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2023年11月時点の米国経済に関する考察

米国経済にリセッションの大きな波が迫っている。

最近の米国のニュースは景気回復、力強い消費といったニュースをよく見かけるがその裏側で細々とリセッションを裏付ける内容が散見される。

米国の大手住宅情報サイトZillowでは米国の住宅市場がこれまでに無いほど高騰しているため、今住宅を買うと損益分岐点まで13.5年はかかると言っていて、米国の住宅価格はまだまだ高騰を続けている。
これはいつ価格崩壊を迎えるのか、そしてその時、米国経済に何が起きるのか。

2023年11月6日、米国大手4大銀行の1つであるシティグループのジェーン・フレイザーCEOはグループの全面改革戦略として大量解雇計画"Bora Bor"を発表した。

大量解雇プロジェクトという言葉を使わず、BoraBoraという俗称を使ってわからないようにしているが、シティグループはリストラに取り組もうとしている。

ファイナンシャル・アドバイザーの数で世界最多を誇る米国証券会社エドワード・ジョーンズのアナリストは『現時点でジェーン・フレイザーにできることは大幅な人員削減のみ。彼女は普通ではないことをする必要があり、それはシティの従業員にとって予想以上に大きく、予想以上の苦痛となる可能性が高い』と述べた。

ここでポイントになるのは、多くの人々が米国経済が力強いと思っているのに、シティグループが大量解雇の計画をしていることだ。

そこらの中小企業ではなく、米国4大銀行の一角が大量解雇を検討している。
米国経済に問題がなければこんな大きな銀行がリストラをする必要はない。
つまり、米国経済には今確実に不景気の波が忍び寄っている。

実際、第3四半期の米国GDPは+4.9%であったが第4四半期はその半分にも満たない可能性があり、場合によっては1/4になるという予測も出ている。

本来、第4四半期はブラックフライデー(小売店などで大規模な安売りが実施される感謝祭の翌日の金曜日)やクリスマスシーズンがあり、企業も銀行も稼ぎ時のはずだ。
だが、シティグループは第3四半期の段階でリストラを検討を進めている。

CNBCは独自のサプライチェーン調査の結果、『数千規模の小売業者の年末商戦の売り上げ見通しが低迷するだろう』と発表した。

従業員数という感点で見ると小売セクターは米国において最も大きな産業セクターだ。ここが苦境に陥ると失業者が大量に発生する。

この小売セクターの陥落が米国経済に大きなインパクトを起こすことは頭に入れておかなければならない。

年末に発生するはずの需要に大きな期待をしているのは米国だけではなく全世界だ。
だが、金融市場における銀行の貸出基準引上げや消費者が抱えている借入残高を考慮すると、消費者の需要はいつ消滅してもおかしくない。

米国の賃金上昇率も物価上昇率(CPI)を下回わっていて、消費者需要は悪化の一途をたどっている。

こういった点を考慮すると、2023年に関していえば年末商戦は人々が期待しているような結果にはならず、想像を絶するようなものになるだろう。

CNBCのサプライチェーン調査からは小売業者からの大口注文が少なくなっているという結果も見える。
これは前述した理由により個人消費の低迷が懸念されているからだろう。

残念ながら、この個人消費の低迷は米国だけではなく世界中で起きている。

CNBCの調査データ内の在庫数を見てみると、2020年のコロナショック時に生じたサプライチェーンの混乱によって積み上がった在庫が全く片付いていない。
つまり、小売業者は現在もなお、その在庫処理に追われている。

North American Surface Transportationの副社長ノア・ホフマンは『最大手の小売業者は過剰在庫の処理に取り組んでいるが、今度は過剰注文にならないよう注意している。』と述べている。

“The largest retailers are past working through their excess inventories, but careful not to over-order,”
Noah Hoffman (vice president for North American Surface Transportation)

Across thousands of retailers, holiday shopping outlook is sluggish (cnbc.com)

そしてこのCNBCの調査が示唆していることは、需要が第3四半期から第4四半期にかけて急激に失われてるということだ。
本来、大量の在庫が捌ける時期にも関わらず、小売/卸売セクターは在庫レベルが歴史上非常に高水準の状況にあるということを理解しておかないといけない。

そして、こういった在庫問題を抱えると新規受注が無くなり、シティグループのように大量解雇の大津波がやってきて、大きなリセッションがやってくるということだ。

過去のデータを見てみると、大きなリセッションの初期にはまず、新規受注の減少に少し遅れて失業率が上がっているのが分かる。

1990年のS&L危機(Saving &Loss Association:貯蓄貸付組合)、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショック、何れのケースもまず新規受注が大きく減り、次いで失業者が増えている。

2020年にはコロナの影響を受けて瞬間的に新規受注が大きく下がり、失業者数が大きく増加するというリセッションの兆候が発生したが、補助金等の政府政策によってリセッションを回避し、新規受注も僅かに回復、失業者数も減った。

だが、今回の調査では新規受注がまた下落していることが読み取れる。

米国大手運送会社であるC.H.Robinsonの経済チームはコロナショック時にばら撒かれた給付金の貯蓄はすでに使い果たされ、米国経済は個人消費の変曲点に近づいてきていると見ている。

C.H. Robinson’s economics team believes that the economy is approaching an inflection point in consumer spending as Americans deplete savings they built up from pandemic stimulus

Across thousands of retailers, holiday shopping outlook is sluggish (cnbc.com)

米国経済は米国政府が借金によって市場にマネーを投下し、投下したマネーが消費されることによって大きく成長してきた。

これはA Debt Based Monetary System/デットベースマネタリーシステム(信用創造)と呼ばれる借金によって経済が支えられる金融システムだが、問題の本質は米国政府が大量の借金をして市場にマネーを流しているにも関わらず個人消費が全く喚起されていないということだ。

