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しつけ

 子供の頃の、親の言葉が思わぬ強迫観念になってしまっていることの一つや二つ、皆誰しもあることだろう。

 私の場合は幼稚園の頃だろうか。母親が間近に顔を突き合わせてきて。

「エイジ、お店で欲しい、と思ってお金を払わずに隠して持って帰るとな、警察に連れて行かれて暗い牢屋に入れられて、ずっと泣くことになるんやで」

 これである。

 大人の今になると、それほど大したこともない、他愛のないしつけの一環としての脅し文句であろうが、子供の頃は大層恐ろしく感じたものだった。

 布団に潜り、警察がどれだけ恐ろしい所なのか、想像して夜中に一人、震えたものだった。

 幼稚園児を脅すには充分な破壊力であろう。これで万引きを抑制出来るのだから、安いものである。

 やはり物心つくまえが肝心か、と思う。小学校へ上がる前の。

「人を殺したら電気の椅子に座らされて、苦しみながら死ぬんやで」

「勉強せんかったらな、会社に入れなくて、橋の下で暮らすようになって、ゴミ箱から晩御飯を探すんやで」

 など、こうなると一種の呪いのようなものだ。幼少期にかけられた呪いは、成人しても行動を決定する。

 多くの犯罪は、しつけ、幼少期の脅しによって、幾分減るのではないか、とさえ思う。

 そこにあるのは想像だ。それをする事によって、自分がどのような目にあうのか。流れてくるニュースを観ていると、想像して行動しているのか? と思いたくなるようなニュースを時折目にする。

「エレベーターの前に、ミニスカートの綺麗な女性が立っていたので、どうしても見たくなり、スマホをかざしました」

 という教師。

「魚心あらば水心、の言葉の意味を教えたい一心で、単位と引き換えにごみょごみょ」

 などという、すっとぼけた持論を展開する大学教授などなど。

 欠如しているのは、やはり想像。空想する力だろう。

 犯罪を犯してしたった人間は、途中まで空想して、面倒くさくなって考えるのをやめ、行動してしまうのだろうか。

 幼い頃、おどしに似たしつけを、親から受けなかったのだろうか……。

 暗い廊下を警官に引っ張られて歩く。コンビニでうまい棒を万引きした罪で、私はパトカーに乗せられ警察に連行された。

 鉄製の重い扉を開ける男性警官は、中の上官と思われる人物に敬礼し、私を部屋の中へ突き飛ばす。

 後ろで扉の鍵が閉められた音が聞こえた。

 前を向くと美しい女性警官が立っていた。手にはムチを持っている。

「貴様が極悪万引き犯か」

「一番安いうまい棒を一個、失敬しただけで……」

 私が言い終わらぬうちに、ムチが飛んできて胸板に激痛が走る。

「脱げ」

「は?」

 口ごたえをした瞬間、再びムチが飛んできた。

「痛いっ、お願いです。言うことを聞きますから、ムチだけはやめて下さい」

 激痛の余り、私は赤いルージュの女性警察官に懇願する。

 ムチの素振りをしているので、私は慌てて着ているものを全部脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。両手で股間を隠して。

 またムチが飛んできた。素肌に走る激痛。速攻のみみず腫れ。

「気をつけの姿勢だ」

 私は涙目になって両腕を真っ直ぐ身体に沿わせる。

「この丸太にまたがれ」

「は、ハイッ」

 私は言われるがまま、丸太に似た乗り物に跨ると、両手両足を拘束された。

 身動きできぬまま、尻はだらしなく女性警察官の方を向いている。肛門が丸見えだ。

「社会人としてな、最低だぞ。万引きという行為は」

 尻の穴に激痛が走った。首をよじって確認すると、尻の付近で女性警察官は、私の尻の穴にピンポン大の紐付き五連アナルボールを押し込んでいる最中であった。

「たかがうまい棒一本でもな、沢山の人たちの労働の上で作られているんだ」

 言いながら女性警察官は、アナルボールを全て私の体内に押し込んでしまった。

 私の正面には鏡があった。苦悶に歪む私の表情。

「もうしないか?」

 肛門に張り裂けそうな痛み。

「どうだ」

 言いながらピンポン大のアナルボールを、一個ずつ引き抜いていく女性警察官。

 再び前の鏡を見る。そこには産卵するときに涙する亀の如く、苦しみに耐える姿が映し出されていた。

 今日も私は街を歩く。街には欲しい物が溢れている。が生憎私の懐には先立つ軍資金などない。

 それでも私は決して万引きなどしない。

 なぜなら魔が刺しそうな時には、いつも恐ろしい警察の事を空想しているから。

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