが相棒らしい。ちなみに庄内空港へはANAの羽田便のみが就航。山形空港は一方でJAL系のみが就航。流石県庁で伊丹と名古屋便もある一方、羽田便は新幹線と競合しているので少ない。両空港とも愛称は食をPRするためおいしい庄内空港、おいしい山形空港。

羽田から向かうのは山形県の庄内空港。山形県の日本海側の酒田市・鶴岡市を中心とする庄内地方の空港で、新幹線が通っていないけどそれなりの都市があるから飛行機需要がある。といっても今回の目的地は酒田でも鶴岡でもなく、空港連絡バスで酒田駅へ移動して、酒田駅から羽越本線で北上。

到着便にあわせて酒田と鶴岡へのシャトルバスが運行されている。
酒田駅から秋田へ。

羽越本線ははるか昔に完乗済みなので割愛。本州の背骨、西日本から北海道へ行く黄金ルートとして今でも貨物が主力のため、日本海側のローカル線ながら山陰本線とかとは違って全線電化。ただ旅客流動は厳しめで酒田以北は1日特急2本、普通列車は昼間は3時間に1本になるレベル。

北上する右手には鳥海山。標高2,236 m、見ての通り6月半ばで雪が残る。
穏やかな日本海も、冬は列車の運行を妨げる。

羽越本線を北上し今回の目的の1つである由利高原鉄道線に接続している羽後本荘駅へ。羽後本荘駅は秋田県由利本荘市の中心駅で特急も停車する。埼玉県に本庄駅があるので羽後国の本庄駅ということ。元々はこの地域は本荘町で、合併で由利郡の町村を吸収したので新しい市名は由利本荘市。羽後本荘駅では高校生ではない若者の多数乗降があり、おそらく秋田県立大学の学生だと思うけど珍しい風景でした。

由利高原鉄道線は羽後本荘駅の一番西側。構内でも繋がっているけれども、私は1日乗車券を購入するため一度改札へ。
片道普通運賃は610円なので、1往復で元が取れる。

由利高原鉄道は鳥海山ろく線を運行する第三セクター鉄道。鳥海山ろく線は羽後本荘駅~矢島駅の12駅、23km、片道約40分。全国ローカル線定番の国鉄末期に廃線候補となった赤字ローカル線を地元自治体が引き受けて存続させた第三セクター鉄道となる。

前郷駅ですれ違う車両。

三セク化する前は国鉄矢島線、その成り立ちとしては元々は内陸の横手と日本海側の本荘を結ぶ横荘線として計画されたもの。横手は現秋田県2位の都市で秋田県内陸南部の中心都市、さらに北上線で岩手県の北上、北上からは花巻経由の釜石線で釜石までと東北を横断する壮大な計画だったよう。

本荘側から建設された現鳥海山ろく線の前身となる区間は1922年に羽後本荘駅と前郷駅の区間で先行開業し、前郷からは老方経由で横手を目指す構想だった。その後国鉄に吸収され老方ではなく南の鳥海山方面に延伸、1937年に矢島線と改められて、翌1938年に矢島駅まで開業。

横手側はというと最初の区間の開業こそ横手駅から沼館駅の1918年に、その後1930年までに老方駅まで早々に延伸。矢島線とどこで差がついたのか、こちらは国鉄化されずに、地元の交通事業者である羽後交通の鉄道線として運行されていたものの、結局東西でつながることは無く1971年までに全線で廃線化されてしまった。そもそも日本海側と奥羽本線を接続する米坂線も陸羽西線も今は羽後交通のバス路線として横荘線に当たる横手駅と羽後本荘駅の間で運行されているものの、土休日は運休・平日3本というかなりの過疎路線。このルートで行くことも考えたけれど、土休日運休は流石に厳しいですね。

ホームへ行くとアテンダントさんがお出迎え。
路線愛称のおばこ。秋田犬と欲張りセット。
シートも由利本荘の組子細工模様をイメージ。現在3両が運行されていてそれぞれ異なるデザイン。

今回乗車したのは1日1往復だけあるアテンダントが乗車するおばこ列車。おばこというのは秋田弁で娘という意味らしく、絣を着ものをまとったアテンドさんが車窓についてのアナウンスしてくれる。利用者も観光客と地元民で10人くらい。路線の名前の通り鳥海山に向かって山麓を登っていくことになる。沿線はこれまた田んぼが広がる。

風が強い冬の風雪をよける壁がかなり広範囲の区間で設置できるようになっている。
子吉駅が最寄のTDKグループのTDKエレクトロニクスファクトリーズ本社。世界2位のシェアを誇る積層セラミックコンデンサ(MLCC)の主力拠点で、由利本荘市は秋田県有数工業都市で粗付加価値創造額は秋田県下1位の市、製造品出荷額でも人口4倍の秋田市に次いで2位。隣のにかほ市を合わせてTDK城下町を形成している。
黒沢駅最寄の森子大物忌神社が映画THE FIRST SLAM DUNKで山王工業の沢北栄治が参拝している神社のモデルと言われる聖地に。
クラウドファンディングで設置された世界一小さい駅待合室。最寄りの鳥海山木のおもちゃ館にちなんだものらしい。
曲沢駅からは鳥海山がよく見える。季節によって田んぼアートも作られるらしい。
吉沢駅は田んぼに囲まれた何もない立地。

