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呉エイジの随筆

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2023年4月の記事一覧

議題

議題

 その昔、営業で得意先の事務員さんに、担当者を待つ間、お茶を出してもらった。

 スレンダーな美人で、サッパリと嫌味のない、誰が見ても綺麗、と言うようなスタイリッシュな女性であった。

 とろけるような笑顔で、私に愛想を振りまいてくれたのだが、その美しい彼女の鼻からは、小さな鼻くそがこんにちはしていた。

 一瞬動悸が高まり、私は私の動揺を相手に悟られぬよう必死になって表情を抑え込んだ。

 相手

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しつけ

しつけ

 子供の頃の、親の言葉が思わぬ強迫観念になってしまっていることの一つや二つ、皆誰しもあることだろう。

 私の場合は幼稚園の頃だろうか。母親が間近に顔を突き合わせてきて。

「エイジ、お店で欲しい、と思ってお金を払わずに隠して持って帰るとな、警察に連れて行かれて暗い牢屋に入れられて、ずっと泣くことになるんやで」

 これである。

 大人の今になると、それほど大したこともない、他愛のないしつけの一

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逸材

逸材

 前に居た支店で、何の前触れもなく急に転勤となってしまった上司がいた。

 身長はゆうに190センチを超え、なかやまきんに君に比敵するガタイを持ち、風貌はみのもんたに似ているという、文章で表現すると脳内再生時にバグりそうな特徴だが、本当なのだから仕方がない。

 この上司、喫煙所(私はタバコを吸わないので、缶コーヒーでのお供になるのだが)などで二人きりになると、いつもとんでもない話題になり、これま

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言い争い

言い争い

 街中で、滅多に使わないがバスや電車の待合で、言い争いに出くわすと、つい聞き耳を立ててしまう。

 基本、人と人とが言い争って、こじれて、話がややこしくなっていく過程に面白みを感じる性分のようだ。

 あまりにシリアスなものは御免だが、しょうもないこと、答えがどっちに転んでもどうでもいいことに対して白熱した言い争いになってくると、私は隣で笑いを堪えるのに必死になる。

「どっちでもええやん!」

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女心

女心

 長年勤務した支店を離れる。サラリーマンならば、あることだろう。いくらそこで仲良くなっても、会社にはなんの関係もない。

 私も男、去るのは名残惜しかったが、元のスタッフから

「呉さん、異動したのに、ずっとこっちに連絡してきたりして、未練がましいわね」

 みたいに思われるのは、やはりこの、なんというか、ヤワな男に思われたくない、というプライドがあるのだ。

 そして風の噂で、元の支店で

『呉

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鉄板

鉄板

 鉄板ネタ、というわけでもないのだが、例えば人事異動などで、全く見知らぬ人たちに囲まれた環境で、さりげなく挟み込む私のお決まりの話題、と言うものがあって。

 それは、一刻も早くタイムカードを打つべく、せかせかと動き回っている時に、上司あたりが、

「呉くん、そんなに慌てて帰らなくても、ゆっくり帰り支度をしたらいいじゃないか」

 というパスが投げられた場合、私が決まっていうのは

「嫁さんが一緒

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高貴な女性

高貴な女性

 こんにちは。アウトプッター呉エイジです。

 今年は相棒の金平に宣言し、インプットよりもアウトプットの比率を多くしようイヤー、ということで、創作には程遠いですが、そう、随筆。呉エイジの随筆シリーズとして、ブログに書くほどのことでもない文章を、ここ、ノートにて手軽に書き残していこうかな、と思っています。

 読書でもそうです。インプットのつもりで読んでいても、読書というものは基本、娯楽なので、結局

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