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【短編小説】溜池の子

 子供の頃、友人が居たのか居なかったのか、判然としない頃があった。1人遊んでいると、いつのまにか遊び相手がやってくる。そうして名前も訊かずに、遊び始める。そんな日々が続いた。
 遊ぶ内容も様々で、お決まりのものは何もなかった。公園の遊具で遊ぶことが多かったが、ままごとやかけっこをすることもあり、その日の気分や一緒に遊ぶ子供の数で遊びを決めていた。
 一緒に遊んだのが男の子なのか、女の子なのか。思い出そうとすると顔に靄がかかっているかの様に薄ぼんやりとして思い出せない。毎回同じ子だったかもしれないし、違う子だったかもしれない。兎に角、胡乱なのだ。
 そんな中、確かなこともある。
 遊ぶ場所は決まって溜池横の小さな公園だった。夏場になると蚊がぶんぶんと飛び回り、鬱陶しい思いをしたのを覚えている。

 そんな確かなことが少ない中で、私が最も印象的だった子のことを話そう。
 その子も、他の子の例に漏れず男か女か覚えていない。名前も分からず、その日限りの遊び相手であることに変わりはなかった。
 その子はいつの間にか公園内にぽつんと立っていた。私と他の子供達が遊ぶのをもじもじと遠巻きに眺めていた。
 誰となく「一緒に遊ぼう」と声をかけ、その子も輪の中に入ることとなった。
 丁度シーソーを代わりばんこに乗って遊んでいる時で、その子もシーソーに乗って一緒に跳ねていた。
 その子の代わりにシーソーに私が跨った時、違和感を覚えた。取手や座面がじっとりと濡れているのだ。
 汗にしては余りにも水分量が多く、手や尻に水気を感じるため多少の気持ち悪さを覚えながらも、遊びのリズムを崩したくなくて我慢して遊び続けた。
 シーソーに飽きて砂場に行こう誰かが言い出し、皆が移動する中私は集団の後方をついて行った。その時、地面の一部が濡れていることに気がついた。
 足跡の様に点々と黒く土が湿っており、その跡を辿るとやはり、後で加わったその子に続いている。
 何故、その子の居た後は濡れているのか?
 私はそのことを不思議に思いながらも、ただ遊びたい、楽しみたいという思いが先に立ち、結局日が暮れるまで気にせず遊び通した。
 夕方になって、1人また1人と去っていく中、その子は現れた時と同じ様に公園にぽつんと立ち、去っていく私達を寂しそうに見送っていた。その子が立つ地面の土は、やはり黒く湿っていた。

 その子は本当に人だったのか?
 大人になった今思えば、そんなことを考えてしまう。
 思い出すに、その子の居た跡は何処もかしこも湿っており、果たして大量の汗のでもかいていたのか?それとも終始漏らしでもしていたのか?などと考えると、それも現実味のない考えの様にも思える。
 あの公園の横にあった溜池。子供の頃は特に関心払ったこともなく、幼い頃の記憶故場所も曖昧なので調べることもできない。
 もしかしたら、溜池の精か霊かが現れて、私達と遊びたがったのではないか。などとオカルト好きな私は考えてしまうが、何の根拠もないことに変わりはない。
 結局何も分からぬまま、ただ不思議だなぁと終始首を傾げるのみである。

 今も昔も、あの頃の記憶はどれ程探ろうと曖昧なままだ。

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