暮 勇

趣味で細々と詩や小説などを書いてます。 どうぞよろしく。 Bluesky(https://bsky.app/profile/isamikure.bsky.social)

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マガジン

  • 短編小説集

    暮が書いた小話を纏めたもの

  • 読書記録

    暮の読書感想文集。

  • 映画鑑賞記録

    暮が観た映画の感想集。

  • 詩集

    散文の様な詩を集めたもの。

  • エッセイ集

    日々思ったことをつらつらと。

最近の記事

【短編小説】地蔵の気持ち

 この道に座して何年になるか。今の私にはもう分からなくなってしまった。しかし親切な人のお陰で、木の小屋を建ててくれたり、お供物をしてくれたりと、私の前で立ち止まる人は意外と絶えない。  私を道端で見つけた人々は、私に小さな願いを投げかけたりする。悪いことが起こらない様にだとか、子供が無事に過ごせる様にだとか、様々な願いをしていく。石塊から切り出されただけの私に何が出来る訳でもないが、せめてその願いを受け止めることくらいは出来る。受け止め、共に願えば、どんな小さな願いでも叶うか

    • 【短編小説】黒い椅子

       実家の納屋に、絶対に触ってはいけない椅子があった。木でできた椅子で真っ黒に塗られており、普段は納屋の奥で布をかけられている。  私は祖母と母の会話の端に出てきたその椅子の話を聞き、訊ねた。  「その椅子に触るとどうなるの?」  「怖いことが起こるのよ」  母は私の顔を見ずに、そう言った。  祖母が亡くなり、納屋の整理をしている時に、白い布をかけられた椅子が出てきた。布はくすんでおり、所々虫食いがあった。  怖いことが起こる。  私は母の言葉を思い出しながらも、ただの子供騙

      • 【短編小説】窓辺の彼女

         彼女はいつだって、窓辺に座る。窓にカーテンがひいてある場合はカーテンを開けて、外の風景を眺めながら、紅茶を啜る。  僕の様なアルバイトの店員のことなど、きっと眼中にはない彼女。濃い紺の、長いスカートに白いブラウス。今日の出立ちは夏を感じさせるものがある。  彼女には珍しくアイスのレモンティーを頼ませたこの暑さ。それでも彼女は日差しから逃れずに、窓辺で浴びている。  誰かを待っているのだろうか?  そう思ったことも幾度もあった。けれども、何分経とうとも誰も来る事はなく、カップ

        • 【短編小説】歳不相応

           貴女は、どう思うだろうか?  こんな私のことを。  いつもの散歩道。いつもの集会。いつものおしゃべりの後の、ちょっとした緊張の瞬間。  「よっ、恋する男は大変だね」  おしゃべり仲間のヤッさんが茶化してくる。ヤッさんは悪い奴じゃないが、こういう時に口を挟むのを忘れないのが少し憎らしい。  「ヤッさん、そういうのじゃ…」  「ほれ、はようせんと行ってしまうぞ」  こういうフォローも忘れないのがヤッさんのいいところでもある。  私は杖をせかせか動かし、彼女の横に立つ。  車椅

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        • 短編小説集
          31本
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          9本
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          4本
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          9本

        記事

          【読書記録】関心領域(マーティン・エイミス)

           おのれを「正常」だと信じ続ける強制収容所のナチ司令官、司令官の妻との不倫をもくろむ将校、死体処理の仕事をしながら生き延びるユダヤ人。それぞれの視点から滲み出る、人間の狂気と欲望の物語。  まず断っておきたいのは、映画とは全くの別物だということ。もし映画のことが知りたければ私が書いた記事【映画鑑賞記録】関心領域(ジョナサン・グレイザー監督)の方を読んでいただくと、あらすじくらいは拾えるかもしれない。 ※リンクを貼っておきます。興味があればぜひ。  物語は立場の違う複数の

          【読書記録】関心領域(マーティン・エイミス)

          【短編小説】おじさん

           バスに乗っていた。  変わり映えない風景を眺めていると、おじさんが1人、乗ってきた。  なんてことはない。  私はまた過ぎゆく車窓を眺めていた。そうすると、おじさんがまた1人、乗ってきた。おじさんはバス車内をぐるりと眺め、最初に乗ったおじさんの横に腰を下ろした。  おじさん同士は会釈をし、そのままかと思っていると会話を始めた。  どうやら知り合い同士だったらしい。「暑いですなぁ」を皮切りに、会話は弾んだ。ややうるさめだが、楽しそうなので誰も邪魔しない。  私はにわかに、おじ

          【短編小説】おじさん

          【短編小説】走り去る

           深夜1時。唸るエンジン。地を蹴る二輪。  それは疾走する黒い影。  夜闇に紛れた姿は見えず。残る足跡はテールランプのみ。  彼が来て、彼が去る。  これはただ、それだけのこと。  その人のことを、私は知らない。  どこからやって来て、どこに向かっているのかも、私には分からない。  3ヶ月前、雨が降る中横転した青いバイク。飛び散る破片。空回りするエンジン。動かない彼。  その顔はまるで眠る様に安らかで、新手の自殺なのかと思われる程だった。  ただ、助け起こそうとしただけの関

          【短編小説】走り去る

          【短編小説】わらび餅

           子供の頃から、わらび餅が好きだった。  透き通るわらび餅をようじに突き刺し、きな粉を塗す。  子供の頃の、ちょっとした贅沢だった。  今では、あれが結構安くて、スーパーに行けばいつでも手に入るものだということ知ってしまった。  昔の様な贅沢感は無くなった。  それでも、私はわらび餅が好きだ。  何かのイベントごとがある度、私はわらび餅を買ってしまう。子供の頃の贅沢な気持ちを少し思い出せて、ほっこりするのだ。  初めて彼氏が出来た時、結婚した時、別れた時。  喜びとも悲しみ

