《日付のある文章》蒲団を干すには向いてない日

2021年5月13日、小雨、薄明かり。スーパーで次のものを買う。サラダチキン(プレーン)、豆乳、納豆、チョコレート、おっとっと、ポテトチップス。傘をさしていない人も時折見かけ、また建物の庇の下、濡れない場所でユニセフ募金をやっていた。そのうち雨は止むかもしれないが、蒲団を干すには向いてない日。

昨日、つまり5月12日、ソフトバンクグループの決算発表があり、純利益が4兆9879億円だった。これは日本企業として過去最高だという。約5兆なので、いやはやすごい、と思うけれど、純利益は実は「現金=キャッシュ」ではないということに注意したい。ニュースによると、<世界的な株価の上昇で投資先の海外新興企業の評価が上がり>ということなので、株価が上がっている会社の株をいっぱい持ってるな、決算に合わせて評価したら、こんなんだったわ、という話だと思う。

では、キャッシュはいくらじゃ、というわけで、見てみましょう。
ソフトバンクグループ決算短信

2021年3月、4兆6627億円。
2020年3月、3兆3690億円
よって、1年あたりで現金を1兆2937億円ほど増やしたわけですね。(すごいじゃん、端数を分けてほしい)。本当は、競合する会社と比較して、どんだけすごいのよっていうのを見た方がいいですが、そこまで興味わかないので、このあたりでお茶を濁す。

世界保健機関(WHO)の独立調査パネルは12日、新型コロナウイルス対応について検証した最終報告書を公表した。WHOや各国政府の初動に問題があったとし、パンデミックは回避可能だったとの見解を示した。

   BBCニュース(リンク)

「12日」というのは、昨日のことで、つまり5月12日。回避可能だったのに回避できなかった。個人にしても、経験することだ。ゆえにこんな諺がある「後悔先に立たず」。世界はこれからどのように変わるか。

ところで「独立調査パネル」とは何ぞや、と思ったが「独立調査委員会」と書いてあるものもあるので、まあ、調査する人たちの集まりってことですね。そして、この「独立調査パネル」は、2020年7月13日に発足されている。なので、約11ヶ月の調査期間であった。

今日は花袋忌、つまり田山花袋の死んだ日である。昭和5年、1930年5月13日に亡くなっている。

田山花袋の小説を一つあげよ、と言われれば『蒲団』だろう。読んだこともない小説と作家を覚えているというのも妙だが、試験に出たので覚えたのかもしれない。

妻子ある小説家らしき男が女弟子に恋して、面影を追う、らしい。現在では、炎上案件ですね。

時雄は机の抽斗(ひきだし)を明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂(にお)いを嗅かいだ。暫(しばらく)して立上って襖を明けてみた。大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡(から)げてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団(ふとん)――萌黄唐草(もえぎからくさ)の敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟(えり)の天鵞絨(びろうど)の際立(きわだっ)て汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅かいだ。

   田山花袋『蒲団』(青空文庫リンク

記憶というか誰かに教えてもらった結末では、このあと男は蒲団に顔を埋めて匂いを嗅ぎながら泣くのだったか。だけれど、本文を読むと違うことがわかる。

 性慾と悲哀と絶望とが忽(たちま)ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
 薄暗い一室、戸外には風が吹暴(ふきあ)れていた。

男は、蒲団ではなく女弟子のパジャマの襟に顔を埋めて泣いたのだった、蒲団の上で。蒲団ではなく、パジャマの汚れた襟に顔を埋めたのである。果たして顔が埋まるのかどうかわからないが。

ところで、田山花袋は森鴎外と明治三十七年、つまり1904年3月29日に広島で会っているらしい。私は手元の鴎外全集から明治三十七年の日記を探したが、なかった。『小倉日記』は明治三十五年三月二十八日におわり、全集内では次に『明治四十一年日記』がはじまっている。鴎外なら、明治三十七年の日記もありそうなものだが。

昨日、鴎外が解雇した女中のたかは、途方に暮れているだろうか。もしかしたら幼い弟や妹がいるのかもしれず、給金で養っていたかもしれない。これからどうやって生活していけばよいのか、そんな風にぼんやり考えているだろうか。

   花袋忌にユニセフ百円惜しむなり

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