途中の前郷駅では日本でも珍しいタブレット交換が見られる場所。アテンダントも案内してくれる。終点の矢島駅は観光拠点にもなっているようで名物おばあ様のまつ子さんが出迎えてくれる。話しかけてくれてもろこしを頂いてしまった。

前郷駅で上下線がすれ違い、それぞれタブレットを交換。
駅舎の中は簡単なカフェ、おみやげ物屋など。観光客の拠点にもなっている感じだった。
クラウドファンディングで手に入れたこけし駅長を設置できるようになっている。
矢島駅駅舎。
羽後本荘駅に戻ってきたときに貨物列車と並走。
羽越本線と対面乗り換えできます。
通学定期をほぼ半額に。高校生が乗らないローカル線は急速に衰退するイメージがあるのでいい施策。つり革オーナーもやってます。

鳥海山ろく線乗車後は羽越本線の秋田方面とは数分の接続。そのまま秋田駅へ。秋田駅では10分の乗り継ぎで駅そばを食べて、そのまま奥羽本線に飛び乗る。奥羽本線は秋田から山形経由で福島を結ぶ幹線ながら、これは日本全国同じ光景が見られるのだけど、1時間に1本程度で2両編成ともなると休日も部活や遊びで利用する高校生でかなり混んでいる。

秋田新幹線とすれ違う。

大曲で今度は田沢湖線に乗り継ぐ。田沢湖線もなかなかのローカル線で普通列車は1日7本、と言っても秋田新幹線が通る重要路線なのでしっかり整備されている。目的地は仙北市の角館駅とそこから出る秋田内陸縦貫鉄道。

この辺りはJR乗りつぶしで以前訪問済なのでそちらを参照ください。

秋田内陸縦貫鉄道の秋田内陸線はJR奥羽本線と接続する北秋田市の鷹巣駅(JRは鷹ノ巣駅)と秋田新幹線(JR田沢湖線)と接続する仙北市の角館駅を結ぶ94.2kmのかなり長めの路線。駅は29駅ありながら有人駅がそのうち鷹巣駅、角館駅と阿仁合駅の3しかないと言えばどういうところかわかると思う。

角館駅から鷹巣駅までは2時間40分くらいの度。15:33発で向かいます。
今回は阿仁合駅で外に出ようと思ってたのでこちらの切符。通しで乗るだけなら角館から鷹巣まで1700円。
1両編成のAN-8800形、日本中のローカル線でディーゼル車に兄弟がいるシリーズ。所属する全車両がそれぞれコンセプトデザインがことなる。これは1988年導入最初期のデザイン。

この路線もまた国鉄末期に分離された赤字ローカル線を引き継いだ第三セクター鉄道路線で、阿仁合線と角館線という二つの盲腸線が移管され、移管後にその2路線を繋ぐ新線を建設して、今の秋田内陸線の姿になった。秋田内陸縦貫鉄道という社名そのもので、海とは無縁。ただでさえ人がいない北東北のしかも内陸という険しさを隠せない。

秋田の内陸部は特に山深く、熊が多い地域でもある。沿線の阿仁地方はマタギ文化が伝承されてきたことから熊とは密接な関係。ただ熊は狩られる側だし笑顔で「ようこそ」とは絶対思ってないし、人間も熊には歓迎されたくないし、とんだブラックジョーク。

元々秋田内陸線に当たる路線は鷹角線構想から始まっている。先に開業したのが鷹巣駅から阿仁合に至る阿仁合線で、阿仁地方で産出される銅などの鉱物の輸送のため建設された。1936年には阿仁合駅まで、戦後1963年に比立内駅まで46kmの区間が開業。角館線はかなり遅く1970年に角館駅から松葉駅の19.2kmの区間が開業。この時代すでにモータリゼーションが到来し、秋田県は日本屈指の過疎化が進行する地域でもあり、鉱物資源の輸入拡大に阿仁鉱山も比較的早くに資源の枯渇という状況で、あっという間に阿仁合線と角館線は赤字で廃線候補となり、鷹角線として延伸工事も凍結。そもそも、今でこそ両端は「市」であるものの、平成の大合併までは鷹巣町と角館町で厳しさは明らかだったと思う。