          【短編小説】わらび餅

          【短編小説】誘うもの

           祐子には悩みがあった。  それはいつだって前触れなく彼女の前に現れて、身勝手に振る舞う。振る舞うと言ってもただ指をさすだけなのだが、これが厄介で、無視すればそれは露骨に機嫌が悪くなる。それを見せられるのが何とも鬱陶しいというか疾しいというか。  それとは、少年の姿をしていた。ブルーのシャツに紺の短パン。髪は短く整っており、良家の坊ちゃんといった風貌だ。  その少年が現れる時、祐子は大抵慌てている。学校に遅れそうだったり、電車に乗り遅れそうだったりとか、そんなタイミングで彼は

          【短編小説】誘うもの

          【読書記録】神様が殺してくれる(森博嗣)

           パリでの殺人事件から端を発する連続殺人事件を追うインターポールの主人公の物語。  主人公の手記を読み解いていく形の物語となっており、主観的に書かれた文章には想像させられる余地を含む部分が多々あった。  ミステリとしては王道感もあり、舞台も国際的な広がりを見せるので読み応えもしっかり。  最後半は怒涛の展開で、犯人に繋がるトリックや伏線が一気に回収されていく様にすっきりとした気分を思わせてくれる。  ミステリを久々にしっかり読んだなと思わせてくれた一冊です。

          【読書記録】神様が殺してくれる(森博嗣)

          【映画鑑賞記録】関心領域(ジョナサン・グレイザー監督)

           アウシュビッツ収容所と壁一枚隔てた家に住む家族の記録。  緑に囲まれた庭園と白い家、幸せな家族が無視し続ける壁の向こうの非日常に背筋が寒くなる。それでも無視しきれない部分(壁の向こうからの怒号や焼却で出た灰など)が“日常”に染み出したり。  映画を見ていく中で主人公の男性はアウシュビッツ収容所の司令官としての仕事を奥さんに話したり、子供たちが囚人と看守ごっこで遊んでたりなど、所々ヤベェと思わせる演出が固定カメラで淡々と流れていく。  また、壁の中では何が行われているの

          【映画鑑賞記録】関心領域(ジョナサン・グレイザー監督)

          【短編小説】蚊のおかげ?

           ぶんぶんと不快な羽音を耳元で立てながら、蚊は顔の周りをふわふわ飛び回る。えいやっ、と思って両手で挟んでも、指の隙間からするりと何事もないかの様に飛び去ってゆく。  私は蚊が嫌いだ。そもそも好きな人間がいるのかどうか怪しいところだけれど。私としては滅んで欲しい生物の5本指には当然入る、といった感じ。  毎年夏になると誰もが悩まされるこの生き物。血を吸うだけなら100歩譲っていいとしても、痒みと腫れを残していく。皮膚が弱い私は蚊に噛まれただけで青タンのようになってしまう。虫除け

          【短編小説】蚊のおかげ?

          【読書記録】ゴジラS.P(円城塔)

           2030年、逃尾市に現れた1匹の“怪獣”から端を発する物語。  Netflixアニメ「ゴジラS.P」と共に物語を相互補完する様な形だなというのが正直な感想。アニメを先に観ていたので、アニメにはない話の細かな点やアニメでは勢いよく流れていった話の内容が詳しく読めるといった感じ。  登場人物ごとに背景などが語られてる点も、アニメでは詳しく描かれていなかったので有り難かった。  また、読むのが難しいイメージの円城塔作品の中では、群を抜いて読みやすくなっている印象。SF作家だか

          【読書記録】ゴジラS.P(円城塔)

          【詩】踏みにじるもの

           踏みにじるもの  卒業式の日に、私を無視して  人気の子とばかり話す教師  授業で習ったばかりの指揮の振り方  真似てたら鼻で笑ったあの子  庭で育てた大切なトマトを  目の前でつまんでゆくカラス  プライド?意地?それとも沽券?  それは今でも分からないけど  確かにあの瞬間  私は、踏みにじられました  覚えてますか?  その足裏の、感触を

          【詩】踏みにじるもの

          【映画鑑賞記録】ゴールデンカムイ(久保茂昭監督)

           明治末期の北海道を舞台にアイヌ埋蔵金争奪戦の行方を描いた野田サトルの大ヒット漫画を実写映画化した作品。  前評判碌なの聞いてなかったせいで期待値低かったけど、思った以上に良かった。  アクションは勿論しっかりしてたし、キャラも再現度高いんじゃないかと思う。  個人的には舘ひろしの土方がカッコよくて堪らんかった。  グロめの描写も臆せずやってるのは高評価。  話もしっかり纏まってて、続編があるなら期待したいなぁと思わせる。  後個人的に思ったのは、衣装が綺麗なのは多分キ

          【映画鑑賞記録】ゴールデンカムイ(久保茂昭監督)

          【短編小説】ナマの音楽

           古ぼけたライブハウスには、その古さに見合わない若い客で溢れかえっていた。  皆”ナマ“の音楽ってやつを聴きたいらしい。  俺はステージ袖でぼんやりと、熱気で烟る会場の様子を冷ややかに見ていた。  世間では、もうミュージシャンは絶えて久しい。  自分の聴きたい音楽は自分で作ればいい。そんな思いを叶えてくれるコンピューターソフトやスマホアプリが開発されたことで、俺たちミュージシャンはトドメを刺された。  声も楽器も何もかも、自分の希望を吹き込めばそのソフトが一瞬で自分に合った

          【短編小説】ナマの音楽