個人消費が全くされていないのはローンやクレジットカードの支払い状況などのいくつかの先行指標を見れば、その兆候が分かる。

最近、銀行は貸出制限を始めた。これは言い換えれば借金によって市場に投入されるべき新たなキャッシュフローが抑制されているということだ。
そうなるとコレまで米国の成長を支え得ていた借金によって作り出されていた成長がなくり、成長が鈍化する。

また、現在、米国民のクレジットカード支払い延滞率は過去類を見ないほどの高さまで上昇している。
クレジットカードの支払い延滞率と小売売上高には強い相関があり、クレジットカードの支払い延滞が増加すると小売売上高が減少する。

大量に消費するこの時期に市場にキャッシュが流通していないということは人々が使うお金が無いということで、消費ができないということだ。個人消費の低迷が起きた後に起こることは失業者の増加だ。

需要が無ければ新規受注は無いし、販売に関する仕事もなくなる。仕事が無ければ従業員を雇っておく必要も無くなる。つまり、そう遠くないタイミングでまた失業者数が増えるということである。

第3四半期のGDPが+4.9%と異常なまでの成長を果たせたのはコロナショック時に行われたばら撒きによる貯蓄があったからだが、人々はそれを既に使い切ってしまい、かつ新たなキャッシュの流通が無いので需要が生み出されない。
需要がなければ売上は下がる一方だ。

小売業界からは『売り上げが右肩下がり』、『今年の年末商戦は終わった』といった声が上がっている。

『殆どの人は消費需要、金利、世界経済を巡る不確実性等、様々な要因によって2024年上半期の貨物量について前向きな見通しを持っていない。貨物量の回復は2024年来年下半期になるかもしれない』
と物流大手SEKOロジスティクスのCEOは述べている。

“With a lot of uncertainty around consumer demand, interest rates and the global economy, most people do not have a positive outlook on freight volumes in the first half of next year, but we could certainly see a rebound in the second half of next year,”
Brian Bourke, global chief commercial officer at SEKO Logistics.

Across thousands of retailers, holiday shopping outlook is sluggish (cnbc.com)

物流業界の経営状況は経済先行指標の一つで、ここが2024年上半期の見込みについてポジティブな見込みを立てていないとすると2024年上半期はリストラが加速度的に進行するだろう。

輸出入業者は今から来年はじめの交渉シーズンまでの輸送予算を計画する際に長期契約も短期的な観点でも注意すべきタイミングに来ている。

もし需要が戻ってこないなら貨物量も今より一気に下落する。
これはいわゆるデフレの入り口に差し掛かっていることを意味する。

そんな中でも、世界中の中央銀行は「今はデフレではなくインフレなので、まだまだ金利は高水準で維持しないといけない」という方針を崩さない。

経済、金融情報の配信、通信社、放送事業を手がける米国の大手総合情報サービス会社Bloombergの分析によるとイギリスは現在リセッションに陥っている可能性が高いそうだ。
そして、2023年下期は52%の確率でマイルドリセッションに入るとも述べている。

最近マイルドリセッションとかソフトランディングという言葉をよく聞くが、景気後退の速度が世の経営者やアナリスト達が想定していたよりも急激に進んでいる。

スタグネーション(stagnation=停滞)は景気が収縮していることを意味するがこれは景気サイクルの終盤で毎回起きる。世界の中央銀行が現在の状況は景気サイクルの終盤にいるとに気づいた時、金融市場はパニック状態に陥るだろう。

今、各国の中央銀行は『世界中で異常なまでのインフレが発生している。もっと長く高金利を維持して需要を抑制して物価上昇率を下げなければ』と思っているようだが、物価指数(CPI)の上昇率下落は間接的に失業者数を増やすことを意味している。

CPIが下落すると失業者数が増加していることが分かっている。
つまり世界中で中央銀行がやろうとしていることは失業者数を増やそうとしていると同義なのだ。
2000年のITバブル崩壊も2008年のリーマンショックもCPIが下落して失業者が増加している。

物価上昇率だけ減少できて失業率は上昇しないというマイルドリセッション、ソフトランディングという都合の良い現象は基本的には起きない。

問題は失業率が5%に達すると社会に大きな混乱が巻き起こる。
それが2024年に金融政策のパニックが発生する理由だと米国4大銀行の一角のバンカメ(Bank of America)
が語っている。

この発言のポイントは①失業率が5%を超えたら社会に大きな混乱が巻き起こる、②金融政策のパニックが2024年に発生するということの二つだ。

歴史を振り返ると失業率が5%に達するとFRBは金利を下げている。
1990年のS&L危機、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショック、どの経済危機でも失業率5%をきっかけにFRBは利下げを実行している。

そして2023年の今現在、この失業率がじりじりと上がり始めている。

11月1日の最新データでは予想失業率3.8%に対し、実質失業率は3.9%と予想を上回る失業率をマークした。

ちょっと前まで失業率は3.4%であったが、知らず知らずのうちに0.5%も上昇している。

米国ですでに社会的な混乱が起きていることは周知の事実だが、問題はこの段階に達すると金利を下げたとしても失業率上昇は止まらず、急上昇して行くということだ。
つまり米国経済は最早FRBの手に負えないレベル(Uncontrollable)まで来ている。

コレは皆が恐れていた米国の大不況が起きる兆候と言える。

そしてこの大不況は米国経済だけではなく世界経済全体に適用されることとなるだろう。

現在は皆がコロナショックに続く大不況に備える必要がある。

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