【絵本】『おとうさん』シャーロット・ゾロトウ
※この記事には絵本の内容が含まれます。ご自身で初めの感想を抱きたい方は閲覧にお気を付けくださいませ。
基本データ
題名:『おとうさん』
文 :シャーロット・ゾロトウ
絵 :ベン・シェクター
訳 :みらい なな
発行:童話屋
初版:2009/04/16
このお話について
主人公はまだ幼い「ぼく」。1ページ目は、椅子に腰掛ける男の子と母の一コマから始まります。母は目を瞑って裁縫を、ぼくは穏やかな顔をしてそれを見ています。
「ぼくには とうさんはいない。」
わずか冒頭1ページで、私たちは衝撃的な事実を知らされます。
「ぼく」の母は、いつも父のことを話してくれて、「ぼく」はそのお話をもとに、「いきていれば こんなとうさんだ」と語りだします。
「ぼく」と一緒に家を出る父さん、曲芸のようにお皿をくるくる回して楽しく片づける父さん、「ぼく」の友達を名前で呼んでくれて、しかもその子たちの好きなものや誕生日まで覚えてくれる優しい父さん、怖い夢の話も「うん、うん」と聞いてくれる父さん……。
優しく、強く、ユーモアのある父がページごとに描かれていくのですが、実は「ぼく」の生まれる前に父さんは亡くなっているのです。
このお話は、「ぼく」が何度も繰り返し「とうさん」に思いを馳せたからこそ、細密に描かれています。母から聞き伝えられた父の話は、思い描くたびに彼の心の中に「とうさん」を作っていくのです。
とうさんがいたら……とうさんがいたらきっと……。自分の心の中の父と、「ぼく」は思い出を重ねていく、少し切なくも映る描写です。
「とうさん」がいない理由
そして終盤に「ぼく」は母親から「とうさん」がいない理由を聞きました。
この理由は、英語版と日本語版で異なるようです。
※そのため、この絵本の巻末には、訳者である「みらい なな氏」からのメッセージが添えられています。
こういう時に原文が読めたら……と思い英語を勉強しなおそうかな、と思いますね。
感想
私達は、手のひらの中にあるものが見えなくなると不安になることが多いかもしれません。父親や母親、大切な友人、目の前からいなくなると一気に自分が一人ぼっちになったように思えてくるのです。しかし、心の中にその人を思い出し、そばに感じることは自分の意志で出来るのだと、この絵本を読んで思い出しました。無くなったかに思えるものについて想像を働かせるのは、時に酷でもありますが、私も「ぼく」のように記憶や思いを味方にできたらいいな、と少し前向きな気持ちになることができました。
文末リンクの商品の値段は、なかなかお高いのですが、おそらくお近くの図書館などにも置いてあるかと思います。もしよろしければ、感想などお教えいただけると、とても嬉しく思います。
この記事が少しでもあなたの何かに触れられたのであれば幸いです。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
enaguma 2022/08/29
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?