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伊勢金比羅参宮日記(6)

2月14日(17日目) 御油


 晴天。昼過ぎから雨が降り始める。新城出発。御油まで平坦な道が続いた。

御油

 この日、私の足が痛くて大難儀した。夕方、岡崎に到着。雨は益々強く降り続いた。

岡崎

 桔梗屋に泊まろうと訪ねたが、大変混み合っていて、仕方がないので銭屋という妓樓(女郎屋)に泊まった。この店は随分丁寧である。もっとも少しは女郎を勧めては来たが。

 赤坂(御油の少し先)から藤川まで駕篭に乗った。

赤坂
藤川

 岡崎の女郎達は、名前だけで矢張り飯盛売女(宿屋で旅人の給仕もし、売春も兼ねた女)である。

 新城から女性の風俗や言葉が関西風に変わって来て、やさしい感じである。

2月15日(18日目) 宮宿女郎海道第一


 朝8時頃から雨は上がり晴れてきた。町外れから駕篭に乗る。(ただし、鳴海まで)

池鯉鮒(ちりゅう)

 池鯉鮒(現:知立市)までの間に大浜茶屋という宿屋がある。この宿、休息処と書いてあるが宿屋である。これが以前、池鯉鮒宿との間に訴訟問題になった。結局、道中奉行から「足痛の旅人が休息し、またそのまま泊まってしまうことにおいては宜しい」というお達しが出て落ち着いた。両宿共に本陣があり、立派である。

 ここから桶狭間古戦場を一見する。ここまでの間の宿は落合村にある。鳴海絞を商う大家が多い。(ただし鳴海に宿は少ない)もっともこの品は江戸や田舎に行けば買えるのでここで買う必要はない。1反につき、江戸まで送るのに送料銭7歩もかかる。

「宮宿女郎海道第一」と聞きしに違わず、妓樓の華麗さ、娼婦の容姿、実に心目を驚かされた。ゴウド町金百匹、伝馬町金二朱である。ゴウド町永楽屋、鯛屋の両家は三都に負けていない。芸者、芸子は善を尽くし、美を尽くす。芸子は13、4歳の年齢で関東の踊り子である。その繁栄たるは流石は名古屋の花街と言われるだけのことはある。

 ここの娼は宿にも来てくれる。酒肴の代金はいくら、花代はいくらと言うが、これは単なる宿屋の番頭の案内であり、一晩中芸者を揚げて遊ぶといくらかかるのか、番頭としっかり座って掛け合って、先に値段をしっかりと決めておいた方が良い。

 その夜は、深夜2時に帰宅した。一緒にいた芸者は久松と小菊、芸子はせきとすらの両人ずつであった。

2月16日(19日目)熱田神宮


 快晴、宮宿を出発し熱田神宮へ参詣する。ここから名古屋まで1里の間、町続きである。


 名古屋は繁華であり、三都(江戸、京都、大坂)に並ぶ程である。且つお城、金の鯱(しゃちほこ)など一見の価値がある。

 この土地の言葉はことごとく「ナモシ、ナモシ」と言う。

 また、町内は、犬を飼わず、見付(番兵が見張るところ)もなく、火の見やぐらもない。これはここの君主に禁じられているからである。

 ここからはずっと町並みが続き、清洲を過ぎてから野道になり、名古屋から5里行ったところで津島に至る。津島は随分と良いところであり、宿屋もある。ここから25丁ほど堤づたいに歩き佐屋に至る。近江屋と言う宿に宿泊する。これを「佐屋廻り」という。

 津島や名古屋を見ないのであれば、宮宿から直ちに海路7里で桑名に到着する。便利ではあるが、津島や名古屋は一目見ないでおく訳にはいかない。そこまでの道も良い。

 佐屋から桑名への3里の船旅。この舟、午後4時以降は舟を出さないと言うが、正午にはもう船頭と宿屋がグルになって舟を出してくれない。1泊していくように勧められる。この辺はそういったところがあまり良くない土地なので、出来るだけ正午までには佐屋に到着しておくべきである。しかし、1泊するのも良い。(名古屋、津島あたりをのんびりと見学して、ちょっと休憩しただけで、宿代の半分くらいの値段を取る)

桑名

 舟行での乗り合いはあまり良くない。(値段は安いが、かなり混み合って窮屈である)5、6人で一艘を借り切るくらいがいいだろう。450文である。

 さてまた、この地へ京都の宿屋供が4、5人くらい来て居り、その連中が皆尋ねて来ては、家名を名乗り、京都に行くならうちの宿に泊まってくれと迫ってくる。うっかり相手の名前を聞いたりしてしまうと、長々と話を始める。またその中で聞いたことがある名だ、と言うものなら、その宿引きは直に手札を出し、後程、酒を持ってくるから是非口約束で良いからと益々宿を勧めてくるので困った。こういう時の断り方は、「京都までは行かずに、伊勢を参って帰るつもりだ。
 もしたとえ京都に行くようなことがあったとしても、自分の兄弟が京都に住んでいるので、そこを訪ねなければならない」ときっぱり断る。さらに宿屋まで押し掛けてくるような宿引きは、余計に取り合ってはならない。持参して来た酒などは必ず返却すること。戯れて呑んではいけない。この者たちは、遠くまで必要なものなど真心こめて買いに行ってくれたりしてくれるが、やたらと買物を勧めては棒先を切り(人に頼まれた買物のうわまえをはねる)、更にその上妓楼を勧めて2朱10里の女郎を百匹位に申しなす。様々な貪り方があるものである。


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