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鉄板

 鉄板ネタ、というわけでもないのだが、例えば人事異動などで、全く見知らぬ人たちに囲まれた環境で、さりげなく挟み込む私のお決まりの話題、と言うものがあって。

 それは、一刻も早くタイムカードを打つべく、せかせかと動き回っている時に、上司あたりが、

「呉くん、そんなに慌てて帰らなくても、ゆっくり帰り支度をしたらいいじゃないか」

 というパスが投げられた場合、私が決まっていうのは

「嫁さんが一緒に風呂に入るために、私を待っているので」

 なのである。

 これは結構、職場がざわつくネタで。

「マジか、呉さんマジで帰って奥さんと一緒に風呂入るの?」

 みたいに、まだ関係性が薄い同僚からも熱量のこもったリアクションが得られ、そういう場合には食い気味に返すパターンがあって

「え? それなら○○さんは一緒に奥さんと風呂入らないの?」

「いやいや、入らないでしょ」

「なら、なんのため結婚したんですかぁっ!」

 と吠えるのだ。これは大抵職場が賑やかになってウケる。

 そしてこれを言うと、その後は上司も

「あっ、引き止めて悪かったね、奥さんがお風呂待ってるね」

 と、残業を気にして、早く帰らせてもらえる効果を生むのだ。周りも

「呉さん、早く帰った、帰った」

 と、笑いながら私を帰らせようとする。

 私がそういう中で、特に気にしているのが、美魔女事務員さんの反応である。

「呉さん、まだラブラブなんだ」

 瞳をキラキラさせて、そういう感想を投げかけてくる美魔女は、まだ旦那さんとラブラブである。逆に少し寂しそうに、

「呉さん、ラブラブだね」

 みたいな場合は、恐らくレスであろう。私はその事務員をしっとりした目で見つめるのである(笑)

 一緒に風呂に入るから、恋人みたいにラブラブです、と私は一言も言ってはいない。そんな風に思われては心外である。

 実際のところ、嫁さんは、家計から白髪染め代をケチるために、二人、全裸で風呂場の中で向かい合わせで座り、

「ゴラァ、動いたら雫が飛んで浴槽汚れるやろがぇ、じっとしとけ!」

 みたいに舌打ちされているのである。夫婦一緒に今でも風呂に入る。私は一言も皆に嘘は言っていない(号泣)

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