【短編小説】窓辺の彼女
彼女はいつだって、窓辺に座る。窓にカーテンがひいてある場合はカーテンを開けて、外の風景を眺めながら、紅茶を啜る。
僕の様なアルバイトの店員のことなど、きっと眼中にはない彼女。濃い紺の、長いスカートに白いブラウス。今日の出立ちは夏を感じさせるものがある。
彼女には珍しくアイスのレモンティーを頼ませたこの暑さ。それでも彼女は日差しから逃れずに、窓辺で浴びている。
誰かを待っているのだろうか?
そう思ったことも幾度もあった。けれども、何分経とうとも誰も来る事はなく、カップが空になると彼女は出ていく。
彼女は今も飽きることなく窓の外を眺めている。郊外にある店なので、窓の外を行き交うのは近所の人くらいなもの。物珍しいものは特にない。
どんなに気になっていても、僕が彼女にその理由を尋ねる事はない。お客さんに見知らぬ店員が「何をしているの?」などと話しかけるなんて、失礼と言うものだろう。
だから僕にできる唯一のことは、窓辺の席に案内することと、飲み物を運ぶことだけだ。
「アイスレモンティーです」
僕はそれだけを言い、グラスを置く。彼女も「ありがとう」とだけ言い、ストローに口をつける。
僕らの接触はそれで終わり、あとは静かに時間が過ぎていくのみ。今日も僕はカウンター内で他のお客さんの置いていったグラスを磨き、彼女は窓の外を眺める。
僕らにとって、何でもない1日だ。
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