赤字廃線候補となった両線は、といっても雪深い山間の地域においては特に冬場は貴重な交通機関として地域の通学や通院の足を確保が必要となるため地元自治体、地元金融機関などが出資する形で秋田内陸縦貫鉄道株式会社といして再スタートとなる。新会社移行後に凍結されていた鷹角線計画を引き継ぎ1989年に松葉駅と比立内駅の25kmの区間が繋がり、南北に分断されていた秋田内陸線が1本で結ばれ今の形になった。その後駅を増やして利用機会を増やしたり、サイクルトレイン、駅舎にお土産販売やカフェとか、観光列車など施策を導入。

角館からは桧木内川に沿って北上、田んぼが広がる長閑な山間という景色は良いものの、1両編成に乗客は私ともう1人だけ。この人も比立内駅で降りてから、阿仁合駅までは私1人の状態だった。そう考えると、三セク化後に南北が繋がって、秋田新幹線からの人の流動は限定的ながらあるんだろうなと。

私一人の時の車内。
秋田らしいものを調達。このきりたんぽカップスープは駅とかで売ってるけど、インスタント感がなくとても美味しかったです。これで600円だけど。

松葉駅から秋田内陸線後の開業区間に入り、戸沢駅と阿仁マタギ駅の間は新設区間らしく秋田内陸線はもちろん秋田県県でも最長の十二段トンネル(5,697m)を越える。この十二段峠から、水系も能代市で日本海にそそぐ米代川水系になり、比立内川と阿仁川に沿って進むことになる。ちなみに角館側は秋田市中心部で日本海にそそぐ雄物川水系で、地理的にも秋田県南北が分かれることになる。

山里をひた走る。
対向の急行もりよし3号。沿線のマタギの山、森吉山から。
阿仁のマタギは日本を代表するマタギ文化を継承しており、特に森吉山に近いこの阿仁マタギ駅はマタギが多い地域だったことに由来。
比立内駅手前の比立内鉄橋。
比立内駅が阿仁合線の終点だった。ちなみにこの地域の〇〇内は、アイヌ語の川の意味の~ナイに由来する。
笑内でおかしない。これもアイヌ語由来。阿仁地域のマタギ集落を代表する根子集落のアクセス駅らしい。
秋田内陸線の鉄橋で一番のハイライトが大又川橋梁。
阿仁川と並走。

阿仁合駅で18分の待機時間があり、阿仁合駅から5人くらい乗車。ようやく運転手と1対1の気まずさから解放。阿仁合駅は秋田内陸縦貫鉄道の本社と車両基地がおかれている拠点駅、駅舎も立派。時間は17時過ぎ時間だったので売店やカフェは終わっていて、開業時は鉱山で栄えた阿仁合町の中心駅と言えど、今は駅前も廃墟や空き地があったり寂しい山間の集落のただただ寂しい駅。

阿仁合駅。ちょうど北緯40度直下くらいにあるらしい。
この通り江戸時代から銅の産地として栄えていたらしい。
小渕駅手前の田んぼアート。子熊ですかね。
阿仁前田温泉駅。
駅前にヤマハの木材工場があってピアノとかの木材を加工しているらしい。
旧合川町の中心駅の合川駅。お祭りのオブジェ、ちょうど乗車日の翌日がお祭りだったようです。
秋田自動車道。この少し先に大館能代空港がある。
左のキャラクターは秋田内陸線のキャラクターないりっくん、右は縄文小ヶ田駅最寄の伊勢堂岱縄遺跡板状土偶のキャラクターいせどうくん。
鷹巣駅。JR鷹ノ巣駅と並んでいる。
18:15に鷹巣駅着。折り返しは比立内行きで、もうこの時間から角館までたどり着くことはできない。

秋田内陸線の本数はかなり限られていて急行や快速含めて通しで乗れるのは6本くらい。比立内・阿仁合折り返しがちょこちょこあって、ただ乗りとおすよりは途中下車してじっくり楽しむべきですね。あとは観光列車に力をいれていて、ゆったりと四季折々の沿線の花々、山の彩や、渓流の沿線の山の幸と秋田の文化など楽しめる観光列車が企画されていて、結構人気で予約がなかなか取れない。

鷹巣駅からは奥羽本線に乗って宿泊地のある弘前へ移動。翌日は津軽鉄道と弘南鉄道大鰐線に乗ります(正確には大鰐線はこの日の夜も乗っているのですが)。

由利高原鉄道と秋田内陸縦貫鉄道、わかりきってるけど両社とも大赤字で、補助金で収支をトントンに持っていく、第三セクター線としてはさもありなんという状況。

2023年3月度の収支を見ると由利高原鉄道は約6800万円の収入の内約半分が運賃収入で、諸費用で経常利益は9700万円の赤字。一方の秋田内陸縦貫鉄道は約1億4800万円の収入で3分の2が運賃収入、こちらの費用を引いた経常利益は約1億9300万円の赤字。さらに2024年3月期はコロナ禍からの回復があるもののコストが増え赤字額は数百万円ずつ拡大する見通しとのこと。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?