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【読書記録】関心領域(マーティン・エイミス)

 おのれを「正常」だと信じ続ける強制収容所のナチ司令官、司令官の妻との不倫をもくろむ将校、死体処理の仕事をしながら生き延びるユダヤ人。それぞれの視点から滲み出る、人間の狂気と欲望の物語。

 まず断っておきたいのは、映画とは全くの別物だということ。もし映画のことが知りたければ私が書いた記事【映画鑑賞記録】関心領域(ジョナサン・グレイザー監督)の方を読んでいただくと、あらすじくらいは拾えるかもしれない。

※リンクを貼っておきます。興味があればぜひ。



 物語は立場の違う複数の語り手を行ったり来たりする形式。the zone of interest(原題)=アウシュビッツ収容所周辺での出来事をナチス政権下末期からその崩壊後までを各視点で描いている。

 収容所内の凄惨な出来事に関する惰性感。対照的に、裕福な日常の中で剥き出しになる本能。「戦争だから」と言って切り捨てるには余りにも悍ましい物語。
 語り手の中にはあらすじにもある様に、収容所内で生き延びるユダヤ人の様な被支配的な立場の者も居るが、その者達ですらアウシュビッツ内での惨事に対する慣れと、鈍麻していく感覚に読んでいて辛さを感じる。

  加害者から被害者まで、どこまでも救いようのない「戦争」のあり様を見せつけられる。そんな1冊でした。

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